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17.戦争の準備をしよう

 本部から四人で遊牧民の村へ向かう。急ぐために全員馬に乗っている。マール君には無理をさせたし、あまり急がない様に気を付ける。


「……おでかけ、おでかけ~」と、リズさんは楽しそうだが、今がどういう状況か分かっているのだろうか。こうしている間にも、リズさんの部屋には書類が溜まっている。帰ったら凄い事になるだろう……。


 途中で敦煌の砦を築くための資材を準備しておく。石とか木材とかは、マジックバックがあるお陰で簡単に運べる。


 建築予定地を確認しながら、その辺に置いていく事にしよう。後は任せた。


 ともあれ、何の問題も無く遊牧民の村に着いた。


「へえ……これはまた、寂れた場所だな」ジェームスが感想を漏らす。


 まあ、そう言うな。そのうち立派にしてやるから。



 お爺さんの所に行くと、数人の村人と打ち合わせ中だった。クリルタイの相談かな?


「ただいま、お爺さん。メンバーの皆を連れてきました」挨拶しながら全員を紹介する。


「……という訳で、魔法と魔道具の専門家を呼んできました。何か力になれると思います」

「おお、こんな所まで、ようお越し下さった。わしがこの村の族長ですわい。お嬢には、いつもお世話になりっぱなしで……」何だか照れくさい。


『……時間が無い。挨拶はそれ位にして、用意して欲しい事がある』


 団長は挨拶もそこそこに、例の作戦を説明する。


「……という訳で、他の部族へ協力を依頼したいんですけど。どうでしょう?」

「わし等もな、それは考えておった。既に顔見知りの所には、使いを出しておる」


 流石はハーンの一族、そこら辺は既に対応済だったらしい。


「……ふむ、なるほど。それは何とかなるじゃろう。どちらかと言うと、足を使った行動でないと、わし等が不利になる。遊牧民にとって、馬は足と同じじゃわい。幾らでも走れるぞ」と、お爺さんの騎馬隊での側面攻撃に対する力強いお言葉。


「……だがな、どうしても他の村との、足並みが揃わん。幾ら早く走ろうとも、それでは勝てん」お爺さんが今の状況を説明する。何か、勝てる要素を考えて提示しなければ……。


「爺さん、その『墓所』って所には、大量の『魔導石』があると聞いたんだが……」ジェームスは一気に核心に触れる。


 デリケートな問題だが、避けて通る訳にもいかない。此方のアドバンテージは、最大限に生かさないと。


「皆の者、こちらの方々はお嬢が選んだ、信用のおける仲間じゃ。決して悪いようにはせん」お爺ちゃんがフォロー。


「直ぐにどれ位の『魔導石』を用意出来る?」と、確認するジェームス。何か策があるようだ。


「そうじゃな、昨晩の砂嵐で、地表に現れておるはずじゃ。前にお嬢に渡した物と、同じ位で良いのか?」

「いや、使い捨てになるかもしれない。小さめので構わない、大量に……六千個位、用意出来るか?」


 何を作るつもりだろう?


 お爺さんは、村人と相談して少し考えた後「ふむ。まあ、三日もあれば用意出来るだろう」と、言った。


「で、ジェームス。何を作るつもりなの?」

「とりあえず、直ぐにでも使える物が必要だろう。銃なんか用意しても訓練時間が無い。だから、矢を作る」


 なるほど、矢に仕掛けをすれば今すぐにでも使える。


「試しに作ってみたい。適当に『魔導石』と弓矢を用意して欲しい」という事で小一時間程、作戦会議の続きを話しながら待つ。



「……族長、用意が出来ました」と言う声と共に、結構な量の『魔導石』が持ち込まれた。


 急いで取ってきた割に、質も大きさも申し分ない。ルーペとノギスで選別作業をしながら「うん。これなら『中型』として使えると思う。で、どういう風に使うの?」と聞いた。


「矢じりに『魔導石』を組み込む。矢を射る時に風の魔法を込めれば、射程と貫通性が段違いに上がるはずだ」


 言いながら作業を始めている。ものの数分で、矢が完成した。


「爺さん、誰でもいい。風の魔法が使える奴に、試し打ちをさせて欲しい」

「……ならば息子が良いじゃろう。用意させろ」と指示をした後、皆で裏手の砂漠にやって来た。


「あそこに羊の群れがおるじゃろう。あれを敵陣だと思うて、打ち込むのじゃ」息子さんが例の矢を番える。


 一息ついて魔法を込めると、そのまま打ち込んだ。矢は、ありえないような直線を描き、羊の群れに突っ込んだ。


「さて、どんなもんかの?」皆でその場所に行ってみると、羊が3頭ほど貫かれていた。


「ふん、まあこんなもんか。矢を拾ってくる手間を除けば、使えるんじゃねえか?」


 ジェームスは自信たっぷりだ。確かに、これほどの威力なら敵も怖がるだろう。


 素晴らしい活用方法である。……最悪にコスパが悪い事を除けばだが。あの『魔導石』一個で、何百万円すると思ってるんだ。


「……なんと、これ程の威力があるとは。偉大なる大ハーン様が恐れる訳じゃわい」


 お爺さんが驚いている。後は数を作るだけか。ジェームス馬車馬のように働くんだぞ、と心の中で応援しておいた。



 という訳で村人数名で『魔導石』集めを行い、ジェームスが矢を作るという共同作業を始めた所で、こちらはクリルタイでの説得活動を検討する。


 やはり半数程度の反対派は、その場で口説くしかない様だ。


「過去、ロシアに居場所を奪われた者が多くてのう。そちらに降伏するという反応が殆どじゃ。清に降伏するという奴は、おるとは思えんな」


 つまりロシアに対抗できる、と分からせる必要があるという事だ。清への対策は砦だけで大丈夫だろう。


『……ロシア軍の質と予想される数は?』と、団長が尋ねる。

「コサックが主力じゃ。同じ騎兵だがさっきの矢があれば、優位に進められるじゃろう。数は……歩兵も併せて数万、と言った所か」


 此方の兵力は、部族全部合わせて四千弱。他の部族を入れたとしても、一万にも満たないだろう。


『……騎馬隊の機動力があるのであれば、いっそ後方まで回り込むのも、良いかもしれん』団長が呟く。

「どちらにしろ、情報収集と偵察役が必要です。足の速い者が五百は欲しい所ですね」と、サンダースさんが言う。


 挟撃作戦に必要なのは、タイミングだ。別々に突っ込んでも、各個撃破されるのが関の山。


「……なるほど、では人員の配置は事前に決めておこう。クリルタイは、後二十日位で始まる。最初は宴や催し物が出るからの。その間に出来るだけ作戦は詰めておきたいのぉ」


 お爺さんは「お嬢、これは我らの問題じゃ。心配するでない」と、こちらを見た。よほど心配そうに見えたのだろう。


「……大丈夫ですよ。皆がきっと、頑張ってくれます。清方面も、砦の建設が始まる頃です。信頼してますから」



 そうだ、私に出来る事は殆どない。元々ただの女子高生なのだ。戦いなんて何も分からない。むしろ、後方でのサポートや荷物運び、連絡役に回った方が良いだろう。


 そういえばリズさんは……と言えば、ジェームスの作業を眺めたり村を歩き回って子供と戯れたりと、まったく緊張感が無い。


 何しに来たんだろうと思ったが、唐突に「ねえねえ。アタシがその『クリ……何とか』で『魔法』を見せれば勝てそう、って思って貰えないかなあ?」と、言いだした。


 そういえば本職の『魔導師』の魔法って見た事なかった。とりあえず、皆で裏手に回る。


「……じゃあ、かるーく行くわね~」言いながらリズさんは魔法の詠唱に入る。彼女は魔法世界ではスタンダードな、呪文を唱える系統で魔法の発動を行う。


 他には、魔法陣を書いたり呼吸を整えたりと言った感じだ。変わった人だと、歌いながら魔法を発動する人もいるらしい。


 魔法の威力は『音節』と言われる呪文の長さに応じて変わるらしい。特殊な魔法程、長い呪文が必要になるのだ。魔法の威力と発動までの速さは、トレードオフになる訳だ。


「エム、グラサビ……タイエ、ティルエイ……」何語か分からない発音をした後魔法は発動し、巨大な火球が現れる。


 えっ、これで軽く……なの? マジ? とか思っていると、そのままリズさんは遠くにぶん投げる動作をした。


 ……数秒後、文字通り『爆発』した。物凄い音がして、村人達が集まりだす。作業中のジェームス達もやって来た。

「こんな感じ~、でどうかな?」リズさんはいつも通りの発言。彼女の後ろには、数十mもあろうかと言う巨大な穴が出来ていた。


 これは……危険すぎて、戦場では使えないかもしれない。リズさんが事件に呼ばれない理由、よく分かりました。


 彼女は、清方面で撃ちまくって貰う事にしよう、と言う意見で一致した。下手をすると『あの人だけでいいんじゃないか?』と、言う気もするが。



 さて幸いにもこの時期は、敦煌の『門』は開いたままだ。問題なく砦の準備が出来るだろう。私はこの村と敦煌を行き来して、皆に作戦の状況を伝える事にした。


 後は、物資の入手だ。幸い、商売は順調なのでお金に困る事は無い。食料、木材にレンガ等、使える物は何でも業者買いして搬入を続ける。


 どれくらいの期間、籠城するかは分からないのでマジックバックの限界と、今まで培った商人の伝手やコネもフル活用し、やれるだけの事はやった。



 結果、敦煌には『……ここまでやるとは、思っていなかった』と、団長が呆れる程に大規模な要塞が『門』を取り囲むような形で出来てしまった。


 流石にこれを放置して、村に攻め込む事は無いと思う。補給物資については、千人で籠っても半年は維持できる。


 ……うん、やり過ぎた。防衛戦って知らないんだもん。少々過剰になってしまった事は否めない。


 私は、突貫で作ったとは思えない見張り櫓に上り、遊牧民の村までの『のろし』のテストを行った。


 この櫓を中心に、元々あった遺跡を組み込んで約三mの壁が取り囲む、この要塞を見下ろしながら戦争へのカウントダウンが近づいている事を実感した。

「平和補正による、工業力ペナルティが軽減されます」


 題名が昔ながらの歴史ゲーマーしか分からないかもしれない。第二次世界大戦のゲーム「ハーツ オブ アイアンII」のイベントの選択肢です。



 清との戦争……当初はちゃんと描写するはずでした。ちゃんとプロットも組んでいたんです。


 でもね、覚悟完了した商人が全財力で要塞を作る+世界最高クラスの魔導師が守る……あっ(察し)


 『確殺』完了で御座います。敵兵を5万から100万人に増やした所で落ちないです、これ。


 と言うか100万人の兵隊なんて、兵站が持たないですよね。リアル的に無理。


 多分、清側の視点で『敦煌の魔女』とか、『敦来来(悪い子には敦煌の魔女が来るよ)』とか呼ばれて、攻める気を無くすでしょう。


 戦闘シーンは、描写せずに済まします。


 恐らく、後日談として、メンバーから「敦煌の魔女が領収書片手にやって来る」とか、リズさんが揶揄われるところまで見える……どうしてこうなったし。

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