【番外】俺達の責務と覚悟
「……さて、俺達三人で一体を相手する。残りのメンバーでもう一体を倒して、アキラさんのサポートに向かって欲しい」
「……ホルス君、大丈夫? 全員で二体を相手にした方が良いんじゃないの?」
多分それが正解だと分かってはいる。だが、因縁の相手は俺達だけで何とかしたい。
「俺達は、破壊神を倒すために戦う事を選んだ。だから、俺達だけで何とかします!」
「分かったわ……お姉様のサポートをする前に、ホルス君達の所に行くから! 無理しちゃ駄目よ!」
千鶴さんもお人好しだなぁ……だが、それでいい。確実に倒せるかもしれないが、時間が掛かる可能性を考えると、三人だけで何とかする方が勝利の確率は上がるだろう。
「……安心して下さい、俺に考えがあります。理論上は可能な筈なんだ……無理だと分かったら、さっさと逃げますよ」
「そうね、それで良いわ。皆で生き残ってこその戦いよ。お願いだから無茶は止めてね」
千鶴さんと魔王軍が、そう言い残してもう一体の破壊神へと向かう。
「ホルス、本当に破壊神を倒す方法があるの?」
「……メル、レイ。幾つか頼みたい事がある。まず、メルのゴーレムから魔導石を取り外して欲しい」
「それは構わないけど……何するの?」
流石にこいつら二人には説明は必要だろう……。俺は覚悟を決めた。
「……アキラさんの魔法、ブラックホールを作る奴な。あれを使う」
「ホルス、もう覚悟を決めているみたいだから反対はしないわ。でも約束して……必ず生きて帰って来るって!」
「……ああ、約束する。どんな形でも生き残るさ」
それがどれほど危険な賭けかは、伝わったらしい……。後は、手順を考えないと。多少の無茶は承知の上だ。
「ホルス、俺達に出来る事無いか?」レイはいつも通り、俺の指示を待つ。
「万が一の事もある……時間を稼ぐついでに、出来るだけダメージを与えてくれ」
「……分かった」
俺達は三人で一組……三人いれば、何でも出来る。そうだろ?
「これが終わったら、ゆっくりと休みましょうね……もう、私達の使命は達成出来るんだから」
「そうだな……のんびりするのも悪くない。三人で何かする事でも考えるか」
「おう、俺達の役目終わる!」
そうだ、俺達は破壊神を倒すために苦しい訓練を続け、旅をしてきた。それだけは、誰にも譲れない役目だ。……これが終われば、何も考えずにゆっくりとすれば良い。
「よし、やるぞ! お前らの力を貸してくれ!」
「はいっ!」「おう!」
メルとレイの二人で魔法剣による攻撃を行って貰う。破壊神の意識がそちらに向かった隙に、俺がブラックホール弾丸を叩きこむ。
基本的な流れは、そんな感じだ。マナの枯渇で破壊神は回復出来ないだろうから、それ位のダメージを与えればナノマシンに食われて結晶化するだろう。
左手には魔導石がある。随分と大きいが、マナの枯渇した今ならこれでもギリギリだ。細かい調整も出来ないだろうが、構いやしない。
出し惜しみもしないし、全力で戦う。俺達にとっての破壊神とは、己の責務そのものである。……奴がいる限り、俺達に明日なんてない。
果たして、ぶっつけ本番でブラックホールを作り出す事が出来るのか。幸い、魔力はアキラさん経由で幾らでも使える。問題があるとすれば、今までに使った事の無い程の量の魔力を扱えるかどうか。
そして、そいつを破壊神にぶつけられるかどうかだ……。何が起こるか分からない。今更ながらに自分の考えの無さに呆れかえる。
……本体が複数いる可能性を考慮しなかったのは、俺の責任だ。恐らく前の戦いで、破壊神自体が消滅するのを防ぐために複製を作ったのだろう。
何が参謀だ、と自分を自虐する。俺は何もわかっちゃいなかった……。
少し考えれば、可能性を見つける事も出来たのだろう。ナノマシンが十分に働いているのを見て、油断しただけだ。
いまさら言っても仕方が無い。どんな状況だろうと、自分の出来る事をやる。それだけの事なのだ。
そして、こんな確率の悪い賭けをする事になったのも自業自得だ。もし、と言う話であれば少しで良いから、アキラさんからあの魔法を詳しく聞いておくべきだった。
……もっとも、そんな事を聞いたらアキラさんに怒鳴られる可能性もあった。その辺を考慮した上での流れなのだが、今更である。
今、確実に破壊神を倒す方法を考慮して、一番確率の高い選択肢を選んだ。後悔するなら、やるだけの事をやってからにしよう。
メルとレイが連携して、破壊神に向かっていく……。恐らく、位置の調整も含めて三撃は必要だ。そうして、意識がそちらに向かった瞬間にこちらからブラックホール弾丸をぶち込む。
……そこまで考えて、自分がブラックホールに吸い込まれる可能性を考えていなかった事に気が付いた。
恐らく、発動までに距離が足りない。投げ込むのではなく、突撃するしかない……。想定よりも近距離で発動した場合、こちらが先に吸い込まれる可能性が高い。
やはり、俺は馬鹿だったらしい。そんな基本的な事を忘れていた……。メル、済まんが約束を守るのは無理らしい。もう、後戻りは出来ないのだ。
ただ、破壊神と相打ちなら十分な成果だろう。……俺一人の犠牲で救われる命があるならば、御の字である。
結局、俺は何処まで行っても己の責務から離れる事は出来なかった……。半端者・器用貧乏の魔導師崩れ。そのしがらみから逃れるために悩み続けた結末が、破壊神との相打ちか。
……まあ、十分じゃないか? 胸を張って天国に向かえるだろう。神様みたいなものになったのだ。ただ無駄死にするよりかは、ましではないだろうか。
メルを悲しませるのは辛いが、諦めも付く……。今まで関係が壊れる事を恐れて、逃げ続けたツケが回って来たのだから仕方が無い。世の中ってのは、そう言うものである。
そう思いながら、当然の様に魔導石に魔力を込める。
今から、俺は死にに行く……。かつて破壊神の雑魚相手に何も出なかった事を考えれば、むしろ望むべき結末だろう。
……そうして想定外の魔力量に抗う事になった。アキラさんから流れ込む魔力を抑えるのに必死になる。元々、自分の体内に流れる魔力回路が、ぐちゃぐちゃに壊されていくのが分かる。
もし生き残っても、今までの様に魔法を使うのは絶望的だろう……。そう考えると、このまま魔力に押しつぶされても構わないと腹を括った。
「……いいぜ、俺の全てをくれてやる! 破壊神め、ざまあみろだ!!」
そう心の中で叫びながら、魔導石をぶん投げた……。この距離なら外す事は無い。予想通り、ブラックホールに左腕をもぎ取られた……。体全体が吸い込まれるのも時間の問題だろう。
意識の薄れていく中で何かがこちらに向かって来るのが見えた……。あれは、レイだ。魔導石を蹴り上げながら俺の体をぶっ飛ばした。
こいつは、俺のやった事を観察していたらしい……。その上で、最も被害の少ない方法で本能的に俺を助けた。レイの足首はブラックホールによって吹き飛んでいる……義足にしたとしても、元のように動くのは無理だろう。
「……レイ。お前、何でそんな無茶をした!」
「ホルスこそ、約束を守れ! お前が死んだらメルが悲しむ!」
「……すまん、助かったよ。相打ちに持ち込もうとしたんだがな」
レイは何も言わない。こいつはそういう奴だ……何時だって、自分の体を盾にして仲間を守る。こいつにしてみれば今回の行動も、何時もの事なのだろう。
「……馬鹿野郎、俺の為に足が吹き飛んだじゃねえか。無理しやがって!」
「お互い様だ、馬鹿! 左腕が根元から吹き飛んでる。痛くないのか?」
そうやって、お互いが怒鳴り合う。さてメルに会ったら、何と言って謝ろうか……。
薄れゆく意識の中で、そんなどうでも良い事を考える。
あぁ思い切り、泣かれるんだろうなぁ……自分の体よりもメルの顔が曇る方が困る。
俺は、生き残った事を面倒だなと思いつつ、あいつとの約束が守れた事には安堵するのだった。