134.最終戦争が開始された!
周辺地域の偵察活動が一旦完了となった。もう時間が無いので、急いで測量しまくったのだ。
分かった事と言えば、この世界はかなり小さい。海も無ければ地形も特色が無い。北海道より少し小さい位と言ったところか。
「マナを枯渇させるのに、小さい方が都合がいいしね。こうして調査も予定より早めに区切りがついたし……」
「そうですね。見回った結果なんですが、この世界に来た時と違ってマナの動きが活性化しています」
既にナノマシンや私の鎖でマナを枯渇させているので、そうなるのも当然なのだが……。
「……ねえ、破壊神本体がいそうな場所、あった?」
「ええ、マナの流れていく先が怪しいと思っています」ホルス君が頷いた。
「じゃあ、この地図の何処か一緒に発表しない?」
多分、私とホルス君の結論は一致すると踏んでいる。そもそも、本体の大きさから考えて五百ヤードは超えるだろうに、姿を隠すようなところが無いのだ。
「分かりました。……ここです!」私とホルス君は同時に火山を指し示した。
「鎖の反応を見ても、あの山の中が怪しいわ」
「火山からの反応が無さすぎます。マナがあれだけ流れるのなら、噴火していてもおかしくない」
それぞれの意見も納得出来るものだ。……ただ、山の内部という事はそこに至るまでのダンジョンがあると思われるのだが。
「恐らく、ナノマシンもダンジョン内部には届いていない。探しに行って返討ち、なんて事もあるかもしれん」ジェームスが私達の懸念点を代弁する。
「……今から、少数精鋭で洞窟に潜って破壊神本体と決戦? まっぴら御免よ!」
「とは言っても、本体に直接接触する方法なんて……」
わざわざ、あちらの用意した難関ダンジョンなんて行きたいとも思わない。我々には、その余裕がないのだ……。
「そうだね。そろそろ、当初の予算を使い切る可能性が高い……。誰かマリアちゃん相手に補正予算を通す、剛の者はいるかね?」
ムラトさん、どんな勇者だろうがそのラスボスは駄目よ。正直、人員整理されて終わりという所だろう。彼女にとっては、世界が滅亡するよりもオスマン帝国の予算不足の方が問題なのだ。
「マリアちゃん、英才教育やり過ぎちゃったかなあ……」私は少し後悔した。
営業スマイルとトークが得意な位で、やめとけばよかった。……私は、私を倒せる怪物を生み出してしまったのかもしれない。マリアちゃんが、すっかり守銭奴になってしまった。
「ともかく、その案は却下ね。やるなら、破壊神本体を引きずり出して、囲んで棒で殴る位しないと……」
「そうは言っても……何かアイデアがあるのか?」
「……火山、ぶっ飛ばしちゃいましょう!」
全員がドン引きである……。何でよ、ブラックボール弾丸で一気に吹き飛ばせば、マナも枯渇する。大勢で囲む事だって出来るのだ。私に出来る事は、全てやるつもりだ。
「やはり……それしかないか」
「ですね……やっぱりアキラさんには、振り回される運命なんでしょう」
「全く、大胆と言うかおおざっぱと言うか……この爆弾女め!」
……男性陣からの非難が止まらない。解せぬ。
「元々、マナを枯渇する方法として一番良いやり方じゃない。本体の位置が分かったんだから、強行突破するしかないでしょう?」
「それはまぁ……そうなんだが」
前回の戦いで、破壊神本体にダメージを与えられる事は確認済みだ。出来ないとは言わせないわよ!
「……火山を吹き飛ばして、噴火が始まるかもしれない。それも理解しているか?」
「もちろん! 『コラテラル・ダメージ』って奴よ。世界が滅亡する事に比べたら、大した問題も無いでしょ」
そういう訳で、とっておきの『魔導石』を使って、あの火山そのものを吹き飛ばす事で決まった。
……当然、男性陣は監視の為に同行する事になった。信用無いわねぇ。
さて、最終決戦に向けて、人員配置を改めて実施する。先発隊を解体して、守備兵員から厳選して四つの攻撃部隊を編成する。もちろん、魔導師部隊や騎馬部隊も含めて最大戦力になる様に調整済みだ。
これから挑むのは、城よりもデカい「破壊神本体」である。それぞれの部隊には、魔族四天王と参謀を組み込んでいる。
もちろん、この戦いにあたって死亡しても構わないという、誓約書も書かせた。……正直、どれ位が生きて帰れるかも未知数だ。
まさに精鋭中の精鋭を揃えた。……ここから先、何があっても途中で離脱する事も出来ない。念のため、予備兵力を残していくが……使うタイミングがあるかどうか。
全員、やるべき事は分かっている。まるで風車に立ち向かうドン・キホーテのようだが、それ位の気迫が無ければ、足手まといだ。
死ぬ思いで繰り返した訓練の成果、ここで発揮せずにどうするというのか。
「さあ、皆! ここから先はやり直しも間違いも出来ない、本当の最終決戦よ! 例え戦友が死んでも、攻撃の手を緩めるな!」
『サー! イエス、サー!!』よし、良い覚悟である。
そういう訳で、私的には破壊神本体を鎖の魔道具で拘束すれば、少なくとも負けになる事は無い。
……そのためだけに、ありとあらゆる犠牲を払ったのだ。鎖を握りしめ、気合を入れる。
「アキラ、言ってもどうにもならんと思うが……気持ちを落ち着かせろよ。お前を皆が頼りにしてる」
「分かっているわよ……なるようになるわよ、きっと」
特大の魔導石に魔力を込めていく……。失敗は許されない。これが最後の一撃になると信じて……発射する。
「ブラックホール弾丸、発射!!」
何時ものように、まっすぐの軌道を描き火山目掛けて攻撃する。
……想定の20%位の大きさにしか、ブラックホールは広がらなかった。もう、マナは枯渇し尽くしている。あとは、破壊神本体の再生機能が使えない事を祈るしかない。
それでも、火山の山頂をごっそりとくり抜いて空洞部分があらわになる。……異形の破壊神がそこにいた。
六本の腕に鋭い爪。長い尻尾と竜の様な翼。禍々しい顔面には鋭い牙を持ち、こちらを一斉に睨む。
……『七体の破壊神本体』がそこにいた。
全員がパニックになる。何で……何で? 一体だけじゃない? どうして?
我々は、その可能性を失念していた。『本体なのだから、一体だけなんだろう』という、思い込み。
ヤバい、ヤバすぎる! このままじゃ、全滅するっ!!
「全員聞けっ! 私が鎖で五体分を何とか抑え込む!! 後の二体を何としてでも、倒して頂戴!」
『おうっ!!』
こうして、予想外の展開ながらも私の指示で、全軍が一斉に破壊神本体目掛けて突撃を行う。
やるしかない……無理でも何でもやってやるしかないわ!
私は、おぞましい五体の破壊神本体を食い止めるために、たった一人で奮戦する事になったのだ。