133.いざ決着のバトルフィールドへ
あれから三日が経過した。各自総出で要塞周辺に集まる破壊神達を潰して回っている。
未だ、ナノマシンによる効果を見る事は出来ない。計算では、そろそろ影響が出てきてもおかしくない筈なのだが……。
「よし、先発隊の一部を率いて要塞北側を中心に威力偵察を行うわ! 各班でメンバーを選定して頂戴」
『はいっ!』今は、何も考えずに動く方が良い。
……もう、時間が残り少ない。自分達の知らない所で他の世界への穴が作られたら、全てが終わってしまう。慎重に進めながら、時には大胆に動く必要もある。
「ジェームス、ホルス君。ナノマシンの効果を調べる為に調査隊を出すわ。一緒に付いて来て頂戴!」
「……そうだな、何か不測の事態があっても困る。もちろん行くぜ」
「俺は、この世界のマナの充填量を観測していますから、ナノマシンによる動きを掴みやすいと思います」
後は、千鶴ちゃんとヒサ君を護衛役に連れて行くか……。腕の立つ奴は、幾らいても足りない。
そうして、準備に数時間が掛かったが最初にナノマシンを造り始めた北側の様子を調査する事になった。
「……北側なら既に一週間程度経っているし、マナの循環や破壊神の密度やナノマシンの増殖状況が知りたいわ。……本来なら、破壊神本体の居場所や立地の確認をしている頃なんだけどね」
……やはりと言うか、何と言うか。あの計画書には問題があり過ぎた。
「ま、ぶつくさ言っても始まらん。魔道具自体も調べたが、計画通りナノマシンの生産は出来ている。後は、この世界で自己増殖が起こらない可能性だけだが……」
「破壊神の組成パターンが複数あったとか、考えられません?」
……ホルス君、鋭い! そう言う話を待っていたのよ。
「おお、そいつはかなりの種類を調査していてな……。実際、組成パターンに違いは無かったぜ。むしろ、同じ組成であんなにもバラエティ溢れる種類を造る、破壊神に興味がある位だ」
「やめてよね、縁起でもない……。アルファを造る前に破壊神を造りました、何て洒落にもならないわ」
……実際問題、破壊神を作り出した存在が不明な以上考えない訳にも行くまい。
そうして我々の前方で偵察を行っていた先発隊からの連絡が入る。
「魔王様、こちらに来て下さい。興味深いものを発見しました!」
「すぐ行くわ! 皆、行きましょう」
さて、鬼が出るか蛇が出るか……。これ以上、こちらの胃壁に影響のない代物である事を祈ろう。
そこで目にしたのは、真っ白い破壊神であった。……兵士級と思われるのだが、様子がおかしい。
「おお、成功したみたいだな……こいつはナノマシンが増殖している証拠だ」
「そうなの? 何か綺麗な石みたいになっているけど……」
「ああ、破壊神に取り付いたナノマシンは、マナを吸い尽くしながら自己増殖し結晶化する」
そうして気が付いた……。こいつだけではない。周囲一帯に同様の真っ白な石が、元破壊神が大量に並んでいる事に。
「ジェームス、これって……」
「あぁ、多少の誤差はあったが無事にナノマシンは稼働している! こいつで一気に破壊神を駆逐できるぜ」
全員でハイタッチをして、作戦の成功を祝う。これなら、すぐにでも周辺の調査部隊を送り込める。
むしろ危険が減る事でローラー作戦を実施する事も可能だ。
そもそも破壊神本体が何処にいるのか、この世界の大きさはどれ位なのか……。調べたい事は山の様にある。一刻も早く、計画を立てる為に司令本部へ戻らなければ……。
「よし。千鶴ちゃんとヒサ君には、周囲の調査をお願いするわ! 私達は、司令本部で調査計画の立案よ」
「よし来た! 測量道具の用意も必要だしな」
「アキラさん、マナの総量ですけど……初めてこちらに来た時の半分くらいじゃありませんか? ブラックホール弾丸の大きさ、変化していません?」
そう言えば、当初使用していた魔導石の予測よりも半径が小さくなったような気がする……それってつまり。
「マナ、枯渇し始めてる?」
「……そう思います。世界中のマナの濃度なんて、観測方法は多くありません。ブラックホールが小さくなっているのが証拠でしょう」
するってえと昨日の奴が、大体予測の60%位として……もうそんなに枯渇しているの?
「凄いわね! ナノマシンが増殖し始めた事で、四割程度のマナが枯渇した事になるわ!」
「そうだな……一度増殖が安定すると、一気に加速するからな。本体決戦で三割位まで減らしたいな」
そうだ、本体の能力が再生能力以外は不明な以上、可能な限りマナを枯渇させたい。
良いじゃないの、ようやく最後のひと踏ん張りまで行けそうだわ!
「よっしゃあ! こうなったら全員笑って終われるように、しっかり計画を立てるわよ!」
「おうよ、人間様を舐めて貰っちゃあ困るぜ!」
「いよいよ、破壊神との戦いが終わる……」ホルス君にとっても、因縁の相手だ。気合も入るというものだ。
「さて、ようやく良い知らせも聞けたしこちらも全力でサポートを行おう。守備兵員の半分を調査隊に組み込む。今の状況で、化石化する破壊神が増加するなら人手は余るからね」
ムラトさんが発端となって、会議が進む。……この手の準備は、あちらの専門分野だ。流石は皇帝陛下、人の使い方が上手い。
「……問題は、本体の居場所だねぇ。水中深くに隠れられたら、探しようがないよ」
「あまりマナが少ない場所には居ないでしょう。自然界でも変化が大きそうな所にいると思いますけど……」
まさか、生贄を捧げる訳にも行かない……とにかく、巨大な図体が隠れられそうな所をローラー作戦で虱潰しするしかないか。
まさか、最後は破壊神とかくれんぼをする事になろうとは、この私にも予測不可能だったわ。
何か良い手は……あっ!
「この鎖には、破壊神を知り尽くしている過去の私がいるわ! 多分だけど、近くに居たら鎖に反応が出ると思う」
「あぁ……そりゃ、自分の仇だものな。確かに、最終的にはそれに頼る事になるかもしれん」
私は、過去の私に報いる為にも決着の場へ、少しでも良い条件を整える為に脳みそをフル回転させるのだった。