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132.後は、破壊神本体を残すのみ!

 私やホルス君の懸命な対処で、要塞は完成しつつある。


 上空の破壊神も大分と大人しくなったようだ。とはいえ、稀に現れる母体を定期的に破壊し続けている。


「流石に疲れてきたし、キリが無いわね……ちょっと、無理しちゃいましょうか」


 やり方自体は、過去の私から聞いている。どうやってそうなるのかは、全く分からないのだがとにかくやってみよう。


「鎖の中の私、聞いてる?」

「おう、何かするつもりか?」

「……ちょっとこの周辺を覆い被せようかと思うんだけど」


 言葉にしなくともあちらには伝わったらしい。流石は私、察しが良い。


「成程、多少は魔力の流れで気持ち悪くはなるが、可能だぞ」

「それじゃあ、ちょっとやって見ましょう。休憩する時間が欲しいわ」


 そういう訳で、本日何回目かは分からないが、オメガで空中に飛び出して周辺を見る。



 ホルス君の魔導師部隊が遠距離から正面に魔法を浴びせ、歩兵部隊がレイ君とヒサ君の指示で退却する。


 暫く引き込んだ所で、南北の要塞から騎馬部隊が挟み撃ちにしたタイミングを見計らって、歩兵部隊が突撃する。そうやって、少しずつ破壊神達を倒しながらジリジリと拠点となる地域を確保している。


 成程、あれが『釣り野伏』なのか。そりゃ、絶妙のタイミングを計るのに苦労する訳だ。知っていてもヤバい、としか思えなかった。


 敗走するかどうかのギリギリを見計らって、Uターンするのは見ていて心臓に悪い。歩兵部隊は慣れているのか、反転する速度が尋常ではない。


「あれを体に覚えさせるまで特訓したのか。そりゃ、訓練時死傷者が増える訳だわ」そんな感想を抱く。


 『全軍突撃ドクトリン』などという、頭のおかしい訓練の時も思ったが、陸軍兵士は死ぬ前提で訓練している。……あれが普通と思うと、ぞっとする。


 ともかく、ある程度の立地を確保している事を上空から確認して、鎖を取り出す。


 今から行うのは、かなり難易度の高い操作になる。上手く頭の中で組み上がらないと、恐らくまともに稼働しないだろう。


 ……今、この手にある鎖を『編む』のだ。文字通り、鎖帷子になる様に頭の中で編む事になる。


 完成すれば、物理・魔法合わせて何物も破壊する事の出来ない防壁が出来上がる。


 恐らく綺麗に組み上がれば、二~三日程度の維持は可能な筈だ。


 ともかく、物は試しだ。やってみる事にしよう。オメガは落下しながら、鎖を垂らす。


 頭の中で鎖がくっつく所をイメージしていく……。集中力を限界まで維持しつつ、完成する姿を想像する。


 大丈夫、編み物ならやった事がある。投網のような感じで、鎖を交差させて布状に造形する感じ……。


「ううむ、えっと……。こうなって、これで……よし、出来た!」


 ちょっと、最後の仕上げの部分が荒くなってしまったが、そこは地中に埋めるので多少乱れても関係ない。


 膨大な魔力を鎖に流し込みながら広げていく。投下地点は、要塞建築予定地から五十マイルって所か。


「ようし、いくわよっ。……それっ!」大きく広げた鎖をそのまま下方に放り投げた……。


 編まれた鎖のおかげで、上手く破壊神達が分断された。鎖の上部もきっちりと結んで……これで良し。



「皆、あの鎖で封鎖しているうちに要塞を組んでしまいましょう! 魔導師部隊と歩兵部隊で、残った破壊神達を殲滅すれば、暫くの間休めるわよ!」


『わー!』と言う声があちこちから上がる。……正直、交代でギリギリの状態を半日以上維持していたのだ。


 もう限界が近かったのかもしれない。特に、最前線で踏みとどまる先発隊は、もうボロボロだ……。


 オメガを地上に下ろし、飛び降りる様に皆の所に行く。


「よく頑張ったわね、皆。これで要塞も完成するし、秘密兵器のナノマシンが完成するまでの時間稼ぎも出来たと思うわ。さあ、しっかり食べて休みましょう!」


 私が手を振り上げると、大声で皆が笑った。……そんなに変な事言った?


「お姉様、一旦司令本部に戻りましょう。ここは工兵部隊と、守備歩兵のローテーションで維持しますから」

「そうね、先発隊は全員帰還するわよ。この後が勝負よ、頑張りましょう!」


『おう!』と言う掛け声とともに、あちこちを傷だらけにした先発隊が一息付く。


「……やっぱり、計画に無理があったんじゃないかしらねぇ?」

「元々の予定だと、一日前に全部の要塞が完成する筈でしたから……どの部隊もギリギリでした」

「その辺含めて、司令本部へ行くわ。ついでに飯も用意するわよ!」


 この中で、一番疲労していないのは私なのだ。


 魔王様だからと言って、おさんどんをしてはいけないという事も無いだろう。なぁに、大量の料理を用意するのは、慣れっこなのだ。少なくとも、あの鎖を操るよりは簡単だ。


「じゃあ、私がお手伝いします!」千鶴ちゃんとリンちゃんが同時に手を上げる。

「そうね、お願いするわ」


 久しぶりに私の戦場に戻って来た。……さて、敵は一万を超える欠食児童達だ。


「思う存分、腕を振るうわよ。よーし!」魔王様が食の戦場に、いざ参る!



「で……こうなっちまったって?」ジェームスが呆れている。中華鍋の振り過ぎで、腕と腰をやられた魔王様の私。流石に一万人に料理を振舞うのは、無理があったか……。


「良いのよ、私は鎖を振り回してばっかりだったんだから! 危険な最前線で戦った皆に料理して何が悪いのよ!」

「まぁ、確かに気持ちは分かるよ。とはいえ、あの量は流石に……」同情してくれるのは、ムラトさんだけだ。


 ともかく、私自身のダメージ以外は何とかなった。これから、先発隊は交代しながら休息時間に入る。


 一応、警備の人員が一気に減るのは避けたいので、半数が予備兵員として待機するのだ。


「じゃあ俺達は、今後の作戦と物資調達の相談だな……」

「こちらに現状の状況を纏めてある。会議室に来てくれ」


 主要なリーダー達には、休息も許されない。馬車馬のように働くしか無いのだ、この状況では。


 とはいえ、お爺さんにはちょっときつそうなので、息子さんに代わってもらった。ヒサ君やレイ君は、何故かすっきりとした顔をしている。この戦争屋ウォーモンガー共め! そんなに最前線が楽しかったのか。


 ……ちょっと釈然としないまま、会議室へと入る。


「現在、元々のスケジュールよりも三日ほど遅れている。急ピッチで工兵部隊に東西の要塞を仕上げて貰っている。恐らくだがあと二日もあれば、稼働するだろう」


 ムラトさんの説明で若干遅れているが、鎖で防御しているうちに例のナノマシンが稼働しだすだろうという事が分かった。


「ごめん、ジェームス。あのナノマシンについて、もう一回説明してくれない?」

「ああ、ここに居る連中全員にも説明しないとな。俺が作った魔道具が四方の要塞の中心部に設置される。そいつは、目には見えない程の小さなナノマシンを作り続ける」


 時間は掛かるが、あちらの世界でそのナノマシンを空中にばら撒く事になる。そのナノマシンの動力源が空中のマナなので、作れば作るだけマナが枯渇するという事。


「……それでだ。俺は、以前の戦いで破壊神のかけらを入手して、そいつを分析した。その結果、ナノマシンが破壊神に触れると、硬化するように行動パターンをセッティングした訳だ」

「……えっと、そのナノマシンと破壊神がくっつくと、どうなるの?」


 それが一番大事な所なのだ。全員にこれから起こる事をちゃんと説明しないと、パニックに陥る可能性がある。


「そのナノマシンは、破壊神にしか反応しない。そして、破壊神から魔力を吸い取って固まる。……つまりは、破壊神が無力化されるんだ」


 あちこちから『おぅー!』と言う声が上がる。あれだけ苦労した破壊神が行動不能になれば、あちらの世界を自由に移動出来る。破壊神本体との直接対決に持ち込める訳だ。


「ただし、そのナノマシンが大気中に十分に放出されて一定の濃度を超えるまで、大体一週間を見込んでいる……過度な期待はしないでくれ」


 あちこちから『えー!』と言う声が上がる。皆、手のひらをひっくり返し過ぎ!


「とにかく、その一週間さえ乗り切れば、あの破壊神達が殲滅出来る訳よね!」

「おう、その点は任せておけ! 既にあらかじめ準備していたナノマシンを破壊神にぶちまけて、効果は実証済みだ!」


 ……ジェームス、そんな無茶な実験を何時やっていたのよ! 非難の目をジェームスに向けると、すっと目をそらされた。まったく、後で説明して貰うからね。


 何はともあれ、これで雑魚の破壊神達は問題ではなくなる。後は、本体が何処に潜んでいるか先発隊で調査する事になる。……それでもスケジュール的には押しているのだが、止むを得ない。


 私達は、長い間悩まされた『破壊神』に対する問題を解決する目途が立って、ようやく終わりが見えたと安心するのだった。

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