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130.まだ見ぬ明日を迎える為に 今の私が出来る事

 私達は遠征軍を連れて、いよいよあの『破壊神』の根絶を目指す。果て無き闘争の日々が始まるのだ。はっきり言って成功するかどうか、一か八かの賭けである。


 ……それでも、私には絶対にやり遂げなければならない事なのだ。


「さあ、ここが正念場よ! ここさえ乗り切れば『きっと明日はもっと良い日になる』筈なのよ。皆、最後の戦いの準備は大丈夫?」


 私は、オメガの肩の上から遠征軍のメンバーに声を掛けた。もう出来る事と言えば、これ位しか思いつかない。今までやって来た事を後悔しない様、自分に言い聞かせるように彼らの士気を上げようと声を張り上げた。


 彼らから、頼もしい声が上がる。皆、ここに至る為に必死になって頑張ってきた大切な仲間だ。



「お姉様、こちらの陸戦部隊は問題ありません! やっと、この『破壊神』との戦いを終わらせるんです! 全員、死に物狂いで鍛錬してきた成果、お見せします!」


 正直、あの特訓で無茶をやり通した。訓練死亡率5%が超えなかったのは、奇跡のようなものである。


 先発隊のやるべき事は多岐に渡る……もしかしたら全滅の可能性だってあるのだ。私は、彼らを全力で鍛えまくった。ここに居る全員がその苦難を乗り越える為に全力を尽くそう。そう心に誓った。


「こちら、勇者パーティーと魔導師部隊。足止めと妨害、支援魔法はありったけ使います! 魔法の出し惜しみをするつもりはありません! 『破壊神』を倒して、真の平和を手にするまで諦めません!」


 ホルス君もすっかりあの地獄のような訓練を乗り越え、何かに目覚めたようだ。それまで魔導師として自信が持てなかった彼は、きっかけを与えたとはいえ確実に吹っ切れた。


 もう、彼は自分の事を「器用貧乏」などと自虐する事は無い。自らの持ち味を最大限に生かし、何があっても挫けない、そう言う気持ちが伝わって来る。


「騎馬部隊の準備も万全じゃ。側面攻撃はスピード勝負! 誰にも負けんわい」


 お爺さんが年甲斐も無く、はしゃいでいる。……人の良いだけが取り柄だった、出会った頃の面影は何処にもない。誇りある騎馬民族の末裔の指導者たる『偉大なるハーン』として、勇猛果敢に一族を導く頼もしい仲間である。


 あの頃は、私にへっぽこハーンなんて言われるような情けないお年寄りだったのに……。人間って凄い。気持ちさえあれば、どんな風にも変わる事が出来るのだ。


 恐らく神様達には分かるまい。人は変わっていけるのだ。ふとしたきっかけさえあれば、何だって出来る。それは私にとって、この作戦の根幹となっている。


 ……苦労を共にした、同じ仲間として頼もしい限りだ。


「魔王軍は絶好調だぜ。好きなだけ暴れまくってやるさ! こっちは楽しみでうずうずしてるんだ!!」


 トール君にフェンリル君、ヒサさん達も今か今かと、これからの戦を楽しみにしている。


 大量の資材を持った巨人族に、エルフやゴブリンと言った多種多様の魔族達が待ちきれないとばかりに大騒ぎしている。……何にしろ、これだけいれば何とかなるだろうと心強い。


 思えば、成り行きであったとはいえ「魔族四天王」も含め、これ程頼りになるメンバーもいない。


 魔族の人々と共存し、同じ目標に向かって邁進する事になったのも、何かの『縁』だった。とはいえ、異なる価値観を持つ我々がここ迄団結する事が出来たのも誰にも予測できなかっただろう。


 ……「魔族四天王」の五人目が出る事が無くて、本当に良かった。


 もしも、無事に明日を迎えられたら人と魔族は当然の様に、良き隣人として過ごす事になるだろう。


 この戦い、絶対に負ける訳には行かない。一体何が起こるのか、私にも予測出来ない素晴らしい未来が待っているのだ。


「主殿。オイ達の出番は、何時になり申すか? はよう、首ば落としたかでごわす!」


 ヒサ君が溜まらず本音を漏らす。全く、この戦争屋ウォーモンガーめ。


「私達も戦えます。……戦いは怖いけど、頑張ります!」


 リンちゃんは、本当に勇気があるわね。……本来なら前線に立たせたくはない。だが、その能力は絶対に皆を守るだけの力がある。……大丈夫、私が守ってあげるわ。



「全く……黙っていても激しい戦闘になるわ。喜びなさい! あなた達はどう足掻いても最前線で戦って貰うからね」


 そう言って、皆を改めて見る……。どいつもこいつも、良い笑顔でこちらを見つめている。……こんな絶望的な戦いに身を投じる『変人』達だ。全く頼もしい限りである。


 長く苦しい日々だった……こいつら変人共の相手ツッコミをする毎日も、もう終わる。まったく、こいつらが居なければどうなっていた事か。


 変人の相手ツッコミは、慣れたというよりも諦めた。良い仕事をする事だけは間違いない。願わくば、制御しきれない暴走さえなければ、と言ったところだ。


 その辺りの行動については、自分も人の事は言えまい。ロマン成分とその場の勢いで暴走した結果が、この大軍団なのだ。……実際、文句が言える立場でも無いだろう。


「さあ、やるわよ! 私達が夢見た『未知なる明日』は、この戦いを終わらせて迎えるのよ! 頼んだわよ皆。絶対に大丈夫! 自分を信じられずに不安になる必要は無いわ。私が信じた、皆の頑張りを信じなさい!! 『破壊神』なんてぶっ飛ばしてやりましょう!」


 あちこちから『おう!』と言う掛け声が帰ってくる。ある者は叫び、ある者は手を振りかざして自らの役割を果たそうと、一致団結している。


 しかしまあ、随分と揃えたものだ。偶然と思いつきで結ばれた『縁』の思し召しという奴だろう……。大体、拾ったり助けたりした仲間達が居なければ、この最終戦争さえ迎える事が出来なかった。


 ……たった十年前は、ロンドンの片隅で行く当てもなく、するべき事も見つからなかった孤独な私。だが今は、沢山の仲間と大切な思い出の詰まった世界を守るために、全力を尽くしている。


 私は全てを守ろう。これまでの果てしない苦難の道の果て。私がやるべき事は、まだ到達した事の無い、『未知なる明日』を迎える事なのだ。


 ……私に課せられた『運命』は、世界が滅ぶたびにやり直しを強制させられるという呪いだった。そして、やり直し時に記憶の持越しがされないというオマケ付き……。


 どうすればこの『運命』から逃れられるかを手探りで試行錯誤し、そして死ぬ。悲しい『運命』とそれに翻弄され続けた、幾千・幾万の過去の私。今まで、そんな事をずっと繰り返してきた。


 手元には、その『運命』を搔い潜った「鎖の魔道具」が握られている。過去の私の努力を無駄にする訳には行かない……。


 それらを含め、全てポンコツ女神から私への酷い無茶ぶりの結果だ。……まったく、酷い話もあったものだ。アルファの奴め、いくら文句を言っても納得出来ないわ。


 神々の力でも解決出来ない、このくそったれな世界の『運命』とやらは今ここで終わらせる。


 私達はこれまで決して諦めなかった……。ここに集めた精強な軍団を、私達は必死で用意したのだ。その行動は神様達でも予測不能だったらしい。


 それが、私達が築いてきた『縁』による力だ。何の力も無い人間や魔族達だって皆で協力すれば、世界の『運命』をぶち壊す事が出来ると私は確信している。


 初めは、ほんの思い付きや気まぐれで結んだ人々との『縁』だった。だが、その『縁』のおかげでいくつもの奇跡を生み続けた。我々は数奇な因果の果てに、ようやくこの場に立つ事が出来た。


 ……今、最高の形でこうして戦いの準備が完了した。もうやるべき事は済ませている。悩み抜いた作戦も苦しい訓練も、全てこの時の為なのだ。



  もう、世界を滅亡させたりしないつもりだ。こうなると流石にただの商人とは、到底言えなくなってしまった。……私の今の肩書は『魔王』で『弁財天』である。どうしてこうなった、とは思うのだが仕方が無い。まあ、オマケみたいなもんだ。


 この日の為に物凄い回り道をしてお金を稼ぎ、これだけの軍団を支えるだけの兵站や古代技術の魔改造まで、ありとあらゆる事をやってきた成果なのだ。


 成り行きとはいえ、諦めるしかない。そもそも、オスマン帝国の全面的なバックアップまで用意したのだ。……ああ、長期戦になって補正予算に手を付けるために、マリアちゃんに頭を下げるのは勘弁願いたいなぁ。


 ……ともあれ、ここまで来たらやる事は一つである。



「さあ、行くわよ! 全軍、突撃!!」私の掛け声とともに、各軍団が動き出す。


 千鶴ちゃんが封印を解いて地獄の穴が開き、先発隊は真っ先にあちらの世界に飛び込む。


 私もオメガを操作してあちらの世界に雪崩れ込んだ。鎖で空中に飛び上がり、周辺の様子を見る。幸い特に遮蔽物も無いし、要塞を作るにはもってこいの地形だ。


 少し先には川も流れ、一見すればただの森林に見える。


 ……だが、良く見ればこちらを見つけて群れをなして襲い掛かる『破壊神』の一団を発見した。恐らく偵察役だろう。いずれは、溢れんばかりの『破壊神』とぶつかり合う事になるのは間違いない。


 この世界を見渡して、破壊神を殲滅してこの世界からマナを枯渇させる事を考える……。それがどれだけ大変な作業かは、考えるまでも無いだろう。


 もう後戻りは出来ない……。この世界の命運を掛けた、一世一代の最終戦争に私は覚悟を決めた。

 さあ、150話もの長い間綴られた、この物語もプロローグであった最終戦争に入りました。


 ここ迄書き続けて物凄く楽しい時間でしたが、それももうすぐ終わり。


 最後は誰にも予想出来ないような結末になる様、頭をフル回転させています。


 もうしばらくのお付き合いをお願い致します。


 次回作は、続編のような感じの近未来SFを書きたいと思っています。


 次回作も含め、面白いとか気になった方は、評価☆やブックマークを付けて頂けないでしょうか。また、感想などもお待ちしています。

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