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129.最終戦争の準備が間に合わない!

 なんだかんだと訓練やら物資の準備が進み、いよいよ残すところあとわずかに迫った最終戦争。


 一度始まれば、世界中のマナを全て消し飛ばすまで、止める事は出来ないのだ。


 イギリスやロシアと戦ったような短期決戦ではない。いつ終わるとも知れない闘争の準備が始まる。


「マリアちゃん、あちらの世界に乗り込んで戦い始めるのも、もうすぐなんだけど……」

「お姉ちゃん、理屈は解かります。……でもね、お金が無いの。このオスマン帝国にはね!」


 私とジェームスは頭を抱える。やっぱりその問題にぶち当たるのね……。


「おうおう可哀想に、ワシが準備してやろう。よし、片面のみ印刷した紙幣を用意せい!」

「是清お爺ちゃん、それは昔の不況の話でしょう……」


 是清お爺さんは大蔵省総裁となって、この国の経済を回している。マリアちゃんはと言えば、スエズ運河に鉄道にと、沢山のプロジェクトを統括するマネージャーとなっている。


 横浜に残した孫娘とそれほど年が変わらないマリアちゃんは、是清お爺さんに可愛がられている。


 もっとも、あのお爺さんの元で忙しいプロジェクトを支える辣腕ぶりを見て、応援する気持ちは良く分かる。私達だってそうだ……。


「ふむ、そうだね。そろそろ準備が必要と言うのはもっともな話だ。……国内でのみ流通すると限定すれば、紙幣の導入も検討すべきかね。大蔵大臣?」

「……そうですな、今必要なのは国内の物資流通量に見合う通貨発行ですからな。『魔族』に支払う通貨に限り、紙幣の導入も良いでしょう」


「そうよね、国外に出る許可も下りていないのよねぇ、何で教皇庁の許可が必要になったのやら?」

「……治安維持と言う、もっともらしい理屈をこねて我が国を牽制しているのさ」


 私の溜息は、ますます大きくなる。オスマン国内の治安は予想以上に良かった。やはり、国を挙げてのパレードが正解だったようだ。臣民も新たな隣人を歓迎している。



 ……問題なのは国外の方だ。今なお、列強各国の熾烈な争いは終わる見込みが無い。あれに巻き込まれなくても済んだ、と言うだけでもあの戦争をしたのは正解だった……。


 追いつけ・追い越せとばかりに、順調に交易が伸びているのは各国の植民地や第三国である。


 インドや中華そして日本も、今や目覚ましい発展を遂げている。……皮肉な事に『タンジマート』の影響を最も受けたのは、そう言った第三国だった。


 一方で、南北戦争で泥沼に入った両アメリカ陣営は、各国の介入を受けても耐えきれない模様。……こちらとしても、早く終わって欲しい。こうなると交易の邪魔でしかない。


「お互い、もう賭けるだけのタネ銭も残ってないわ。何処かに仲介を求めるでしょうね」


 ……マリアちゃんは、冷静に南北戦争の行方を読み切っている。こりゃ、誰も頭が上がんないわね。


「なるほど、中立で発言力の有る我が国か、教皇庁か……まだ、決めかねているのかね?」

「ふはは、そうもなろう。……我が国には借款も無いし、いくらでも手配してやるのにのう」


 是清お爺ちゃん的には、一本残らず毛を毟り取る準備に余念が無い。


 ……そりゃ、イギリス的にはウチの借款分を南北戦争で取り返さないと、今後の外交に差し障りが出るもの。何としても和平させたくないでしょうね……。


「あっきれた、そんな下らない理由で殺し合いをしてるって事? いい加減、女王陛下の横っ面に一撃入れる必要があるわね!」私は呆れて声を荒げた!


 ……私は本気だ! 今なら、スエズ運河の使用権を取り上げる事だって出来るのだ。ウチが本気になれば、イギリス本土を干上がらせる事だって……。


「そうだね、そろそろ良い頃合いかもしれん。アキラさんに是清さん。ちょっとイギリス大使館へ連絡を頼むよ……」

「よし、早速使者を出そう。要件は……やはり」


 事、ここに至っては全員の意見を聞く必要さえない。……全員無言の賛成である。


「南北戦争への和平交渉を執り行うと宣言したまえ!」

「最後通牒になりますな……」ミドハト様は覚悟を決めたようだ。


「この期に及んで、一戦交えようなどとは思わないだろうが……それで構わん」


 まぁ、交渉の際に「魔族の国外への通過」の提案をのませれば、こちらとしてもやぶさかではない。


「……いよいよ、運河も完成します! じゃんじゃん儲けますよー!」マリアちゃんは頑張るわねぇ。

「ウチの嫁に似てきたんじゃないかな。良い啖呵じゃねえか……」


 ……良いのよ、私はもう商人は引退したの! いくら金があったって、世界が終わったら元も子もないわ。


「マリアちゃん……じゃあ、こっちの要件をお願いね」

「……海軍予算を削減して、そちらの兵站を賄います。黙って、軍隊同士で食い合いしてて下さい!」


 マリアちゃんの無慈悲な宣告は、千鶴海軍司令官への効果は抜群だ!


「あぅー。我等が帝国海軍インペリアル・ネイビーの夢がぁ……」


 千鶴ちゃん、諦めなさい! イギリスとの戦争が無い以上、そこから予算をひねり出すのは、想定の範囲内じゃないの。


「……仕方が無いです、諦めて遠征軍に海兵隊を回しますー!」千鶴ちゃんがここでギブアップ。

「わーい、お祭り、お祭り!」今度は千鶴ちゃんの頭上もフェアリーさんが領空侵犯している。


 ……ここの王族は、何時まで経ってもフェアリーの遊び相手になりそうだわ。



 ともあれ、最強の敵たる「大蔵省とその使い」をやっつけた訳だ。


「ふふふ。我ら大蔵省は、財源の中でも最強! 来年をお楽しみに!!」


 いずれ、第二・第三の補正予算が立ちふさがりそうだ。帝国海軍インペリアル・ネイビーの明日はどっちだ!



 さて、茶番は終わり。作戦会議に入るわよー!!


『へーい!』何ともやる気のない返事である。


「作戦はこうね。封印を破った後は、先発隊で要塞構築予定地点を奪取。残りの部隊で攻撃を凌ぎながら、工兵隊を主力として物資を輸送します」

「はい、任せて下さい!」フェンリル君とトール君が工兵部隊長となっている。


 工兵隊のメインは巨人族による運搬と、ゴブリン・コボルド等による塹壕構築となる。


「まずは北方面から! 各四方面に要塞を建築したら、交代で守備に就いてもらいます」

「オス、頑張る!」レイ君は守備大隊の隊長を務めて貰う。ヒサ君とクロさんも守備隊隊を率いる。


「騎馬部隊は予備兵力とします。先発隊は、周囲の地形を確認しつつ、威力偵察を実施します! 周囲の地図完成を以て、中心部への侵攻を開始します」

『おう!』


 やはり、先発隊の負担が一番多い。そのため、全軍の中からも最も攻撃力の高いメンバーを集めている。ここで躓く訳には行かない。


 ……大丈夫かねぇ、この計画書?


「先発隊の指揮は、私アキラと千鶴ちゃん。魔導師部隊の指揮はホルス君よ。みんな、お願いね!」

「サー!イエス。サー!!」


 さて、中心部への侵攻まで最短でも一か月は掛かるだろう……。


 それまでに私達は、先発隊が逃げ帰らない様に、訓練を徹底する役割となる!


 ……さぁ、特訓の始まりだ!


 私の振るう「鎖の魔道具」で枯渇する戦場のマナ。それを耐えしのぎ、部隊を散開させつつ集中攻撃を行うのだ。訓練時死傷者5%、などと弱音を吐く訳には行かないのだ!


 これが無事に終わらせて世界の崩壊を止めるまで、まだ見果てぬ『明日』を見る事は叶わない!


 私は、皆に『まだ見ぬ明日を目指せ!』と鼓舞しつつ、厳しい訓練を続けるのだった。

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