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128.つかの間の平和

「しっかし、千鶴ちゃんの一世一代の晴れ姿を見るためとはいえ……随分と集まったわねぇ」


 『破壊神』との戦闘から半月ほど経ち、ひとまず平和を取り戻した我々は千鶴ちゃんの結婚の為に関係者を呼び寄せた。細かな説明はしていないが、皇帝陛下との婚儀と聞いて黙っている訳が無い。


「良いんですか? 披露宴の料理を作らせて貰っても」

「ダニエル君、ムラトさんの為だもの。腕によりをかけて作って頂戴」

「リスボンからあっという間にイスタンブールに来れるとは……隊長、どうやったんですか?」


 ……千鶴ちゃんの関係者。つまりは、ロンドンにリスボン。ダルイムの街や横浜からも人を呼ぶ事になった訳だ。千鶴ちゃんは人気者よねぇ。


 リスボンからは、クルシマ商会の面々。エリオ達は残念ながら来る事は出来ない。


 ロンドンからは、グレックさん一家やダニエル君達、何時ものメンバー。そして、例の変人共も集まった訳で……。一体何が始まるんです? と言う雰囲気だ。


 何これ、酷い。戦勝パレードと結婚式を執り行う日程が突如決定し、大急ぎで準備を整えて……。


 そして、魔王軍のお披露目となる。そりゃ、イスタンブールは大騒ぎで混乱中だ!


他国列強は「オスマンは、悪魔に魂を売った!」とか何とか、一部の国が大騒ぎしているらしい。特にイギリスとロシアの事なのだが……。酷い逆恨みである。


 戦勝パレードはエジプトで始まり、魔導師部隊やエジプト攻略時の近衛隊と言った面々。そして遠征軍と魔王軍が仲良く歩いている訳だ。はた目には、ちょっとした百鬼夜行である。



 アレキサンドリアからは旗艦に乗り込み、観艦式を執り行う事になっている。


 この旗艦は、唯一の大型装甲艦である。……装甲や速度も技術の粋を集めた逸品である。各国の建艦競争での負担を掛ける為だけに、嫌がらせの意味を込めて作った。


 ……イギリス大蔵省は、海軍予算の圧迫で大変お怒りらしい。


 さて、選りすぐりの水兵達を前にして千鶴ちゃんは宣言を行う。千鶴ちゃんの立場は、皇后兼、海軍司令官という事になる。


 今まで、散々罵倒されていた荒くれ者共も、この一世一代の大舞台には大喜びである。


「聞け! 私はオスマンの海を統べ、この国を守る盾となろう!」

『サー! イエス、サー!!』

「私はここに『帝国海軍インペリアル・ネイビー』を設立する! 皆よ、鬨の声を上げよ!」

『サー! イエス、サー!!』


 まったく、誠に勇ましい皇后様である。……そりゃ、陸・海軍共に彼女の罵倒を浴びていない人間の方が少ないのだ。もしかしたら、皇帝陛下よりも人気があるかも。


 そして、その皇帝陛下はフェアリーを頭にのせながら、にこやかにパレードを進む。臣民達も大喜びで出迎えている。


 ……ここイスタンブールでは色々と苦労はしたが、良い結果になったと思う。


 憲法が発布されて国民は戦勝に沸き立ち、このめでたい日を皆で喜んでいる。


 様々な人々の苦労の末、ようやくこの国は西洋に負けないだけの力を持った列強として、嫌でも注目される立場になったのだ。


「ジェームス、ここに来た時はこんな事になるとは思わなかったけど……頑張った甲斐があったわね」

「……そうだなぁ、いきなり造船所に押しかけて啖呵を切って。得意でも無い政治の裏側で暗躍したからなぁ。色々あり過ぎて、何が何だか」

「そうねぇ……。ここに集まったメンツを見ると私達が何をやっていたか、改めて考えさせられるわね……」



 種族も時代も超えて、無理を押し通して人々の笑顔の為に頑張って来た。


 教育や勤労、国民としての誇りを取り戻した者達。今や、貴族や貧民も異なる宗教も差別される事無く、誰でも良い生活に憧れて頑張ろうと考えるようになった。


 もう「アラブのIBM」などという、不名誉な言葉を使う者もいない。


 今やオスマン帝国は、世界でもトップクラスの水準に迫る勢いで識字率や死亡率は、改善の一途である。もう、死んだ魚のような眼をした者など何処にも居ない。


 ……後は、スエズ運河が出来て優れた教育機関から史実よりも強化された『ケマル・パシャ』が発見されて、繁栄する事だろう。


 それも、数十年先の話なのだ……。流石に、ここに居る誰も見る事は出来ないだろう。ただ、この世界は『きっと明日はもっといい日になる』と確信出来る。


 そうして、遠征軍と魔王軍のパレードがやって来た。……戦友達が肩を組み、大騒ぎをしながら周りを驚かせている。姿形も習慣も、何一つとして同じものは見られない異なる種族の集団だ。


 だが、魔王軍もイスタンブールでの受け入れが決定し、普通に街中を歩き回る事になる。そうして、何時かは魔族が当然のように、良き隣人として生活するのだろう。


 ……あのフェアリーに限らず、こちらの世界に興味を持ってやってくる魔族は多い。軍人としてではなく、面白い事を探してこちらに移住する者もかなりの数になる。


 キリスト教圏では受け入れられないかもしれないが、アラブやアジア方面なら魔族が旅をする事も出来るだろう。ここは、人間と魔族が共存する世界。……きっと、凄く面白くなるのだろうなと思った。



 ……共存するで思い出したのだが、ロンドンの変人組がヤバい。


 どうやら『オスマン帝国改造計画』なるものが提案されたらしく、ムラトさんが頭を抱えている。


 アイツら、イギリス本土は鉄道と蒸気船で開発し尽くしたと見え、どうやらここで第二ラウンドをやろうと企んでいるらしい。


 いや、別に問題がある訳でも無いし、経済が活発になるのは良い事なのだが……。


 だが、あの変人共がそんな真っ当な事をする筈が無い……。絶対に暴走すると断言しよう。


 フルトンは、新型機雷と巨大装甲艦の設計図を持って宮殿にやって来た。『鉄道バカ一代』スチーブンソンは、イスタンブール~スエズ間の長距離列車の計画書を提出した。


 そして、マードックその他メンバーで「スエズ運河開発促進プロジェクト」を計画しているらしい。


 ……とにかく、アイツらイスタンブールをロンドンと同じ様にするつもりらしい。


 ちなみに、ロンドンでどれくらい開発し尽くしたかと言うと、既にイギリス本土の鉄道は各地方路線でさえ複々線化されている。


 そして緻密なダイヤグラムを駆使して、15分に一度は列車が出発するロンドン駅。既に各地域への移動・輸送は、全て鉄道が無いと出来ないレベルになってしまった……。


 ……どんだけ、史実の前倒しをしているのよ! 誰がそこまでやれと言ったのか?


 ともあれ、新しい玩具を見つけた子供の様にはしゃぐ変人達をどうするか、悩みのタネである。



「さてと、ここのイベントがひと段落したら、俺は魔道具工房に籠る」ジェームスが言った。

「……何か研究するの?」

「ああ。マナを枯渇させる方法がな……一応、青写真だけはある」


 それは助かる……。あの『破壊神』のいる世界から、マナを完全に枯渇するしか倒す方法が無い、と言うのが今の我々の結論。


「一応、この鎖や『ブラックホール弾丸バレット』で対応する計画だけど……」

「出来れば安全な方法にしたいからな……問題は無い筈だ」

「……どんな方法なの?」


 そんな方法があるのなら、そもそも最終戦争自体が不要じゃない。事が事だけに気になる。


「アルファの製造過程の前提技術なんだ……ナノマシンを作る」

「ナノマシン……って何よ?」

「目には見えない、物凄く小さな魔道具……って所かな? それを大量に散布すれば、マナは枯渇する」

「良いじゃない、それ。何か問題があるの?」


 ……ジェームスは、それを聞いて難しい顔をする。


「枯渇する程の大量の魔道具をどうやって作るのか、って事だな。一応、理論は出来ているが」

「……よく解かんないわねぇ。詳しく教えて?」

「要するに『小型の魔道具を作る魔道具』を作る。そいつが作った魔道具も同じように『さらに小型の魔道具を作る魔道具』だって事さ……要するに、自己増殖するナノマシンなんだ」


 そりゃ、一つ一つを手作りとは思っていなかったけど……。何と言うか、私には嫌な予感がした。こういう時の勘は、良く当たる。


「……ジェームス。一つ聞いて良い? 自己増殖するナノマシン、本当に安全に管理できるの?」

「あぁ、お前なら気が付くと思ったよ……。そうさ、作る技術はある。だが、一度コントロールを間違えると……」

「間違えると……?」

「ありとあらゆる世界が、ナノマシンに食い尽くされる!」


 ……あぁ、やっぱりここに来ても厄ネタだわ! 知ってた、知っていたわよ。どうせそんな事だろうと思っていたわ。


「だがなぁ、アルファを製造する為にはこれが不可欠なんだ。……アイツ、他人の魂と記憶を使う訳だ。だが、他人の肉体の複製も必要なんだよ」

「……えっと、魂と記憶だけでは再現出来ないって事?」

「そうさ、それに合わせた肉体を再現するのに、ナノマシンを使う。アルファの体は、ナノマシンで構成されるんだ」


 ……さすがは最高神。ポンコツ女神とはいえ、スペックが高い。それをジェームスが作る、って訳かぁ。……頭が痛い。


「俺も、製造方法を知った時には頭を抱えたよ……。だから、作る知識以前に安全性を考慮しないと、最高神どころか『邪悪な何か』になるかもしれん」


「……そう言えば『破壊神』って、創造神が作った訳じゃないわよね……。もしかして、あれって」

「可能性はあるな……。作り損ねた最高神が『破壊神』になったとしても、おかしくない」


 あぁ、考えたくない……。もしかしたら、古代ローマでやらかしてしまったのかもしれない。過去の私が原因かもしれない……。そんな可能性は、幾らでもあるのだ。


 ……やっぱり暴走した高度な技術って駄目ねぇ。『呪いの魔道具』を思い出す。


 私は『オスマン帝国改造計画』も、暴走する変人達のせいでおかしな事にならないか。そんな不安に怯えながら、考えを巡らせるのだった。

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