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126.戦いへの覚悟を決める日へ

 『破壊神』との戦いも終わり、面倒な話し合いの結果として自覚の無いままに神様の仲間入りを果たした私達。いい加減、緊急事態も終わらせなければ。


「じゃあ、魔王軍全員でイスタンブールに向かうのね」

「大丈夫、既に受け入れ態勢を準備してある。最終戦に向けての訓練と兵站の準備は、オスマン帝国が担当する。元々、個人で対応出来る規模では無いからね」

「そうねぇ……ロンドンやダルイムの街では、キャパオーバーになるのが関の山ねぇ」


 いくらマリアちゃんが優秀でも、未知の異世界で大量の兵隊を捌くのは無理だ。むしろ、イスタンブールへ連れて行く方が良いかもしれない。


「ムラトさん、ロンドンから補充要員を追加しても良いかしら?」

「構わないよ、実際人手不足だからね」

「グレッグさん一家とマリアちゃん、エマちゃんやレオナルドさんも合流させたいわ、ジェームスはどうするの?」

「俺は、マナを枯渇させる魔道具作りがしたいんでね。工房さえあれば、何処でも良い」


 じゃあ、やっぱりイスタンブールに集合させるのが一番って訳ね……。


 戦争も終わったばかりだというのに、大丈夫だろうか。そう言えば、憲法制定と凱旋パレードを一斉に執り行うとか。ドサクサ紛れになし崩しな感じで、魔王軍とロンドン組が勢ぞろいと言った趣かな。


「訓練するなら、広い場所が必要ですからね。イスタンブールなら問題無いでしょう」

「そうね、ロンドンで練兵なんてしたら大騒ぎだし……。ダルイムの街も交通の要衝だから、難しいわね」

「消去法だな……迷惑かけてすまんな、ムラト」


 『タンジマート』の影響で人の出入りが激しいイスタンブールだから、可能な話ではある。魔王軍を見てどう思うか、まではちょっとわからないが。


「気にする事は無いさ。既に兵隊を送り込む際に、異世界の話は通達してある。人を襲わないと分かれば、平気な物さ。ましてや、皇帝の凱旋パレードでお披露目してやればね」


 皇帝陛下こと、ムラトさんも随分と図太くなったものだ。我々の薫陶は生きている。そりゃ、無茶振りの数々を思えばさもありなん。



「平和に事が済めば、過程は気にしないわ。大手を振って入国しましょう」

「そうだな、親愛なる千鶴嬢のお嫁入だしな。親族がいないし、友人枠として盛り上げてやるよ」

「良い機会だから、ロンドンにいる面々も連れて来ましょうか。せっかくの披露宴だしね」


 派手なパーティーになりそうだ。異世界の事を話していないメンバーもいるが……何とかしよう。幸い、異世界の時間軸はそれほど離れていない。上手く誤魔化すとしよう。


「それで、結婚披露兼凱旋パレードの予定は?」

「……それがね、まだ決まっていないのさ。憲法発布との調整に苦労していてね。是清先生がいてくれて助かったよ」ムラトさんが愚痴を呟く。

「しっかりしてよね、皇帝陛下。もう、あっちこっちをぶらつく訳にも行かないんでしょう?」


 覚悟を決めて、国を指導する立場になると決めたらしい。気軽には会えなくなるが、それも人生だ。


「そうだね、最終決戦は千鶴に任せる。こっちは後方支援で頑張るさ」

「それじゃあ、時間も無い事だしとっとと移動しますか」


 戦闘メンバーはそのままイスタンブールへ。ロンドンから何人か連れてくるとして……。マードック達はどうしようかしら。一声掛けてみるかな。


「イスタンブールに変人共が集結しそうね……」

「なっ、いや構わないが……。その言い方には棘があるよ」

「別段、何をする訳でも無いけど……騒ぐわよ、きっと」


 こういう予測は外れて欲しいのだが……。色々なメンバーが一堂に会するのは間違いない。変な化学反応を起こさないと良いけど。



 ……後の『イスタンブール七不思議』の原因であった。


 そんなナレーションが聞こえた気がした。……多分、リズさん辺りがやっているに違いない。どうも、神々の会議以降、身の回りに変な現象が起こっている気がする。


 あの出鱈目さがこっちまで影響しているに違いない。考えもせずに引き受けちゃったけど、神様って何をすれば良いのやら。


 ともあれ、最終決戦まで多めに見積もっても10カ月。最短は半年とすれば、もう時間は無い。


 未だ軍隊としての熟練度がイマイチな魔王軍達を、何とか戦術的に構築するまで訓練時間が必要だ。……人材的には、問題が無いのだが将官をどうするか。


 やはり魔族の習性で、強いボスを求める感覚は強い。一応、その部隊で一番足の速い人物がまとめ役になっている。……『全軍突撃ドクトリン』などと感覚的に訓練したからなのだが。


 そこら辺は、ロキさんやクロさん達の魔族組とレイ君やオスマン陸軍の士官達での話し合いが必要だ。多分、「釣り野伏」戦術を徹底させる役目が必要になって来る。


 「釣り野伏」自体の概念は、ものすごく簡単だ。なんせ「逃げたフリをして、反転しながら左右からも攻撃する」だけだから。ただ、そのタイミングを調整するのが難しい。恐らくだが、これって独特のセンスが無いと無理じゃないかな?



 そもそも「釣り野伏」がそんなに有効なら、薩摩武士以外が使う筈なのだ。


 ……それが残っていない理由は、それほど有効じゃないか……特殊な直観が必要か。何となく後者の気がする。


「ねえ、クロさん。『釣り野伏』って、どうやって指揮するの?」

「うむ、それはじゃな。……呼吸と言うか、雰囲気と言うか」

「ああ、やっぱり独特の感覚が必要なのね。……特訓が必要そうね」

「……そうじゃなぁ。ヒサよ、お前が指導してやれ!」


 その手があったか。確かに、これ以上無い程に戦闘のセンスがある。


「オイの指導ば、厳しかぞ?」

「良いわよ、出来るだけ早く確実にものにしないとね。……全部任せるわ、好きにしなさい」

「……分かりもした。出来るだけ、死人ば出さんようにせんと」

「ま、元々死人が出るほど厳しい訓練はしているから、大丈夫だと思うわ」


 訓練時死者率5%の数字は伊達ではない……。陸軍創設時から傍に見続けている私には分かる。


 ……あんな無茶な訓練、一体何と戦う前提なんだという話。ロシア戦で思い知ったわ。


 レイ君の基準は、絶対に異世界感覚。生きるか死ぬかの瀬戸際で、踏みとどまって戦う前提なのだ。あの戦争屋ウォーモンガーめ!


 根本から前提が違う。まあ、そのおかげで『破壊神』とも互角に渡り合えたのだが。



「よか兵子じゃ、ちくと楽しみじゃて!」訓練での死亡率を聞いてヒサ君が一言。


 ああ、ここにも戦争屋ウォーモンガーがいたわね。うーん、流石に5%の数字は死守したいわ。


「ヒサ君、ちょっとだけで良いから手加減してね?」

「……訓練で死ぬ方が、苦しまんで済むでごわす」

「ごめん、軽率だったわ。……今の発言は撤回する」


 それもそうか。手を抜けば、実戦で惨い死に方をする。それも複数人を巻き添えにして。


 それが分かっているから、レイ君もヒサ君も一切手を抜かないのだ。


 しかし、あの世界は本当に生死感が干からびているわねぇ……。こういう時は、自分も普通の人間だと実感する。何故にあの世界だけ、殺意が高いのだろうか……。


 『破壊神』が近いという事もあるのだろうか。それとも、魔族の本質がそう言う生死感を与えるのか。


 詳しい事は分からないが、これから準備する最終戦争は、そう言った感覚で挑まないと死ぬという事だけは分かった。これは、考えを改めないと。


「……ホルス君とメルちゃんには、本格的に魔導師部隊を編成して貰わないといけないんだけど」

「はい、そのつもりです。今までの戦いは、ちょっと甘く考えていました……」

「それなんだけどね……。私が訓練に参加するわ。最終戦争の考え方を改めないと」

「……え、どういう意味ですか?」


 どうも、こっちのメンバーは分かっていない様だ。直接、鎖の魔道具と『破壊神』の戦いを見た訳では無いからか。『マナを枯渇させる』と言う戦いについて、理解をさせないと死ぬ。……残らず死ぬ事になる。


 そんな事は回避させるべく、私は魔導師部隊への啓蒙をする必要がありそうだった。

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