125.あるいは神様でいっぱいの世界
「お母様、今回私がここに来た理由はいくつかあります。先程の業務連絡がその一つです」
「……随分と重い業務連絡ねぇ? それで、他の理由って一体何なの?」
アルファとの会話は気持ちが落ちる。……何と言うか疲れるのだ。空回りする気持ちと発言の落差のせいだろう。
「そうですね。親子の語らいと行きたいところなのですが、事務的な話になります」
「事務的ねぇ……もっとこう熱い話は無いのかしら?」
「ある意味、熱い話ではありますね。お母様御一行は、世界を救う活動により神様として暫定的に認められます。そこで、神々による話し合いの上で役職や肩書を決める会議を行います。よろしくお願いします」
えっ、何それ。聞いていないわよ、そんな事……。しかも神様達の話し合いに巻き込まれるって事?
「随分と私達も、そう言う突飛も無い話には慣れて来たと思っていましたけど……」
「千鶴ちゃん、諦めましょう。何とか辞退出来るとも思えないわ」
「……私やジェームスにとっては『神々』と言う時点で拒否反応が起きるのだがねぇ……」
「そうだな、俺はもう慣れたぜ。諦めろよ、皇帝陛下様」
もう私達にそう言う余裕は無い。……世界を救った後に身の振り方を考える事にしましょう。
ともかく、出来るだけ話をスムーズに当たり障りの無い程度に収めて貰って……。
「それじゃあ、アキラちゃんを『運命の三女神』の四人目に推薦します!」
「リズさん、何言っているのよ? ややこしいし、面倒を引き起こす未来しか見えないわよ!」
『むしろ、時空の神として扱う方がシンプルじゃないのかね?』
どいつもこいつも面倒事ばっかり! 神様達の玩具じゃないんですからね!
「……その意見については、ギリシャ神達と北欧勢から却下の申し出がありました。撤回して下さい」
「ちっ、アイツらを巻き込んで騒動を起こしたかったのに」
「リズさん、自重して下さい。何で、揉め事を増やそうとするのよ!」
「せっかく、どさくさに紛れて『破壊神』退治に参加しようと思ったのに……」
いやまあ、手伝うのは良いとして絶対後で揉めるよ、その話。まったく、油断も隙も無い……。
「何か、アジア系の方の意見が紛糾していますね。発言をお願いします」
「おう、代表の姉ちゃんは日本人らしいじゃねえか。八百万の神々として、黙って見ている訳には行けねぇ」
神様達にも派閥とかあるのかしらね……。面倒くさいなぁ、正直。
「確かにメンバー内にも巫女がいますし、そちらの意見も尤もです。何か良い意見でも?」
「そうさねぇ。女性で知恵も回るし、金回りも良いと来た。しかも船に所縁があるじゃねえか。権限移譲になっちまうが『弁財天』なら丁度良くねえか?」
ええと、纏めると私個人の経歴から七福神の『弁財天』の役目を……。しかも、今の神様から代替わりしろと。ええい、無茶を言うなぁ!
「……申し出は嬉しいんですが、その出来ればもう少し抑え目でですねぇ」
「いや、そこら辺のメンバーも纏めて、いっそ七福神全員にするってのはどうだい?」
「中々、強引ではありますが……何とかならない訳でもありませんね。現役の方々のご意見は?」
流石に、日本の神々は寛容である……。外人も纏めて日本の神様にしようと言う、強引な理屈を無理矢理通すお国柄だ。そりゃまあ『八百万』の名の通り、色んな神様がいるのだから多少の無理は出来るのだろう、と感心してしまいそうになった。
「すまんが、ムスリム教徒としてアッラーの教えを曲げる訳にはいかんのだが」
「……ええ、了解は取ってありますよ、そちらの方には。世界を救うのに必要なら、今回ばかりは目を瞑るとの事です。一神教の方々もご心配無く」
「……アルファ。そういう事じゃないのよ、問題は。信仰心とかそう言うね?」
やはりこういう所はポンコツ女神である。……と言うか、根回し済みだったの?
最高神が直接来るわ、一神教への線引きもするわで無茶するわね。……本人の顔色的には『良い仕事するでしょう?』と、どや顔なのが更にムカつく。
「とにかく、別に神様になりたい訳じゃないのよ、私達は。……世界が平和になれば、どうでも良いのよ」
「お母様、私の望みを聞いて下さったんですね。色々とお願いはあるのです!」
「いや、無理よ。目の前の人は助けられるけど、全部の世界を廻るなんて出来る訳無いでしょ! 物理的に不可能なのよ!」
今でさえ、精一杯の無理をしているのだ……。一人でやるのも限界と言うものがある。
「そうですか……。物理的に無理、と。その件はちょっと考えておきます。他の神々からの意見はありますか?」
「インド勢は、概ね問題無いね。元は俺達の管轄だが、信仰地域が違うから構わんよ」
「中国周辺も大丈夫ですね。密教扱いなら、仏教と重なることもありませんし」
何と言うか、神様のオンパレードである。……実際問題、口を挟んでいいか悩む。
「ちょ、ちょっと! 何、しれっと進めようとしているのよ、アルファ! 本人の同意は……」
「そうでしたね。七福神の方々の意見を聞くのを忘れていると判断します。権限委譲となりますが、ご意見はありますか?」
違う、そうじゃない! あぁ、何で神様相手にツッコミを入れなければならないのか。これが分からない。
「そうねぇ、芸能関係とか長寿とか難しい願いもあるけど、何事も経験よね。これだけ人数がいるなら、何とかなるでしょ。私達も飽きて……いえ、そろそろ後進に譲らないとねぇ」
今、飽きてって言わなかった? 神様の考える事は、よく分からないわ……。と言うか、そう言うのって襲名制だったんだ……。
「あのー、私の破邪の力って海賊由来で『弁財天』様が守護神だったんですが……。今後、私は誰に祈れば良いんですか?」千鶴ちゃん、質問するのはそこじゃないのよ。他に言う事無いの?
「あー、それねぇ。元々こっちの管轄から外れてたみたい。……どうも、そこら辺が曖昧でね。多分、今回の襲名関係で未来から過去に介入しちゃってるみたい。多分だけど、襲名したら祈らなくても力が使えると思うよ?」
うん、この『弁財天』様も大概ね。……もう、諦めちゃおうかなぁ。神様達がいっぱいなこの世界で抵抗する気力が削がれていく。
「アキラ、東洋の神様と言うのは良く知らないが、こういう感じなのか?」
「……そうねぇ、結構単純な理由で神様になるしね。祟ったら神様、災害が起こったら神様って位? 戦争での死者が祭られる事もあるから……。無茶苦茶、基準が低いと思うわ」
「……そうか。そう言う所もあるんだなぁ。まあ、週末にミサに通うのは変わらんがな。……アルファの事を考えると、ある程度の必要性もありそうだ」
ああ、そう言えば製造責任者になるのよね、ジェームスは。……間違ってクーリングオフされない様に、必要なのかしらね。神様を育てた事が無いから、よく分からないけど。
「……そう言えば、忘れてたわ。作り方は知っているの?」
「ああ、アルファから過去の自分の知識を渡された。……ちょっと気になるんだが、俺はアルファの容姿を見て作る事になるんだが……そもそも、アルファの容姿って誰が決めた事になるんだ、この場合?」
「……あぁ、私も経験があるわ、カレーだけど。結論としては『深く考えない事!』らしいわよ」
タイムパラドックスと言うか、未来から過去への介入ってこういう訳の分からない現象が起こるから嫌いなのよ。最高神が率先して破るから、注意も出来ないし。
ともかく、私達には時間も無いし余裕も無いのだ。神様達の話などどうでも良い。今忙しいから、後にして欲しいんだけどね。
「アルファ、悪いけど面倒になりそうだから穏便にね。……別に『破壊神』退治に影響する訳でも無いんでしょう?」
「確かに、撃退だけなら何とかなるでしょう。……ですが、相手は仮にも神なのです。呪いとか神罰とか、ありえない話では無いですよ。神様としての『役割』を持てば、他の神々からの加護を与える事も出来ます」
「……そうか、確かに『破壊神』なのよね。倒した後の保証は欲しいわね」
意外にも、現実的な落としどころだったようだ。……確かに、周りへの影響も考えるとそういう効果もあるのか。
「分かったわ、私の負けよ。……有難く拝命させて頂きます。えっと『弁財天』及び『七福神』で良いんですか?」
「はい、承認致します。上手くお母様に加護を与える事が出来て、私は安心しました!」
「アルファ、今度はもうちょっときちんと説得しなさい! 説明不足と人への配慮が足りないわ、全く。そんな事じゃ、神様失格よ!」
まったく、この最高神様は世間知らずで困る……。加護を受ける事になるのなら、暫く接する事も多いでしょう。この子の将来の為に、色々と教える事もあるだろう。
私は、この面倒な神様の相手が終わる事を何処かの神様に……いや、もう私達が神様なので拝む先さえ見つからないから、自力で何とかしないといけない悩みを抱える事になったのだった。