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123.全てを吸い込む一撃

 ジェームスがこちらを睨んでくる。その具体的な対策を説明するように、目だけで催促する。


「それで、どうやってその『ブラックホール』とやらを作るんだ?」

「オメガには、あらかじめ後装式の銃を積んでいるわ。操縦席から直接打ち出す事が出来るの。飛距離は……そうねぇ、三百ヤードって所かしら」


 私は、事前に色々と内緒で試していた。流石に、こんな危ない力をぶっつけ本番で使って、世界を滅ぼしたくはない。


「それでね、弾はこれを使うの」

「それは……魔導石か。それならサイズでチャージする量も調整出来るし、魔力の通りも良い。威力はどうなんだ?」

「大体、十分の一インチあたり直径二十ヤード位のブラックホールが出来るわ。魔導石の扱いなら慣れたものよ。チャージにかかる時間もおおよそ推察できるわ」


 あのデカブツが目視で二百ヤードと言ったところか。小さな中型魔導石で丁度良い位だと思う。


「よし分かった。仰角は四十五度で発動時間が……十五秒って所だな。あまり近付き過ぎると、あの腕が飛んで来るからな。残り時間五秒で発射すれば、上手く発動するんじゃないか?」

「そうね、早すぎても遅すぎても危険ね。……千鶴ちゃん、測量機を持って観測役を頼むわ」

「はい、わかりました。ちょっと間違うと世界が消えるって、責任重大です」


「それで、マナの減り方はどうなるんだね?」ムラトさんが心配そうに質問する。

「大丈夫よ。上手い具合に、この魔法の変換効率は物凄く低いの。大量に『オド』をつぎ込めば、辺り一帯のマナが枯渇するまで吸収を続けるわ。枯渇したら『ブラックホール』も消えるから一石二鳥ね」

「アキラちゃん。実験とはいえ、そう簡単に使う魔法じゃないからね。気を付けてよ」


 リズさんは心配性だなぁ。……そこら辺は自分でもちょっと躊躇した。とはいえ、いざという時の為にやっておく必要があったのだ。


 しかしまあ、変換効率が低くて上手い具合とは……ホルス君辺りが目を回して悩んでいる。苦労しているわねぇ。



「……それにしても、今のこの状況に合わせたかのような魔法だね。それも神様とやらの計画なのかい?」

「そんな事は無いと思うがの。あのポンコツがやる事にしては、用意周到過ぎるわい。何らかの能力が発動しておるのではないかな?」


 何だかご都合主義と言われそうだが、その辺アルファに聞いてみたいものだ。お婆さんの話では『運命』とは違うようだし。


「ともかく、色々と検討したが何とかなりそうだ。……とはいえ、アキラ一人に任せたらどんな結果になるか分かったもんじゃない!」

「それには同意します。アキラさんはどっか抜けていますからね。大事な場面で失敗はしないと思いますが」

「私は、あのデカブツが消えた瞬間に合わせて封印をしないといけないから、付いて行くわよ」

「……という訳で、ここに居るメンバーは全員監視役として付き合って貰うぜ! 気が乗らない奴は言ってくれ」


 ……随分と信用の無い事だ。私だって、事を慎重に進める事ぐらいちゃんと出来るのに。


「俺達は、運命共同体だからな。駄目だと言っても付いて行く。諦めろ」

「はいはい、分かりましたよ。まったく、どうせ面白そうだから見物したいだけの癖に」

「……否定はしませんよ。見た事の無い魔法には興味があります」ホルス君は楽しそうに言い切った。


 どいつもこいつも、緊張感が足りない。そりゃ、こんな状況で付いて来るような変人ばかりだし、仕方が無い。


 ……私達って、本当にシリアスな状況が苦手よねぇ。この変人共め!



 そういう訳でオメガの肩やら腕に命綱を付けて、見物人達が騒ぐ。


「あと二百ヤードで発射予定地点です。周囲の警戒を厳重にしてください!」

「マナの濃度で意識が飛ばないように注意しろ! 酷い状況だ」

「皆、この弾を発射したら巻き込まれない様に全力でダッシュするからね! しっかりと掴まっていなさいよ」


 さて、取り出しましたるは魔導石。慎重に大きさや透明度を選んである。一応予備も用意したが、こんな状況で失敗したらやり直しなんて出来ない。


「あ。そういえば、この必殺技の名前を考えてなかったわ! 失敗したわね」


 呆れる皆を他所に少し考える……。まあ、適当に叫んでおきましょう。別に成功率が上がる訳ではないが、残念だわ。それはともかく、発射予定地点に到着した。可及的速やかに済ませてしまおう。


 大きく息を吸って、大量の『オド』を流し込む。……少し頭に響くが影響はない。こんなに大量の『オド』を使う事は今まで無いので、慣れていない。


「ジェームス、千鶴ちゃん! 魔力を込め終わったわ。今、発射準備が終わったからカウントダウンを宜しく!」

「おう! 十秒前……九、八」ジェームスが声を裏返しながら慎重にカウントダウンしていく。

「奴はピクリとも動かない! 仰角を四十五度に上げろっ!」


 皆が息を押し殺して、見守っている……。ちょっとでもタイミングがずれると、地面に取り返しのつかない大穴が開く。『破壊神』の本体が飛び出す事だけは絶対に防がなきゃ。


「三……二……一……行けっ!」


「『ブラックホール弾丸バレット!』発射シュート!!」


 重力の魔法自体が見える訳ではないが、吸収するマナに釣られて砂ぼこりや煙が巻き上げられて、彗星のような尾を引いて真っすぐに飛んでいく。


 何も知らずに見れば、綺麗なものである。……少なくとも発動の瞬間までは。



「……来るわよ。全員退却! この地域から離脱する」


 必死でオメガを走らせる。計算ではあと百ヤードは離れないと、ブラックホールに吸い込まれるのだ。それだけは避けたい。


「アキラちゃん、あんまり遠いと封印出来なくなるからね! 限界まで粘って」


 リズさんも難しい注文をするものだ……。こっちはブラックホールの方は見ていない。千鶴ちゃんが随時様子を伝えてくれている。


「ブラックホールが完全に広がりました! 計算通りですけど……本当にマナが枯渇するんですか?」

「ええ、随分とマナの濃度が下がりました! このままいけば予定通り枯渇して、ブラックホールが蒸発する筈です」ホルス君はマナの流れを見て貰っている。


 振り返らなくても、恐ろしい勢いであちら側に色々な物が吸い込まれていく……。確かにこんな魔法は、禁呪扱いになる訳だ。もう一度やろうとしても、恐くて出来ない。



「『破壊神』の腕は完全に吸収されました! 再生も見られません」

「よし、私の出番ね!」


 小一時間が過ぎて、ブラックホールが縮小を始めた。地面の魔法陣ごと抉れた部分からは、小型の『破壊神』が群がっている。一通り済んだら、各個撃破する事になるだろう。


 リズさんは、ぶつぶつと呪文を唱えている。以前と同様に長い時間を掛けてから、手を上げると空に巨大な輪が出来ていた。そこから、オーロラのような『魔法』がスルスルと落ちていく。


 ……急に縮んで、回転しながら複雑な紋様が描かれ始める。『3次元6連集約魔法陣』が発動していく。立体型をした紋様は、どんどんと増えていく。


 絞り込むような動きと共に、地面に開いた巨大な穴が塞がれていく。『破壊神』達は、触れる度にマナへと変換されている。


 何とか、無事に終わったらしい……。随分と無茶をしたが、一安心だ。



「はい、終わったわね。全員生きている? 死んでいる人は返事をして!」


 私がそう言うと、全員が笑った。それ位の余裕はあるらしい。


「アキラちゃん、ひと先ずはお疲れ様。あの封印はかなり無理して組み上げたから、あまり持たないわ。それに、『破壊神』自体も世界に穴を開ける能力を覚えるの。……そうなる前に全部終わらせなさい。私達は手伝えないけど」

「そうですね……これだけは自分達でやります! きっちりと終わらせないと『明日』がやって来ませんから」


 猶予は半年とちょっと位だろう。……ギリギリまで粘って手遅れになるのは避けたい。こちらの戦力が整い次第、こちらから乗り込む事になる。


「千鶴ちゃんの破邪の力で、あの封印に穴を開けられるわ。あちらの世界にいつでも突入出来るからね」

「はいっ、私も頑張ります!」


 この『ブラックホール弾丸バレット』は使わない様に、一つの世界丸ごとマナを枯渇させる方法を考えないと。……危なっかしくって、ちょっと使えない。


 私は皆の知恵を集めて、神様も思いつかない様な『破壊神』の倒し方に、頭を悩ませる事になるのだった。

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