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【番外】ポンコツ女神との遭遇

 いよいよ『破壊神』との戦いが間近に迫っている。自分に出来る事は少ないが、やれるだけの事はしておきたい。何より、嫁を放置して後悔する事だけはしたくない。


 そんな事を考えながら、塹壕や堀を作る為の魔道具作りに参加している。毎日、走り回ってヘトヘトになって眠りにつく。……アキラとは一緒のテントにして貰った。二人とも死ぬつもりなど毛頭ないが、いつも近くにいるよう心掛けている。


「……お父様、お父様! 返事をしてください!」

「何だよ、俺はまだ子持ちになった覚えはねえぞ! 誰だよ、お前は?」


 夢の中なのだろう。距離感の掴めない空間に一人の少女がいる。見覚えは無いが、心当たりはある。


「お前、アルファなのか?」話には聞いていたが、顔立ちは作り物のようだ。

「初めまして、お父様。ようやくお会い出来ましたね。……子供を放り出しておくのは、虐待だと判断します」

「会った事も無い子供に言われる筋合いはないね!」


 誰がお父様だ、まったく。そう言われて考える……。



「もしかして、俺が体を作る役目なのか?」

「そうです。レオナルドお爺様と一緒に、この体を作って頂く予定になっています。お父様と呼ぶ根拠として、正しいと認識します」


 成程、こいつがポンコツ女神か。……どこかちぐはぐな会話に納得する。


「アルファ、よく分からないが何の用だ? 出来れば、大人しく帰って貰いたいんだが……」

「お父様には、伝える事があります。……私の制作方法を」

「……どういう意味だ?」


 こいつの言う事は、ぶっ飛びすぎてわからない。……何となくアイツに似ているな、とは思う。


「過去にお父様が身に付けた、魔道具師としての知識をお渡しします。私の体を作るのに必要と判断します」

「ああ。この前に見た、前の世界の記憶か……。個人的には、自力で何とかしたいが」

「……それは、同じお父様ですので、問題はありません。では、これをどうぞ」


 そう言うと、こちらに手をかざす。頭の中に手を突っ込まれたような感覚と共に、自分の知らない知識が流れ込む。


「ナノマシンによる動作制御と構築方法に、次元重複管理による耐久性向上。……耐性防御付与技術に、自動復元機能。多重魔術回路の構築と立体構造の固着化……なんだこれは? 俺が考えたのか、この複雑な技術を!」

「ええ、お父様は古代ローマの魔法技術を応用して、様々な技術を確立しました。お母様と共に研究を繰り返した結果です」



 何回同じ時間を繰り返したかは知らないが、こんな技術を作り出すとは……。過去の俺に手を合わせて感謝する。何の意味があるかと聞かれても知らんが、有難く頂く事にしよう。


「用事はそれだけか? 今、取り込んでいてな……。出来ればゆっくりと休みたいんだ」

「お父様には、お話したい事もあります。親子の語らい、と言う行為は重要と認識しています」

「そうだな、いきなり登場するのを除けばな。……まったく、お前さんは血の繋がりも無いのにアイツそっくりだな。この勢い任せの爆弾女め!」


 どういう訳だか、他人のような気がしない。……アルファと自称するこの最高神は神々しいが、どこか馴染みのある性格をしている。放ってはおけない感覚なのだ。


「私の基本となる性格が、お父様とお母様に育てて頂いたからだと認識します。色々な話をお聞きしました」

「……良くは分からんが、作っただけじゃなくて色々と俺達が教え込んだって事か?」

「そうです。未来の出来事ですが、私にとっては貴重な思い出なのです」


 成程、こいつの言っている事に間違いはなさそうだ。……よっぽど楽しい思い出なのだろう。楽しげに語るその姿に少し安心する。


「そうか……それも『縁』という奴かな。どうやら、未来の俺は随分と子煩悩らしいな」

「ええ、とても楽しい日々でした。私にとって良い記憶だと判断します」


 お父様と呼ばれる事に目を瞑れば、悪くない話だ。どうにも、その呼び方だけは、自分が歳を取った感覚がして苦手だ……。



「大体は理解したが、何でこのタイミングなんだ?」

「今の戦いの後で、私と出会う事になるからです。……私には望みがあります」

「……最高神とやらが一体何を望むんだ? 何でも好きに出来るんじゃないのか」

「私の素体には『集合精神体アガスティア』が組み込まれています。そこには、全ての人間の魂と記憶が記録されています」


 最高神と言うのは、その能力が由来となっているのだろう。何となくだが、理解は出来る。


「私の役割は、人を導く事……。ですが『集合精神体アガスティア』に記録されるのは、辛く悲しい記憶ばかり……最高神として看過出来ないと判断します」

「……お前さんの目的ってのは、その……人間の記憶をどうにかしたい、って事か?」


「そうです、私は望みます『地には平和を。人には愛を。どうか、願わくば幸せな記憶を』……ただそれだけなのです。笑顔に満ち溢れた未来を……それが私の望み」


 ……そうか。それは平凡でありふれた、それでいて叶わない望み……。その為だけに、こいつはありとあらゆる事を行っているのだろう。だが、そんな壮大な事が本当に可能なのだろうか?


「私は信じています。今まで、お母様やお父様が行った事を。……様々な人との『縁』は、私でも予想出来ない未来に向かっています。終わらない世界の中で、私が信じる希望……きっと叶うと信じています」

「……分かった。アイツにも伝えておこう。いつの日にか、それが叶うと良いな」

「はいっ、お父様! よろしくお願いしますね」やれやれ、面倒な子供が出来ちまった。のんびり休む事も出来ない様だ。



 だが、知らず知らずのうちに、笑みがこぼれる。いつの日にか、こいつと一緒に歩むことになる未来。


 そこにはきっと俺とアイツが居て、皆が笑顔でいられる世界を作ろうとするのだろう。いつも通りのとんでもない無茶を繰り返して……。


 何故だか知らないが、それだけは確信できる。アキラはきっと諦めない。世界が笑顔に満ち溢れるまで、どんな苦労も背負い込むのだろう。そして、その隣には俺がいる。


「アルファ、断言しても良い。俺とアイツが一緒に歩む未来。……絶対に、その願いは叶う筈だ」

「お父様なら、そう言って下さると信じていました。……では、世界の輪廻を超えた未来でお会い致しましょう」

「……ああ、約束するぜ。また会おう、アルファ」


 そこでふと、目が覚めた。……隣の嫁は、ぐっすりと眠っている。まったく、こっちは大変だったと言うのに呑気なもんだ。朝になったら伝えよう。……話したい事は一杯ある。


 平凡でありふれた、それでいて叶わない望み……。『地には平和を。人には愛を。どうか、願わくば幸せな記憶を』か。……さて、その為にどれだけの無茶が待っているのやら。


 俺は、そんな気の遠くなるような未来に、思いを馳せるのだった。

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