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【番外】魔族との日常生活

「ふむ、ジェームス。これでチェックメイトだ」恒例になったチェス大会。随分参加者も増えた。

「うへぇ、ムラト。お前、随分と強くなったじゃねぇか!」

「良い教師に巡り合えたのでね。騙し合いで遅れを取る事は無くなったさ」


 思わぬ副産物である。外交も戦略も突き詰めていけば、騙し合いである。もちろん、チェスも例外ではない。今や私の方が騙す側である。是清先生には、足を向けて寝る事は出来ない。


「ふふん、まあ見てな! ここは凌いで持ち直してやるさ」

「流石にそう簡単には行かないか……」


 この魔王城にやって来て二カ月程になる。ジェームス秘蔵のウイスキーを巡って、チェス大会には様々な奴が参加する事になった。勝ち抜き戦での勝者のみウイスキーを飲めると聞いて、いつも争っている。


 酒好きのドワーフは、一蹴する事が出来た。意外にゴブリンの一人が手慣れていた。あの連中は、入れ替わり参加しては経験を共有するので、途端に腕を上げてきている。


「何だか、城の周辺で変な実験が進んでいるらしいが……隣の山が吹き飛んだ件は、ヒサ君だったかね?」


 私は、ジェームスを追い詰める様に駒を動かす。後三手もあれば、投了するだろう。


「あぁ、アキラから聞いた。……魔族四天王だそうだ。何でもこれ以上増えない様に監視しているとか」

「戦力が増えるのは良い事じゃないのかね?」

「一つは、四天王の癖に五人いるのは間が抜けているから、らしいぜ。……気持ちは分からんでもない」


 ロマンとかに熱心なアキラの事だ。見た目や呼び名に拘るのもロマンの一種なのだろう。


「そんなものかね? ……そういえば、ヒサ君は刀を抜くのを抑えているようだったが……」

「……制御も出来ん巨大な力なんて、迷惑なだけさ。強力過ぎて使えんと、頭を抱えていたよ」


 成程、それもそうか。味方が間違って全滅など、笑い話にもならない。詳しい能力を聞いた訳では無いが、魔導師の使う魔法をも上回るような、規格外の力と聞いている。……山を吹き飛ばす程の威力を使う機会なんてそうは無い筈だ。



「魔王になっても、悩み事が増えるとは……。アキラは、つくづくトラブルメーカーなのだなぁ」

「……今に始まった事じゃねえよ。アイツと一緒にいると、退屈だけはしねえな」そう言いながら、周囲のメンバーを眺める。


 この会議室は広いのだが、とにかく暇を持て余した奴らの巣窟になっている。幸いな事に種族同士の争い事も無く、部隊内の異種族交流は円満のようだ。


 エルフの一人が演奏を始め、歌好きのセイレーンがそれに合わせて歌う。スケルトンと悪魔が訓練用の剣を振り回して、周りでそれを応援する者もいる。魔族達は食べ物を食べる必要は無いが、娯楽として食事自体を楽しむ者もいるらしい。


 ここはいつも賑やかなものである。元々、種族同士の付き合いと言うのは少なかったらしい。この城に来て初めて会ったという種族もいるそうだ。何にせよ、仲良きことは素晴らしい。


 面白いもの好きのフェアリーが、頭の上に乗って眺めているのは良いとして、自分はどうも人外に好かれやすいらしい。トール君やヒサ君とも、訓練場で賑やかに話し合っている。


 一つの目的に向かって競い合うのに、種族の壁など無い。……我々の部隊の影響で、日々走るのに熱中するのは良いが、それだけでも困る。徐々に戦術の訓練も始まるだろう。そろそろ、魔導師部隊や騎馬部隊との合流も頃合いだろう。


「何て言ったかな? の、野伏だっけか……強いのか、それ?」

「『釣り野伏』だね。……そうだな、きちんと成功させる練度と部隊の精強さがあれば、絶対に負けない戦法だと思うよ」

「……どういう事だ?」


 戦術については、話だけしか聞いてはいないが、理屈は簡単だ。


「つまりだね、普通の敵なら逃げた奴を追撃するのを躊躇う事はないから、三方から包囲されて全滅する。逆に罠だと思って追撃しなくても、退却を止めてまた突撃すれば良い。よっぽどの奴でない限り、罠だとは思わないだろうが」



「そう言うものなのかねぇ? ……ま、騙し合いならよく分かる。例え、頭の良い奴が躊躇ったとしても他の奴との仲間割れになるって事だよな」ジェームスの鋭さは、相変わらずだ。

「……そうそう、その隙をついて突撃するんだ。だから負けない。ましてや『破壊神』に知力は無いのだろう?」

「ああ、夢で見たアイツらはとにかく壊しまくる。対象物を見れば、見境無しに群れをなして襲うだけだ」


 それなら動物とさして変わりない。左右からタイミングよく押し込めば、どんなに強くても関係ない。


「そういう訳でね、チェックメイトだ。……流石に降参だろう?」

「……しまった、その手があったか。しゃあねぇな、降参だ」

「ふふ、ようやく初勝利という訳だ。有難く勝利の美酒を味わう事にしよう」


 それにしても、我ながら順応するのが早くなった……。巨人族やらオークやら、話が通じれば種族も考え方も分かる。ましてや、一緒に戦った仲間と言う共通の意識も出来るのだ。


 そこら辺については、魔族連中も同じようだ。部族の名誉の為に他の種族と争っていたが、その内お互いを認め合い、仲良くするようになった。最初は、均等に部族を分割すると聞いて首を傾げたが、訓練するうちに理解出来た。


 しかし……他の世界を旅するとは言ったが、まさか魔族達と仲良くする事になるとは思わなかった。


 ……因みに魔族と魔物の違いを聞いたところ、魔物には人間と会話をする知能が無い事、人間に近い姿になれるか、などの違いがあるらしい。


 ……そういえば、フェンリル君はいつの間にか人型になる能力を身に着けた。あれも、魔族特有の能力らしい。人狼と言ったところだろうか。他にも竜族や吸血鬼なども仲間にいるようだが、規格外過ぎてその他の軍団に分けられている。


 随分と魔族にも詳しくなった。必要に駆られて、と言った経緯だが各種族の特徴があって、なかなか面白い。


 力仕事が得意な奴や手先が器用な奴、戦闘能力の高い者などそれぞれの部隊で試行錯誤し、ゴブリンに伝える。それでお互いの部隊で情報共有し、部隊の連携を高めている。


 模擬戦もしながら、サポート役や殿などの役割分担も形になって来た。……いずれは、終わりの無い戦いに身を投じる覚悟も出来た。……異国の地に屍を晒す訳にも行かない。


 これは、オスマン帝国の未来を守るための戦い。……私は、来たるべき戦いが近づいている事を再認識するのだった。

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