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117.魔族四天王の登場と取扱注意

 最近、周りの皆の様子がおかしい。……魔族と人間が城下町で仲良く暮らしている、と言う事実よりもおかしな事も無いのだが。


 城の復興から暫くして、何の関係も無い人達が移り住んできた。魔族は食料を必要とせず、作った作物を輸出していた関係で非常に食費がお安いとの事。断る理由も無く、魔族とご近所付き合いをしたり子供同士で遊んだりと、微笑ましい。


 ……話が逸れた。城内では色々なメンバーが引っ切り無しに仕事をしている。各自分担もあるし、訓練に出かける者もいる。その中で変な現象が起こっている。被害が出る前に何とかしないと……。


 まずはリンちゃんだ。いつもお城の掃除とお花を飾るお仕事を楽しそうにやっている。だが最近、リンちゃんが不安そうにウロウロしている。


「リンちゃん。最近何だか落ち着かない様子だけど、何かあったの?」

「あ、お姉様……。私、おかしくなっちゃったみたいで。ちょっと来てもらえますか?」


 そのまま、花壇へと連れられると明らかに様子が変だった……。花壇そのものが破壊されていた。


 まるで、そこだけ年月が経過したように、木は朽ちて土は砂になり、花は枯れていた。


「何これ? こんなボロボロになっちゃって……フェンリル君が荒らしたとか?」

「……いいえ。多分、私が原因なんです。お花を摘みながらお歌を歌っていたら、こんな感じに……」


 どうも、嘘や勘違いでもないらしい……。リンちゃんは、日頃私の近くにいる事が多い。恐らく、魔族の中でも一番私の魔力の影響を受けている筈だ。


「リンちゃん、ちょっとその時と同じ事をして貰える?」

「はい……。お姉様は離れていて下さいね」そう言いながら、綺麗な声で歌いだす。


 歌を聞いた途端、ゴリッっと嫌な感覚がした。まるで体が壊れるような、そんな感覚だ……。


「リンちゃん、ちょっと待って! もしかして変な能力が付いたのかも」嫌な予感がする。こういう時の勘は外れない。まず、間違いなく頭を抱える問題発生だ。


 ……ロキさんは言っていた。かつて、魔王の手下に特殊な能力を持った四天王が現れた事。リンちゃんがその一人になったのかもしれない。


「推測だけど、その歌に魔力が乗っていて聞こえる範囲の物体を破壊している感じ、かも……」

「……お姉様、私どうしたらいいの?」


 私はリンちゃんを抱きしめて、落ち着かせた。……この子に、その役目を強いるのは重すぎる。戦いを好まないのに、強い力を得てしまった……。酷く怯えている事だけは分かる。



「……まず、その力を無理に使わない事。大丈夫よ、どんな事があっても貴女を危険には晒さないわ」

「いいんです、お姉様。……もうすぐ怖い事が起こるのよね。私の力があれば、危険な事が避けられるんでしょ?」

「良いのよ! リンちゃんにそんな事させられないわ! 私が守ってあげるから」


 確かに、少しでも戦力強化の為に魔王になった。……だが、守るべき子が戦いに縛られるのは本意ではない。


「ううん、私も戦えるんでしょう。……みんな頑張っているの、私知ってる。この力があれば、皆を守れるんだよね?」

「……そうね。『破壊神』は沢山いるのよ。もし、前線でその歌を歌ってくれれば、死者は減るわね……」


 私は、冷静に告げる。……どう言い繕っても、いずれは気が付くのだ。隠し事は彼女を苦しめる。


「分かったわ。私、戦う。皆の事好きだもの。……お姉様も守るわ」

「……リンちゃん、ありがとう。ゴメンね」


 種族も生まれも違う、私の可愛い仲間なのだ……。出来る事なら、そんな辛い目に遭わせたくなかった。だが本人が望むのなら、受け入れるのも勇気だ。


「リンちゃん、その歌は『ほろびのうた』よ。恐らくだけど、かなりの範囲にいる物体自体を壊すの……。絶対に使わない様にしてね」どこ迄作用するか分からない……。使用する前には、確認する必要がある。

「うん、わかった。使う時は、お姉様が指示してね。……私の事、気にしなくて良いからね」


 こうして、リンちゃんが最初の「魔族四天王」となった。色々と試した結果、特定の歌に限り効力が発揮され、物体の強度に関わり無くグズグズに壊れてしまう。


 推測ではあるが、原子核の構造にまで影響を与えているのではないだろうか。理由は、一度壊した後に元の状態に戻らない事。


 例えば、鉄の機械を壊した後で製鉄しても鉄に戻らない事が分かった。原理は不明だ……。魔法に詳しい人間なら、何か分かるのかもしれないが。



 次に見つかったのはトール君だ。……本人に自覚は無いようだったが、初めて会った時からの成長がおかしい。巨人族なので大きくなる事自体は不思議ではない。


 問題は、ありえない程の重量となってしまった事だった。本人が力を入れると、体重が数トンから数十トンに増加する様だ。物理法則も何もあった物ではない……。


「へぇ? 俺が重くなってる? ……地面のめり込み方がおかしい。ああ、いつもの事だと思ってた」


 こちらは随分と気の抜ける反応だった。だが、体重の増加には制限が無いようなので、ちょっと動いただけで人工地震が起こるレベルなのだ。何とか自覚させないと、こちらに被害がでるのでは、と恐ろしい。


「……まあ、俺が思いっきり地面を叩けば、大地震が起こるって事だよな! 良いじゃん、それ」

「どこまで被害が出るか分からないから、使うのは原則禁止よ。私が指示した時のみ使ってね! ちゃんと無意識に使わない様に気を付ける事!」

「へいへい」


 こちらは呑気なものだが、二人目の「魔族四天王」の誕生である。……戦力化、と言うより「取り扱い危険物」と言う意味合いが強いような気がする。頭を抱える事態ばかりが増えていく。



 そして、フェンリル君が三人目。いや、以前からヒサ君の異常事態もあったので、四人目か。……頼むから『五人揃って四天王』とか言うネタに走らないで欲しいものだ。何と言うか、かっこ悪いし……。


「魔王様、あくびをしたらなんか吸い込んじゃいました!」

「気が付くのが遅いわよ! もう、被害出ちゃってるじゃないの」


 もう、注意深く周りを用心していないと、どんどん増えそうだ……。ロキさんに相談かなぁ。


「フェンリル君の能力は、ずばり『体内のブラックホール化』ね。……確か北欧神話でも、全てを飲み込むとかそんな話があったような?」

「意識して吸い込まないと、起きないみたいだし。いざと言う時には役に立つよね?」本人は、前向きだなぁ。ちょっと、言い含めておかないと。

「……残念な事に、非常事態になった時とても役に立つわ。絶対に勝手に使わない事ね!」


 んで、ヒサ君の発動条件と能力は知っているので、久々に全力で切って貰った。「首を狩る」事を意識しない様に言い聞かせて、全力でだ。


 ……物凄い気合の籠った掛け声とともにダンビラを振った結果、辺りの木々が消え去った。ついでにその後ろの山も含めて……。なによそれ、地形変わっちゃったじゃないの!


「……アンタ、なんて事するのよ! 酷いとは思っていたけど、ここまで出鱈目だとは思わなかったわ!」

「主殿、斬れち言うたり駄目ちぅたり……酷かど! オイもちょっとおかしかとば思うちょったでごわす」

「私が言うまで、絶対に刀を振り回すんじゃないわよ! もしも、味方の真ん中でやったら全滅よ!!」


 最後に、絶対に使ってはいけない能力が出てしまった……。それでも、あの『破壊神』限定で使わないといけない事態になる事は明白だ。


 何と言うか、ポケットの中に導火線に火のついた爆弾が増えただけの気がする……。危なくって使いどころに悩む「魔族四天王」の力……。恐らく、歴代の魔王も同じ悩みを抱えた筈だ。自分の手には余る力だ。


 私は、制御出来ない力ばっかりが集まってしまい、うかつに戦場に持ち込めない「魔族四天王」を抱えて、いざと言う時が来ない事を祈るしかなかった。

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