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116.魔王軍、毎日が訓練日です!

「魔王様、随分と膨大な魔力を持つ事になったのだな。我ら魔族一同、改めて新たなる魔王様に忠誠を誓いましょうぞ」


 ロキさんの出迎えが、如何にも悪の魔王軍と言った風情なのは、気にしない事にする。まったく、どっちかと言うと正義の味方になりたいのだけど……。どうにも魔王と言うのは、誤解を生む呼び名である。


「……随分と増えたわねぇ。皆、今からやる事は『破壊神』を倒して世界を救う事よ! お願いだから協力してね」一応言葉は通じる筈だが、不安は残る。

『畏まりました、魔王様!』全員、良い笑顔である。この戦争屋ウォーモンガー共め。


 あーうん、そうね。そうなるわよね……。魔王様かぁ、それで定着しちゃいそうね。


「じゃあ、私の切り札を紹介するわ。苦労して作ったんだから、見て貰わないと!」


 バックから派手な色の杖と言うか、バトンのように改造した魔道具を取り出す。魔法少女っぽく、と言う個人的な趣味で改造した一品である。


 杖を起動させると体中がまばゆく光り、足元から「赤いブーツ」「膝当て」「水色のスカート」そして「セーラー服」の順で、実体化していく。


 ……これまた、趣味に走ったデザインなのだが。強化スーツを着ないと、ロボットの材料を取り出す事が出来ない。


「さて。えーっと、これとこれを……」と言いながら、鉄のインゴットやら魔法銀に大きな魔道具を地面に積んでいく。とんでもない量の材料が山盛りになっていく。面倒だが仕方が無い。


 いよいよ魔道具を起動させると、頭部から順に実体化してくる。私は肩の部分に乗り込んで、そのまま巨大なロボットが組み上がっていくと、凄い勢いで上昇し随分と遠くまで見渡せるようになった。


「しかし、デカいわねぇ。……建物が殆ど無いから、余計に周囲が良く見えるわね」



 黒を基調とした手足と胴体に複雑な装甲が組合せられ、そこに魔法銀による白銀色のパーツが細かく張り巡らせている。人間の動きを出来るだけ再現するように、骨格部分まで精密に設計された巨大なゴーレムである。余裕があれば、角やトゲを付けたいところなのだが。


 ……皆、初めて見る巨大なロボットに驚いている。魔王様としては、この位のインパクトは必要よね。


「これが私のロボットよ。『破壊神』とも対等に渡り合えるだけの力を持った傑作よ! この子の名前はね、全ての戦を終わらせる為のロボット『オメガ』にするわ!!」


 あのポンコツ女神が『アルファ』だから、始まりと終わりで丁度良い。私は、後方のハッチに飛び込んで操縦席に移動した。


 手順通りに主機である『魔導石』を起動し、各部の蒸気機関に動力を伝達する。各種メーターを見ながら、ゆっくりと機体起動の操作を進めていく。


 少しずつ、出力が上がっていく事を確認し、右腕に仕込んでおいた魔道具を起動させて、五メートルはあろうかと言う大太刀を作り出して肩に担ぐ。


 動かせるよう出力を百%に上げるまで、約三十分程掛かった……。この機体は、多少の無理は効く筈なので、慣れればもっと早く起動出来るだろう。


「……しっかしまあ、随分と大きなロボットだな。あの爺さん、よっぽど作るのが面白かったんだなぁ」


 ジェームス、初めて見た感想がそれなの? まぁ、否定はしないけど……。これもツッコミ不在の暴走という奴なのだ。



「それじゃあ、ムラトさんと千鶴ちゃんに部隊編成と指揮をお願いするわ。二十部隊位に分けて、各種族を均等に振り分けて頂戴ね」

「了解しました、お姉様。ロキさん、各種族の方々の紹介をお願いします」

「成程、部族毎に分けて戦力が偏るのを防ぐのだな……。宜しい、こちらに来なさい」


 これであっちの方は、何とかなる。……各部隊にオスマン帝国陸軍の部隊長を配置し、ゴブリン達でお互いの情報を連携させれば、精強な部隊になる事だろう。


 新たな戦術や訓練方法も考えないといけない。こっちはこっちで、示現流の稽古もある。各自作業を分担する事にしよう。


「ジェームスとホルス君達で、魔王軍の根拠地を検討して頂戴。……師匠さんとも相談して、住人と揉め事を起こさないような場所で、広めの土地を探してね」

「おう、分かった。人数も多いからな。……打ち捨てられた城でもあれば良いんだが」


 ここじゃあ、辺鄙過ぎて何かあった時の対応が遅れる。出来れば、街道沿いに設置したいところだ。



「よし、ヒサ君には訓練に付き合って貰うわ。そっちは大丈夫?」

「なあ主殿。おやっどば、そこに居るでごわす! おやっど、こげな場所に来ちょったんか」

「久しぶりじゃのう、ヒサ。息災にしておったか?」小柄な老人がやって来た。

「なんも! 戦ばのうて、腕も鈍ってしもうたわい」アンタの能力は、怖くて使わせられないのよ。


 たしか、魔族には親子関係は無いと聞いたが、年長者が若い者を指導したり、義理の親子関係を結んだりするらしい。血縁ではない、気の合う者達の習慣という事か。


 あの首狩り族のご老人も、そういう関係なのだろう。世話をしているヒサ君のお父さんなら、一言挨拶をしておきたい。私はロボットから降りて、簡単な挨拶を交わす。


「初めまして。私は魔王のアキラと言います。ええっと、ヒサ君のお父さんですか?」

「うむ。ワシは、首狩り族のクロと言う。……よろしく頼む。どうかね、お茶でも一つ」

「おやっどは、攻城戦の達人じゃ。城を落としては、バンバン首ば落としもっそ!」

「……首を叩き落としながら飲むお茶も、また格別じゃて。此度の戦も、楽しみじゃのう!」


 ……ああ、やはり真っ当な人では無かった。そろそろ変人以外を望むのは、諦めるべきなのだろう。


「ともかく、私は戦いの経験が無いので、色々と教えて欲しいんです。お願いしても宜しいですか?」

「……そうじゃな、戦場の経験はあるでの。教えられる事もあるじゃろうて」

「おやっどは、野戦でも未だ負け知らずじゃし『釣り野伏』の指図も凄かぞ!!」


 『釣り野伏』ねえ? 私には詳しい事は分からない。ともあれ、良い軍師役になりそうではある。


「それじゃあ、魔王軍の編成後に訓練の相談にも協力して下さい。兵隊の動かし方は詳しくないので……」

「うむ、構わんよ。戦場で暴れるのも辛い年齢じゃ。喜んで参加させて貰う」


 ともあれ、着々と戦争の準備が進んでいる。暫くは、ここで魔族との訓練の毎日が続いた。


 示現流と言う剣術は、難しくはない……。ただ、一撃必殺で刀を降り下ろす。後の事は知らん。……以上だ。


 正直、教えて貰ってなんだが、上下に大太刀を振り回す日々が続くだけ。とにかく早く強く振り下ろすのを意識するしかない。どうにも、コツみたいなものは無いらしい。岩山をいくつも崩しながら、ロボットの操縦を繰り返している。



 一月も経っただろうか。検討の結果、村の北側に過去の戦いで壊された城跡があったらしい。丁度、魔王軍の編成が終わったので、簡単な訓練ついでに城の修復を行う事になった。


 土木工事だって大事な訓練である。塹壕や柵を立てるのも各自の能力を生かして進めていく。


 ゴブリン経由で、各自の手順が共有化されて手際が良くなっていく。……大変に効率が良い。巨人族やオーガ達が石材を運び、細かい作業はコボルトやドワーフが担当。フェアリー達は担当地区の進捗確認と、賑やかな事だ。


 ……見ていて「ファンタジーだなぁ」と言う感想しか出てこない。今の実感としては、その程度だ。自分が「魔王」だという、一番ファンタジーである事は心の棚に置いておく。


 クロさんからは、基本的な戦の指示方法を教わる。何でも、ただ突撃するだけでは駄目らしい。……そりゃそうか、オスマン帝国の場合は特殊だったしねぇ。


 ともあれ、何をするにも速度は大事という事で、各部隊はとにかく走る。結局、そこら辺は変わらないらしい……。


「『釣り野伏』と言うのはのぅ、包囲戦の一種じゃ。正面の味方が負けたふりをして退却する。……それを追う敵陣をおびき寄せて、左右から伏兵を突撃させる。正面戦力も反転して、三方向から攻め寄せる」


「へぇ……。そんな強そうな戦い方を、何で誰もしないんですか?」

「……そりゃ、ちょっと間違うとそのまま本当に負けてしまうからな。退却時の追撃が一番危ない」


 それで、ウチの十八番である足の速さが生きるという訳か。連日走り回るのも、それが目的らしい。


 どうやら魔王軍にも、オスマン帝国陸軍の価値観である『一番駆け』が浸透してきたらしい。魔族も目を輝かせて、全力ダッシュする。とにかく頭を使わないし、種族も関係ない。……実に脳筋である。


 私は、こんな訓練で大丈夫か少し心配になったが、戦争に詳しい人達の意見を聞いて今日も鍛錬に励むのであった。

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