114.さあ、ロボットを作ろう!(その3)
ロボットから降りた私は、少し違和感を感じていた。……まともじゃね? と言う感想であった。
「ねえ、これって誰がメインで開発したの?」
「レオナルドの爺さんが主担当ですね。我々は、どうやったら強いロボットが出来るか、不眠不休で会議を繰り返しました。……その結果、一つの結論に達したのです!」
ふむ、変人とばかり思っていたメンバーの意外な一面だった。ともかく、詳しく聞いてみよう。
「……それで? どういう方針になったのよ」
「つまりですね、我々が目指したのは汎用性と拡張性なのです。出来るだけ『オド』で機体を強化しつつ、どんな状況でも使える様に徹底的にシンプルにしたんです」
「例えば、今作っておる刀やその他パーツは後付けにして、とにかく機体の馬力を上げた。……詰まるところ力が強くて頑丈であれば、どんな状況でも耐えられるだろうと言う発想じゃな」
確かにどんな状況での戦闘になるか分からない以上、ゴリ押し出来るだけの無理を前提にする訳ね。
「基本性能は、そこまで高くしてありません。ですが、安全係数を五倍以上に上げています。『破壊神』の力が分からないですから、無理が効くように大量の『魔導石』を組み込みました! 社長がどれだけ無理をしても壊れないだけの性能を保っている訳ですよ」
……私が無理をする事が前提とは、流石付き合いが長いだけある。なるほど、そう言う考え方なら違和感の説明が付く。
「……で、拡張性ってのはパーツの後付けだけなの?」
「いえいえ。実はですね、この巨体にしたのは増設スペースと耐久性向上が目的なんです!」
「ゴーレムの構造を使っている関係で、修復しながらの戦いも可能じゃ。後は、どんな武装を付けるか分からん。そこで両腕や脚部、胴体にも空っぽの部分が設けられている。大砲を積み込むもよし、蒸気機関の増設も出来る。そこまで考慮した結果の設計じゃな」
流石は天才のレオナルド・ダ・ヴィンチである。英国面満載の変人共をコントロールし尽くした、と言った感じである。基本コンセプトがしっかりしているから、改造も簡単という訳か。
「後は、細かい構成の部品を一度仮組みしてある。……ゴーレムの構造だけで組み上げると、耐久性や精密度が上手く再現出来ん事が分かってな……。じゃから、結局ほぼ全てのパーツは手作業で作る事になったわい」
「……至れり尽くせりじゃないのよ、皆。やれば出来るじゃないの!!」
いや-、我がメンバーも成長したものだ……。いつぞやは大西洋横断とか、ロマン成分と謎の技術者固有の使命感で暴走していたのが嘘の様だ。
「良いわね、この内容で纏めましょう。今は刀だけ追加して、不便な部分を組み直せば良いって事だしね」
「……そうですね。専用機として体に馴染む迄のブラッシュアップは必要ですが、基本部分はしっかりしています。気が付いた点があれば、すぐに改良しますよ」
これなら状況に合わせてセッティングも出来るだろうし、慣れて来た辺りで専用の武器を組み込むのも良い。うん、気に入ったわ!
「社長に喜んで頂けて幸いです。かなりの期間を議論しましたからね……。いや、良かった良かった」
「じゃあ、同じコンセプトでメルちゃん用の高性能型もチェックしましょうか。うん、期待出来るわね……」
……思った以上にこのメンバーの組合せが良かったようだ。レオナルドのお爺さんには、頭が上がらない。要らぬ苦労をしなくて済むのは、有難い限りだ。
「……正直、こちらも難航したんですよ。ある程度のコスト増は勘弁して下さい」
「そうね。最悪、メルちゃんの専用にしても良いし構わないわよ。問題は使いやすさね」
「先程の量産型での指摘を考慮して、もう少し改良したいですねぇ」
ああ、魔導師向けだから同じ問題に突き当たるのか。そりゃ、全身を覆うのだから出来るだけ違和感は無くしたい。正直、『破壊神』相手だと長期戦も懸念される。ある程度のカスタマイズも出来るようにしたい。
「分かったわ。私は暫くロボットの操作に専念している間に、量産型と高性能型の改修をお願いするわね」
「はい、基本的な問題点は提示されているので、3日もあれば何とかなるでしょう」
仮組み出来たら、オスマン帝国に持っていく事にしよう。ついでに、あちらの魔導師部隊の編成も確認出来る。
「……あぁ、これで久しぶりにムラトさんに会えます。お姉様、急いで改良を済ませましょう!」
しかし、千鶴ちゃんも変わったわねぇ……。堂々と惚気られる程に仲が良いらしい。
「羨ましい限りだわ。ウチの旦那は魔道具弄って、一向に出て来やしないもの……」
「まあまあ、お姉様。そう言わずに……ジェームスさんの行動はいつも通りじゃないですか。きっと良い魔道具が出来ますよ」
ロシアの宮殿で色々とあったからか、千鶴ちゃんの成長が目覚ましい。恐らく、王妃としての心構えが出来てきたのだろう……。一度、覚悟が決まると躊躇いが無いので、まるでスポンジの様に吸収する。
……個人的には、自立されて若干寂しい気分だ。ともあれ良い傾向だし、このまま様子を見る事にしよう。ムラトさんも是清さんから色々と教わって、逞しくなっている事だろう。
そんな事を考えながら、ロンドンでの滞在は続く。ジェームスにほったらかされた、私の機嫌が良くないのはともかく。……アイツなら顔を出さなくても、やるべき事はやってくれる。決して寂しい訳じゃないのよ。
「はあ、マリアちゃん。旦那さん選びはきちんとしましょうね……。何時になるかはともかく」
「お姉ちゃん、随分と落ち込んでいますね……ジェームスさんを見に行かないの?」
見に行ったところで邪魔になるのが分かっているから我慢しているのだ……。まあ、夜食でも持って様子を見に行きましょうか。
「マリアちゃんのお仕事は大丈夫? いきなり王室との交渉なんてどうかと思ったけど……」
「お姉ちゃんのお役に立てるように頑張っているわよ。ネルソン提督に助けて貰ったし、大丈夫よ!」
そう、マリアちゃんの志願で重大な資金集めのプロジェクトを進めている。両替商で幾多の経験を積んだマリアちゃんの交渉は、グレッグさんも驚く程だ……。それでいて、見た目は幼く可愛いお嬢さんだから、男性陣が上手く丸め込まれていく。
まさに魔性の女。マリアちゃん、恐ろしい子……。
「合わせて、ロンドンのカレー屋の売り上げを返済に組み込んで、ロンドンの相場が崩れない様にコントロールしているからね。……何とかなるわ、お姉ちゃん」
「マリアちゃんが凄いのは知っていたけれど、此処までとはねぇ……」
伊達にリスボンの鉄火場で、商売人相手に営業トークをしている訳ではない。女相場師、と言っても良いだろう。正直、返済含めてしっかりとお金の流れが出来ていくのを、こちらは見ているだけなのだ。
「いやー、マリアちゃん。うちの子にならない? 『ロンドンの女帝』の二代目を名乗っても良いのよ」
「そんな事無いよ。私なんてまだまだ……」
マリアちゃんは、この状態でまだ伸びしろがある事が一番恐ろしいのだ……。ウチの女性陣は逞しいわねぇ、などと考える。……エマちゃんも大人になっちゃったしねぇ。
いつの間にか、ダニエル君とくっつくとは思わなかった……。まあ、お似合いのカップルではある。まだ、正式に付き合ってはいないらしいが、微笑ましい限りだ。
「……何か、一気に歳を取った気がするわ。やっぱり魔王になった影響かしらね?」
「うーん、魔王になったのは関係無いんじゃないの?」
まあ、そうはいっても初めてロンドンに来てから8年近い……。人付き合いと言うか、魔族付き合いも増えたので、変わった自覚が大きいのかも。
「マリアちゃんと出会った頃は、こんな事態になるとは思わなかったしねぇ……。あのメソメソ泣いていたマリアちゃんが、今ロンドン注目の的なのよ。月日の流れるのは早いわねぇ」
何となくだが、感傷的になってしまう今日この頃……。やっぱり、ジェームスの顔を見ていないせいだわ。
私は、夜まで待ちきれずにアイツの所に雪崩れ込んで、今の心境を伝えるべく歩き出したのだった。
ロボット製作のリアリティについて……。実際、そんな簡単に行く訳は無いのですが、史実の兵器開発のエピソードなども盛り込んでます。
何と言っても巨大ロボットはロマンの塊です。えぇ、異論は認めません。……ドリルはどうしようかなぁ? 長ドス一本で立ち回るロボットと言うのも良いんですけど……。
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