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111.私、商人を卒業します!

 私は、少しふらつきながらも自分で立って、周りの様子を見る。特におかしな雰囲気はない。


「とにかく、体には影響なさそうだけど……ホルス君、どう見える?」

「そうですね。さっきと比べて膨大な魔力が渦巻いています。まるで嵐のようですよ」

「精神的にも安定しているし……聞いた話だと、暴発して使えない魔道具が出る位らしいわ」

「……何と言うか、禍々しいとか威圧感がある、と言うのが正しい表現だろうな」


 魔王と言われても実感は無い。そんなもんか、と言う感想しか出てこない。私は私、他の誰かになる訳でも無かった。威圧感云々については……今更だろう。


「ジェームス。この魔力をホルス君達に流す魔道具、作れる?」手に入れたものは有効活用するべきだ。

「……そうだな。『契約の魔道具』と言うのがある。強制的に魔力を引きずり出すんだ。ただ、この場合は主従が逆なんだろうな」

「私がホルス君やメルちゃんに魔力を渡す契約をするって事?」

「そうだ。本来は奴隷や地位の低い者を従える場合の魔導具なんだよ。……かなり特殊な構造でな、作るのは結構難しいぞ」


 それ位ならジェームスが何とかするだろう。以前に聞いた『破壊神』との戦いで『オド』が枯渇したと聞いたし、フルで戦場を維持して貰うのに必須だろう。


「アキラさん、良いんですか? 一時的とはいえ、そう言う契約は……」

「良いのよ、使えるものは何でも使う。私のポリシーだし」


 むしろ私が魔王になると決めた理由の一つなのだ。四の五の言っている場合ではない。



「……皆、よく聞いて! 『破壊神』と戦闘になるまでの期間は恐らく数か月……それまでに戦力を揃えるの。私も今更、商人をするつもりも時間も無いわ。どんな手段を使っても『破壊神』の復活を食い止めるのよ!」

「俺、絶対に負けない!」

「そうよ! 3人集まった私達なら何でも出来るわ! そうよね、レイ、ホルス!」

「ああ。これで負けたら師匠に顔向けできないぜ。皆で力を合わせれば、大丈夫だ」


 強化スーツやロボットに装備の見直しも必要だ。オスマン帝国で魔導師の育成もして貰う必要がある。後は魔王軍か……。まったく、忙しいったらありゃしない。


「そうね、それぞれ役割を分担するわ。何が起こるか分からないから、全力でやるわよ!」

『おう!』全員が世界を守るためのデスマーチに突入する。


 ……大丈夫。一人では無理でも、これだけいれば『運命』だって変えられるわ。


「それじゃあ、各自配置に就いてもらうわ。まずはホルス君とメルちゃんでオスマン帝国に行って貰う。魔導師の育成をお願い」


 と言いながら、すぐ傍に『門』を開く。これが魔王になった私の新しい能力。


「えっ、どうしてここに『門』が開くんですか?」ホルス君が驚いている。

「……この『門』は、私が無理矢理こじ開けたの。今の私なら、どんな所でも『門』を作れるわ」


 正直出鱈目な力だ。だが今は、一分一秒が惜しい。これ位の無茶は覚悟の上だ。


「解かりました。俺達で魔導師軍団を編成すれば良いんですね」

「うん、丁度良いタイミングでオスマン帝国の教育が完了する頃よ。大学や士官学校から素質のある人達を集めてね」

「はーい! 私頑張ります!」メルちゃん、良い機会だからホルス君と仲良くね。



「リスボンからはロボットや強化スーツの製造費用を集めるわ。新大陸から大量の金銀が流れ込んでると思うから、それらを大量にロンドンに持ち込むわ」

「ええっ、良いのか。別の世界に品物を持ち込まないって……」ジェームスが驚いている。今まで絶対にやらなかった世界間での大量輸送。史実が壊れたり、経済にダメージを与えるという理由で避けていた。

「……ジェームス、今回だけよ。後で戻せば何とかなるわよ、多分」


 今は、緊急事態なのだ。手段を選ぶ余裕はない。幸い、ロンドン内で完結するようにしてやれば、金銀の価値を下げ過ぎないように出来る筈。ロンドンの女帝の腕の見せ所だ。


「ダルイムの街では今頃、矢の補充で手一杯だし、そのままにしておくわ。後は……中国や日本はノータッチね。時間が惜しいわ」

「……横浜や北京も気になりますけど、仕方無いですね」

「という訳で、ここにいるメンバー全員手伝って貰うわ。リスボン経由でロンドンに向かって、強化スーツやらロボットの増産を行うわ! 忙しくなるわよ」



 リスボン迄の『門』を開いて全員で雪崩れ込む。……そういえば、マリアちゃんも大きくなった頃だろう。時間は無いが、会っておきたい。エリオや提督にも顔出ししないと。


 残念ながら、他の世界に顔を出す余裕もない。ロンドンで体制を整えたら、そのまま魔王軍の編成だ。……日本や中国に行く事が出来るのは、全て終わってからになるかもしれない……。名残惜しいが仕方が無いのだ。


 私が商人としてやるべき事は残っていない。各世界共に大きな問題も起こらないだろうし、内政向きの人材には困っていないので、『青い鳥』所属メンバーだけで対応出来るのだ。


 ……商売に関しては、少し寂しいというのが本音だ。お金が好き、と言うよりは自分の居場所を作る為の商売だったが、結果的に様々な『縁』を結ぶ事が出来た。今からは、その居場所を守るための戦いになる。



 久しぶりのリスボンは賑やかだ。大体二年位はこっちに来ていない。とりあえず両替商に向かおう。


「私、提督や乗組員の皆を見てきます!」

「千鶴ちゃん、後で合流しましょう。そっちはお願いね!」


 両替商は繁盛しているようだ。エリオとマリアちゃんと出会った。随分とマリアちゃんは大きくなった。もう女の子、と言った雰囲気だ。


「あっ、お姉ちゃん! ずっと会えなくて寂しかったの……遠くに行っちゃったと思ってました」

「ごめんね、マリアちゃん。ずっと忙しくてね。これからロンドンに行って、色々と作業なの」

「お姉ちゃん、私も手伝う! もう、一人前になったわ。私に出来る事、無い?」


 うーん、確かにロンドンの作業は一人でも多い方が良いのだが……。


「エリオ、多分何カ月もマリアちゃんを預かる事になっちゃうけど、大丈夫?」

「商会長、いずれはそうなると思っていました。ディアナとも話はついています。マリア、頑張っておいで」

「お父さん、ありがとう!」


 マリアちゃんの実力は確認済み。大量の資材やお金の勘定など、手伝って欲しい事は山ほどある。


「マリアちゃん、早速で悪いけど大量にお金が必要なの。ロンドンで『魔導石』を大量に買い占めるから、ここに有るだけのお金を用意して」

「商会長、やはり戦争は避けられませんか?」

「そうね。大丈夫よ、皆で力を合わせて倒してやるわよ!」


 『破壊神』を食い止められなければ、どのみちリスボンも滅ぶのだ。各々出来る事を万全に済ませて、勝率を上げるしかない。


「はい、お姉ちゃん! 今用意出来る現金は、金貨五万枚に銀貨二十万枚よ。ロンドンに運ぶなら、金目の物と交換する?」

「そうね、ある程度は金細工なんかに変えておくわ。残りはインゴットにしてしまうわ。エリオ、ゴメンね。無茶な事をして。終わったら元に戻すから!」

「構いません! そのお金は倉庫を圧迫していたので、余裕で出せます。こっちの事は任せて、頑張って下さいね」


 しかし成り行きとはいえ、随分と儲かっているのね。正直そんな大金が余っているとは思わなかったわ。


「じゃあ、千鶴ちゃんと合流してロンドンに行くわ。一旦ディアナさんの所に行くわよ!」

「はい、お姉ちゃん! お母さんには心配しないで、って伝えるから」


 予定外の人数が増えてしまったが、これも『縁』なのだろう。マリアちゃんなら心配せずに任せられる。


「アキラちゃんに千鶴ちゃん。随分と遅かったのね。いつ、マリアを連れて行くのか心配していたのよ」

「すみません、急な話で……」

「あらあら、違うのよ。もっと早くに行くと思っていたから……。マリアがロンドンに行きたがって」


 あぁ、その辺は覚悟済みと言うか、マリアちゃんが待ちきれなかったのね。色々と忙しかったのよ。……戦争とか。


「その辺のお話も教えてね。またお姉ちゃんの事だから、面白い事してたんでしょ」

「マリアちゃんには敵わないわね。いいわ、前よりも面白いメンバーも増えたし、紹介するわよ」

「わーい、楽しみー!」


 ふふ、こういう所は変わっていないわね。賑やかになりそうだわ。


「千鶴ちゃん、提督さん達の様子はどうだった?」

「すっかりインド航海に慣れてしまったそうですよ。鼻歌混じりで『吠える40度』を超えるらしいです」

「……ふふ、そっちも順調で良かったわ。じゃあ、ロンドンに行くわよ」


 私達は一路ロンドンに向かった。……恐らく、あの変人共がうっきうきでロボットを魔改造している事を思い浮かべながら、変人の相手ツッコミにどの位苦労する事になるだろうか、と頭を抱えるのだった。

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