110.最高神と新たなる魔王
私達は本部に移動し、リズさん達『運命の三女神』に立ち会いをお願いして『オド』の量を増やす手順を実施する事にした。
万が一、私が魔王として暴走したとしても、リズさんの『封印』があれば止める事が出来る筈だ。ジェームスは私を抱きしめて、何があっても止める気らしい。その体温を感じながら、私の覚悟は決まった。
「じゃあ、やってみます。リズさん、何かあったらお願いしますね」
「そうね~多分大丈夫だと思うけど~。任せて~」
「アキラ、無理はするなよ。……って言っても聞くつもりは無いだろうが」流石ジェームス。長い付き合いだし、私の思考は把握済みだ。
私だって怖いのだ。……自分が自分で無くなったらと思うと、躊躇しそうになる。
「……誰も悲しませない。それが私の覚悟なの。『きっと明日はもっと良い日になる』そうじゃなきゃ救われないわ」
私は『宝玉』をのぞき込む。この『宝玉』と全ての世界が繋がっている。その繋がりを太くすれば良い訳だ。意識が遠くなっていき『宝玉』の中に吸い込まれる感覚がした。
「……これが、世界との接続部分なの?」
目の前には大きな黒い壁がある。何処までも続く黒い壁の雰囲気には覚えがある。これは『門』だ。
「……成程。全部の世界を繋ぐ『門』があるって事ね」
良く見るとわずかに切れ目があった。ほんの小さな傷みたいな処から、何かが流れ出している。これが恐らく『オド』の発生源なのだろう。
「とにかく、この切れ目を広げれば良い訳ね。……とは言ってもね」
手を差し込む程度の幅はあるので、思いっきり力を入れて、切れ目を広げようとする。
「グニニッ……うーん。ふんっ!!」
バキッと言う音と共に、その切れ目が広がった。後は縁の部分を殴りまくる。それほど固い訳でもないらしい。どんどんその穴を広げていき、人が通れるサイズ位に広げた。
「まぁ、こんなもんでしょう。……さて何が起こるのか?」
正直言って、実感は無い。……どうやってこの場所から戻るのかもわからない。何かが起こると思い、暫く待っていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。真っ暗な空間にいるとそこら辺は分からない。ただ、体の奥底から力が流れ込んでくる感覚がする。
これが世界から流れてくる『オド』だろうかと考えていると、目の前に見た事のある人影が現れた。
「やっぱり来たわね、ポンコツ女神! こんな面白そうなイベント、アンタが見逃す筈は無いと思ってたのよ」正直、予想通りである。こいつは私を観察している。
「お母様、重大な決断をされた事を称える行動に何か問題が?」
「……いいえ、そういう訳じゃないけど。物好きよね、実際」
こういう不可思議な体験も慣れると何の感情も沸かない。とはいえ、こいつもちゃんと世話を見ると決断したからには、真面目にコミュニケーションをとる事にしよう。
「ポンコツ女神とはいえ、ちゃんと仕事をする気はあると分かって、少し安心したわ」
「……その、ポンコツ女神と言う呼び名は、良くないものと判断します。改善を要求します」
「そうねえ……名前を付けましょうか。一応、生みの親と言う話だし」
とは言っても最高神の名前なのだ。いい加減に付ける訳にも行かない。神様っぽい名前……。女子高生時代、ミッション系の私立学校だったので、聖書やら何やらの授業があった。
色々と旧約聖書の件は、純粋な物語として楽しんだものだ……。個人的な趣味でそっち方面の書籍を買い集めて読みふけった。中には良く分からないオカルト本もあったが……。
「そうねぇ『私は始まり(アルファ)であり、終わり(オメガ)である』って言う言葉があったかしら」
「創造神のお言葉ですね。良くご存じで」
「……あなたは生まれて間もない訳だし、この問題の始まりでもあるわよね。アルファって名前どうかしら?」
これなら女の子っぽい名前だろう。呼びやすいし分かり易い。
「私の名はアルファ。結城映の子にして、この世の管理を司る人造の最高神なり!」
「ええ、それでいいわ。アルファちゃん、宜しくね」
「はい、お母様。とても良い名前だと判断します。私、嬉しいです!」
何だか、急に機械っぽい印象から人間味あふれる感じに変わったような気がする。
「喜んで貰って良かったわ。……少しはまともになったのかしら」
「そうですね。名前と言うのは重要です。自らの存在を世界に映し出す手段ですから。これで私の力も強化されるでしょう」
「……良くは分からないけど、気に入ったって事ね」
変人の相手が減るのは良い事だ。精神的な負担が減る。相手は神様なので変神なのかもしれないが……。
「それで、以前に無理矢理教えて貰った事が出来るようになったの?」
「ええ。それだけの『オド』があれば、可能でしょう。但し、デメリットもあります」
「まさか、魔王として精神を病むとか暴走するとか?」
「いいえ、お母様はそのような真っ当な精神は持っていません。いうなれば『心臓に毛が生えた』と言うか……」
うん、人間らしく憎たらしい感じになって来た……。対応に困る。
「『オド』が強すぎて、魔道具の類が焼き切れる事になります。魔力の制御に慣れるまで使えないでしょう」
「……それ位なら構わないわね。結構決断するのに悩んでたのにねぇ」
「お母様には沢山のお仲間がいます。精神の強靭さは後天的なものですから。『縁』による強化と思います」
後天的という事は、元々の性格では耐えられなかったと。世界の輪廻という奴のせいではあるのだが、自分の元々の性格が気になる。
「ねえ、アルファ。私が元居た世界の時の性格とか、過去の記憶とかを知っているんでしょう。どんな感じだったの?」
「……私はあれをお母様だとは認めません。お聞きにならない方が良いでしょう」
「そう言われると逆に気になるじゃない」
悪趣味ではあるが、自分の事を知りたいという欲求には逆らえない。
「そうですね。元々のお母様は『金の亡者』『人を騙したり裏切りも平気でする』『人の不幸が大好き』位の最低な人間でした。周りに仲の良いものもおらず、常に文句ばかり言う。そんな人間です」
誰よ、それ? 私って、そんなに酷い人間だったの……。六万回のやり直しと言うのが、どれほど酷かったのかが分かる。
「昔の事は気にしない方が良いと思います。我々神々も一人の人間がここまで変わるとは想定していませんでした。お母様は常に後悔し、自らを改め良い方向に変わっていったのです」
「……良いわ、細かいことは気にしない。それじゃあ、この辺で元に戻れるかしら」
聞きたい事も聞いたし、皆の声が聞きたい。
「一度に大量の『オド』が流れ込んで、お母様は重度の『魔力酔い』に掛かって倒れています。暫くすれば、気が付くでしょう」
「そう、皆心配しているでしょうね。アルファ、これからもよろしくね」
「はい、お母様も体に気を付けて『運命』に立ち向かってください。貴女達を見守っている神々は多いのです。彼らの加護も受けている事もお忘れなく……」
神様達が見ているのなら、悪い事は出来ないわね。
「お母様、いずれ『運命』に導かれ新たな苦難と出会いがある事でしょう。私はいつも見守っております。ご武運を……」
「うん、きっとこの世界を救って見せるわ。『きっと明日はもっと良い日になる』だもの。何とかなるわ!」
アルファちゃんは、嬉しそうにその言葉を聞く。最初に出会った無機質な人形のイメージは何処にも無い。神々しいが子供らしい笑顔の女の子がそこにいた。
「では、運命の輪から解き放たれた未来にてお待ちしております」
そう言われて、周囲が暗転する。……目が回りそうな意識の中、よろけたような感覚の後に目が覚めた。
「……うーん、気持ち悪い」
「アキラ、気が付いたか! 大丈夫か? 意識は……頭は大丈夫か!」
「ジェームス! 心配しなくても頭は大丈夫よ。人の事、馬鹿みたいな言い方しないでよ!」
どうやら、結構な時間倒れていたらしい。ジェームスにお姫様抱っこされたまま、意識が戻った。
「懐かしいわね、こうやって『魔力酔い』してお姫様抱っこされたのが、ジェームスとの馴れ初めだったし」
「そんな事言っている場合か! 心配したんだ、まったく」
どうやら、体の奥底から何か強力な力が湧きだす以外、何も変化していないらしい。
私は、ジェームスに抱きつきながら「ただいま」と言って、久しぶりに甘えるのだった。
神様に名前を付けるお話です。……一応プロットはまだ耐えています、まだ舞える!
初期プロットでは、もっと長編の予定でした。……流石に長すぎて変更しましたが。とは言っても、神様達に見守られる主人公、と言う構想はそのままです。
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