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109.魔王に覚醒する覚悟

「のう、主殿。あの辺の夜盗を『チェスト!』してもええか?」

「駄目に決まってるでしょ! 大体、何でそんな剝き身の刀を担いでいるのよっ!」

「護衛の為でごわす。何時襲われるか分からん。それにこれはダンビラじゃし」


 護衛と言う名の監視下で、このヒサ君の行動に頭を抱える毎日。まったく、このままロンドンに行くまでに何とかしないと、ちょっと早めの「ジャック・ザ・リッパー」の誕生になってしまう。


 首狩り族……と言うか、人じゃないかと思うのだが、本人曰く魔族らしい。……喧嘩早いというか『悪・即・首』となるので、レイ君はじめ総掛かりで止めている。


 こいつが持つ刀と言うかダンビラ……いや、確かに幅広ではある。五センチを超える幅広で長い刀身を持つそれは、大太刀と言った方が良い大きさだ。腰に差すのが邪魔で、抜くのに時間が掛かる為に担いでいる。


 不思議な刃紋を持つ、巨大な刀を軽々と振り回すのは確かに凄い。……だが、本人曰く「男子たる者、敷居を跨げば七人の敵あり」と言いながら、何時でも敵の首を落とそうとするサイコパスの相手をしなければいけないこっちの身にもなって欲しい。正直手に余るのだ。


「あのね! あんたの居た世界はともかく、そんなに狙われる事なんてないのよ。こっちが警察に捕まる前にその刀を何とかしなさい!」

「主殿は無理を言う。それではいざと言う時に『チェスト!』出来んじゃらせんか」


 こいつの『チェスト!』の出鱈目さ加減は、さっきの夜盗で確認済だ。戦場では頼りになるが、日常においてそんなものが役に立ってもらっては困る。



 なんせ、こいつが「キィチェーーーーーイィ!」と叫ぶと同時に、数十メートル先の夜盗の首が飛んだ。物理法則も何もあった物ではない。


「……ホルス君、やっぱりあれって普通じゃないよねぇ」

「ええ、間違いなく魔法が発動しています。種族の特性かどうかは分かりませんが、掛け声と刀の降り下ろしの動作で、魔法を発動して対象物を『削除』しています」

「『削除』って……。ただ切り付けてる訳じゃないのね? それであんなに遠くまで届いて、切り口が鋭利だったのね」


 ますますヤバそうな能力だ。認識している対象物を物理的に排除しているというのは恐ろしい。まさに『キチガイに刃物』という奴だ。


 今の所、こいつがまだ「首置いてけ」しようとしているから、首の皮一枚だけ残して首ちょんぱ状態になっているだけで、やろうと思えばその人丸ごと消せるという事なのだ。


「ねえ、ヒサ君。……その能力って、あなた以外の首狩り族でも出来るの?」

「いんや、出来もはん。オイも最近に立ち木ば、叩きまっっちょったらそんな事になったでごわす」


 いい加減ねえ。まあ『破壊神』相手なら有効そうだ。その辺り、巨大なタイプの『破壊神』を何とかする方法も検討しなければいけない。奥の手もあるのだが、踏ん切りが付かない。


「とにかく、皆も面倒事は起こさないでね! タダでさえロンドンで変人共の相手ツッコミが忙しいんだから」

「……マードック達なら、大喜びでロボットの改造を進めているだろうな……。俺にも予測がつかねぇ」

「そうねえ……。物凄い状態でしょうねぇ」私はもう諦めた。こういう事は、流れに身を任せるのがコツだ。


 それにしても、かなりの長期間ロンドンから離れていた。戦争やらあちこちの調整やらで大騒ぎだったのだ。……魔王軍再編も懸念事項だし、最終決戦までに戦闘計画を立てないと。


 その為にも「強化スーツ」や「ロボット」の実用化は必須目標なのだ。戦力の底上げや能力の向上を目指して、魔改造の手を止める訳には行かない。


 そもそも、生身の人間が『破壊神』に対抗するのは難しい。一言で『破壊神』と言っても種類が多いのだ。


 一番多いのは、人よりちょっと大きい程度の「兵士級」だ。戦闘力はともかく、数が物凄く多いので飲み込まれない様にするだけでも死人が出る。


 そこから、5m位の「士官級」が動きを取りまとめ、後方から「遠距離攻撃タイプ」がこちらを狙って来る。「巨人級」や「母船級」に至っては、数十メートルの巨体や空を飛ぶ能力など、とてもではないが相手にすらならない。


 そして、過去の記憶では目撃した事の無い「母体」がいる筈だ。……無尽蔵に吐き出され、分裂する『破壊神達』の侵攻を止めるには、その「母体」を探し出して破壊するしかない。


 ……考えたくないが、その母体を統括している『破壊神本体』がいる可能性が高いのだ。ポンコツ女神から貰った『奥の手』は、危険すぎて出来れば使いたくはない。


 だが、みすみす温存したまま抱え落ちと言うのも避けたい。……味方に出る被害を考えたら出来るだけの事は行わないと……。



「今日は、ここで野宿するわ。何人か、集まって会議をするわよ」

『おう!』と、呑気な返事が返って来る。こっちの気も知らないで……。


「……集まったわね? ちょっと気になる事があってね。ここにいる『魔族四人組』の事よ」

「私達の事?」リンちゃんにはピンと来ていない様だ。

「そうよ。私達と一緒に行動してきてから、リンちゃんやトール君、フェンリル君も変化が激しいのよ」

「……確かに、初めて会った時よりも成長しているな」


 そこら辺をロキさんに聞かないといけない。そもそも『魔族』って成長するの? という事だ。


「ロキさんに質問! 預かった皆の様子がおかしいけど、成長する『魔族』っているの?」と、ゴブリンに話しかける。少し間をおいて、返事が返って来る。


「魔王様、我々『魔族』は生まれてから変化する事は無い。老化もしないし、自然に泡の様に消えるだけだ」

「でも、トール君は身長が伸びているし、リンちゃんも人間っぽくなっているわ。おかしいじゃないのよ」


「……魔王様の『オド』を吸収しているのだろう。かつて『魔族四天王』と呼ばれた者達が居る。種族が持つ力とは異なる、強力な特殊能力を発現させた、と聞く」

「つまりそれって、私の『オド』が大きくなれば、皆もそうなるって事かしら?」

「推測だがそういう事だろう。……強い魔力は精神を歪める事もある。心身の変化を注意した方が良いな」


 面倒な話ではあるが、有効な戦力強化にもなるという事だ。……預かった子達の意見も聞かないといけないし、自分自身、その『オド』を強化して本当の『魔王様』になる選択肢は、恐い。



 私は今まで異世界には来たが、魔法と言う異能自体は無視してきた。なんだかんだ言っても普通の人間として、積極的に変わりたくなかったのだ……。


 もし、元の世界に戻ったとしてそんな能力を身に着けて、普通に生活出来るだろうか。それに異世界に染まるという考えもしなかった。


 私にとっての魔法とは、憧れと同時に異世界の能力として自分とは関係の無いもの、という認識だったのだ。だが、あのポンコツ女神からの介入でそれが崩れようとしている。


「『破壊神』を倒す為なら、自分の身は犠牲にするつもりよ。……『オド』を強化する方法があるの。それがあれば、本物の『魔王様』になる事も出来るわ。……正直恐いし、自分の心が変わる可能性だってあるわ」

「……アキラ、お前?」ジェームスが心配そうにこちらを見つめる。


「だからね、もし私が暴走したら躊躇せずに殺して……。私自身が魔力に飲み込まれたら、意味が無いわ。その時は……お願いね」

「アキラ、俺とお前は一心同体だ。相棒だと思っている。お前だけを殺させはしねえ。……大体、普段から暴走しているんだ。俺が何とかしてやるさ」

「ありがとうジェームス。それだけで気持ちが落ち着くわ。……そうね、何とかなるわよね。四人共、戦いに巻き込むことになるわ! どんな能力かは知らないけど、もしかすると怖い目に逢わせるかもしれない」


「……だから、参加したくなければ私の所から『魔族』の所に戻ってね」

「主殿! オイは、戦ばしとうて、ここまで来ちょる。今更でごわす」

「お姉様、私に出来る事があれば何でもするわ。戦うのは怖いけど、皆を守れるなら構わないよ」

「右に同じく。俺だって故郷の仲間の所に戻るつもりは無いぜ」

「僕もそうさ。『魔王様』を守るのが役目だし、引き下がるつもりは無いよ」


 覚悟は決めた。皆が私を信じてくれる。……きっと大丈夫。この奇妙な『縁』は、偶然では無い筈だ。


 『魔王』になろう。その為の方法は簡単だ。……覚醒してどうなるかは分からないが、これが自分の役割だと信じる事にしたのだ。

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