104.魔族にも変な奴しかいないの!?
ロシア軍との戦いに備えて、猫の手も借りたい有様なのだが……。借りるのは、コボルトにゴブリン達なのだ。どうしてこうなった。
「……うん、まあね。そりゃ誰でも良いから! とは言ったわよ、確かに。だからと言ってこれじゃあ」
「酷いよ『魔王様』。ゴブリンにも五分の魂がありますって!」
「フェンリル君……それじゃ、ダジャレじゃないのよ。私達に必要なのは兵隊なの! ちゃんと役に立つんでしょうね?」
『魔族』の集合場所で、百鬼夜行状態の連中に問いかける。
「私には、誰が何やらさっぱりよ。戦争したい奴はいるの?」
「……たたかう?」「いくさ!」「たたく! なげる!」
まぁ、やる気だけはありそうだけど。言葉が通じない変人? 変魔? って言うの、これ。どうすりゃいいのよ。
「アキラよ。また会ったな。……やはり『運命』はあるものだ」
「ロキさん! 流石に、こんなに一遍に集まっても戦争は出来ないわ。少し厳選して欲しいのだけど」
「ああ。ゴブリンなら問題無い。誰か一人に丁寧に教えてやってくれ」
「……良く分からないけど。まあ良いわ」
流石に今から装備を揃えるのも難しいので、調達しやすそうなスリングで投石をして貰おう。
そこら辺の草の蔓を集めて、より合わせる。スリングに石を挟んで……持ち方を教えて、投げさせた。
「うん、ちゃんと出来たわね……これでどうなるの?」
「ああ、ゴブリンは『集合精神体』と言うか『総体生物』なのだ。全員の意識と知識を共有している」
「……という事は?」何と言うか、アリとか蜂みたいなものなのか。
「さっき教えたスリングの作り方や使い方が、全員出来る様になった」
良く見ると、ゴブリン全員が、各々スリングを作り始めた。少なくとも千人はいるだろう。
「成程ね。訓練の必要が無いのは有り難いわね。……えっと、知識を共有してるって事は、遠く離れていても情報を共有出来るって事だよねぇ」
「ほう、理解が早いな。……そうだ。ゴブリン同士を通じて、離れた相手と『通信』する事が出来る」
「……良いじゃない、それ。採用!」
『総体生物』が何だか知らないが、そう言うものとして使おう。実際、便利である。もっと早くに知っていれば、あちこちの世界に送り込んだものを。
「コボルトは小さい人間程度の能力しかないが、手先は器用だ。弓も使えるし、会話も容易だ」
……成程、規模は小さいけれど『魔王軍』作っちゃいましょうか。
「……しかし、人間のお前は怖がるか、薄気味悪く感じると思っていた。我々に思う処は無いようだな」
「そうね、これでも変人相手は慣れているわ。……言ってて悲しくなるけどね」
「……あぁ、あの人間か。アイツは我々でも分からん」
サトリでも分からないのなら、理解不能な思考なのだろう。……どうなっているの、あの師匠は?
「すみません、うちの師匠が迷惑を掛けて……」ホルス君は大変だねぇ。
……まぁ、それはどうでも良いとして。何か他にある?
「後は、何名か『はぐれ者』がいる。連れて行って貰えないか?」
「……なんなの『はぐれ者』って? 何か良くない事でもあるの?」
「いや、一族に馴染めない者が居てな。『魔族』を管理する立場上、預かっているのだ」
まあ、面倒事を起こさない様なら問題無い。今更、と言うには変人が多すぎる。
「こいつは、ゴブリンなのだが……『総体』に含まれていないのだ」
「……こんにちは」小さな子供のようなゴブリンだ。
「初めまして、私アキラって言うの。お名前は?」
「……無いの。私『ゴブリンの女』なの」
ゴブリンって性別あるの? 一目見ても同じにしか見えない。確かに、この子だけ他のゴブリンとは違う。
「本来は無い筈なんだがな。めったに生まれない『ゴブリンの雌』なのだよ」
「……仲間外れは寂しいわよね。私の所に来る?」
「良いの? ……私、役に立たないよ!」
「良いのよ。こういうのを『縁』って言うの。役に立つとかどうでも良いの。女の子だったら、着替えも用意しましょう。そうね、名前は……『リン』でどうかしら?」
ゴブリンの「リン」ね。我ながら、安直だぁ。……だがまぁ、独りぼっちの寂しさは、誰よりも良く知っている。賑やかなのは良い事だ。
「わーい、ありがとう。私の名前はリンでーす。よろしくね!」良い子じゃないの。
「後は……こいつは巨人族なんだが……」
「……初めまして」出てきた子供は巨人族と言うには小さい。人間なら10歳、と言ったところか。
……何か知らないけどさ、ロキさん。在庫一掃セールでもしようっての?
「そう言うな。実際……扱いに困るのだ。だが、幸せになって欲しいとも思っている」
「……そうね。私だって見捨てるつもりもないし。ねえ、君の名前は?」
「……トール」名前負けしているとか、思ってはいけない。
……どう見ても、普通の子供にしか見えないのだが。
「ああ。こいつは『中身が詰まっている』状態だ。これでも成人の巨人族なのだ。……重いし頑丈だ」
「はい、俺は小さくて一族から馬鹿にされて……見返してやりたいんです!」
「へえ、そういう事もあるのね。……じゃあ、剣でも切れなかったり、銃弾を弾いたり出来るの?」
「ああ。俺、そう言うの得意! 一族の中でも一番頑丈だよ!」
中々に面白い経歴の子だ。壁役、として頑張って貰おう。
「よし、トール君。リンちゃん。旅団『青い鳥』にようこそ!」
「アキラさん、良いんですか? そんな簡単に……」ホルス君は心配性だねぇ。
「良いのよ、こんなもので。変人の扱いなんて慣れたものよ」大体、幹部が神様なのだ。何をいまさら。
「……変人、と言って良いのかどうかも分からないんですが」
こんな変わった子達、私位しか預かれないでしょ。ワイワイやれば良いのよ、こういうのは。
「とりあえず、今は忙しいからこの位かな。また時間があったら来るから、その時に集まった連中は考えましょ」
「……お前は本当に変わっているな。確かに『魔王様』と呼んでも構わない気がする」
「その呼び名だけは嫌だわ。……誰かに聞かれたら悪人扱いよ!」
「そういうものか? 名前なんぞはどうでも良いが……。済まないな、こちらの都合を押し付けて」
ロキさんも大変だなぁ。……今ここにいる連中を引き連れて『破壊神』探しまでして。
……多分、自分の性格と言うか、色々と『世界の輪廻』のせいで普通の感覚では無いのかもしれない。既に我がメンバーの中では、ホルス君が常識枠なのだ。自分はもう、変人と接しすぎたらしい。
「大丈夫だって! 『きっと明日はもっと良い日になる』だよ! そう思っていないと『破壊神』なんて、相手にしていられないって」
「……良い言葉だな。お前は、本当にその言葉を信じているのだな」
「そうだよ! 嫌な事があったって、何とかなるよ。何時だって、そうだったもの!」
良いじゃん『魔族』だって! 身振り手振りで物々交換してきた、私の適応力を舐めて貰っては困る!
ともかく仲間も出来たし、軍隊らしきものはどうにかなりそうだ。色々合わせて千五百名ってところか。
「うーん……見た目とかは、どうしたものかしらね? 流石に無視する訳にも行かないかなぁ……」
「それこそ、マントでも羽織らせるしかないでしょうね」もうホルス君も、若干投げやりだ。
えーい、常識にとらわれていてはいけないのだ! ダルイムの街で騎馬軍団に合流して、ロシアと戦うわよ!
……これならロシア人達も「あっ」と驚くだろう。知らんけど。
私は「流石に、これ以上酷くはなるまい」と心に棚を作りながら、我らが『魔王軍』を眺め回すのだった。
という事で最終プロットの一つ『主人公が魔王になって、魔王軍を作る』となりました。
いや、ここまでするの大変でした。
唐突に投稿したプロローグの番外編。唐突ですが理由はあります。「魔王軍を立ち上げる」と言うフラグを回収したので、最終話に向かう場面と言うか『トゥルールート』に分岐した、という奴です。
ゲーム的な話であれば、『ビジュアルノベルゲーム』みたいな事ですね。「Fate/Stay night」とかであるルート開放になります。
個人的に一つだけ好きなゲームを挙げろと言われれば、もはや古典ではありますが「To Heart」なんですよ。PC版でも全年齢版もどっちも好き!
……あの現代世界の中に「アンドロイド」「魔法少女」「超能力者」「幼馴染」「格闘家」その他諸々、溢れんばかりの個性的なヒロインがいて、共存している作品なんて他に知りません。そして、何事にも動じない主人公。
今書いているこの作品は、そのオマージュなのです。……つまり『何でもあり』という事です。自分が好きなもの、面白いと思えるものを出す事が出来るって、凄いと思いません? 世界に一つだけの物語ですよ。好きなものを書いて何が問題が?
確かに、作者の独りよがりと思われる方もいるかも知れません。だけど、自分が面白いと思って書かずに誰かに面白いと思って貰えないでしょ? 作品を見られることは無くても、誰にも文句は言われないのです。そういうスタンスと思って下さい。
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