103.戦争目前の準備は万全に
「という訳で、新技術についてはある程度の課題と目途が付いたわね」
「そうだな、ロボットに関してはマードック達が改修中だ。出来れば、アキラ専用の大型機も視野に入れている」
「そうすると、対『破壊神』戦と対人戦の両方を改善しないといけないわね」
一通りの作業が終わった段階で、全員を集めてブリーフィングを始める。どのみち避けられない問題を、何とか知恵と勇気で対処するのだ。一応、事前の仕込みは済んでいるのだ。最後の詰めという奴だ。
過去の自分の記憶と『破壊神』関係の知見については、全員に伝えてある。
特に三人組の落ち込み具合は激しかった。自分達の知る『破壊神』と比べ物にならない破壊力と再生能力、物理攻撃による分裂など、手も足も出ないと言った感じだ。
「ホルス君。貴方の『ソウルスティール』が今の所では、唯一勝ち目がありそうなのよ。後は『マナ』が枯渇させるように色々と準備が必要ね」
「しかし、過去に戦った時にも『ソウルスティール』は使いましたが、足止め程度でしたよ?」
「そうね。だから、物理攻撃で小さくなった後で使えば、効果がありそうだと思うわ」
過去の記録で見た限り、周辺の『マナ』を枯渇させれば、大きくならないという事は分かっている。
つまり、多少荒っぽい作戦ではあるが『破壊神』を物理攻撃で分裂させて、小さくなったものから潰していくのだ。
「理論上はそうなりますけど……俺の『オド』が持つかどうか」
「そうねえ。必死で訓練して貰うしかないけど……万が一の切り札もあるわ。他の攻略法を思いついた人は居ない?」
「……魔力を吸い取れれば良いんじゃな?」
レオナルドお爺さんからの提案だ。古代ローマ関係だろうか?
「ジェームスと話をしていて『呪いの魔道具』の事を聞いた。あれの対策を参考にしてはどうかな?」
「ああ、強力な魔道具で魔力を下げるのなら使えそうね。但し『破壊神』が上手くその位置に留まる事が前提だけどね……」
「物理攻撃をしなければ分裂しないのであれば、大型のロボットで抑え込むのが現実的じゃのう」
何も手段が無いよりかは良い。確かに現状では銃の安全装置にしか使っていないが、魔力を強制的に吐き出させるというのは良いアイデアだ。『門』に設置してやれば弱体化も狙えるだろう。
「今の所はその辺ね。後は『魔族』との協力も欲しい所だわ。フェンリル君、ロキさんからの連絡はある?」
「『魔王様』宛に『魔王様の噂が広まってしまい、各地から魔族が集結しています』という事らしいよ」
「……そっちはそっちで、顔を出さないとマズイわね」
随分と大事だ。まだ世界の滅亡は始まっていないが『門』が開いた時の対処法は、しっかりと計画しなければ。慌てても仕方が無い。最悪の事態を想定しながらの対策会議となる。
「対人戦だけど、ロシアとエジプトが両面作戦を仕掛ける可能性があるわ。後は、イギリスも相手にする事になるかもしれない……」
サンダースさんによると、イギリスとの関係は最悪で、ロシアと同盟を結びそうだという推測がある。
「海上からの上陸戦も考えると、三正面か……。恐らくオスマンのみでは耐えられないな」
「ムラトさん、こういう時は援護する当てがあるわ。ダルイムの街から騎馬兵を出して貰いましょう!」
いずれは必要になると思っていた。オスマン帝国の立地上、快速部隊の編成は難しいのだ。
「後は魔道具類での戦力底上げね。バリアの魔道具を出来るだけ大量生産して、兵隊に配布しましょう」
「そうだな、魔道具工房はダルイムの街とイスタンブールに揃っている。それぞれ大量生産を指示しておこう。オスマン帝国向けの銃はどうする?」
……飛距離とチャージ時間の事も考えると、旧式の武装は刷新したい。
「……うむ、最優先事項だ。至急、魔導具工房の増設を行おう。幸いな事にレオナルド殿とジェームスでマニュアルは作成済だ。全力を以て緊急生産させよう」ムラトさんが皇帝陛下の顔になった。実際問題頼もしい限りである。
最低限のメンバーを残してオスマン帝国に向かう必要がありそうね。
「それじゃあ、各担当を決めるからお互い頑張りましょう!」
『おう!』身近な目標があると士気も向上しやすい。頑張らなくっちゃ。
「それで、レオナルドお爺さんにダルイムの街での魔道具制作をお願いするわね。ジェームスはオスマンの工房増設。ダルイム族の人達は、ハーン様に集めておいてもらいましょう。恐らくだけど、一ヵ月も経たないうちに総攻撃が始まると思うわ」
ムラトさんと千鶴ちゃんは、確定でオスマン行きとして……。
「ホルス君やレイ君・フェンリル君達は、私と一緒に『魔族』対応をお願いするわ。私達でダルイムの街経由で騎馬隊と魔王軍を連れて行くわ。状況確認は、引き続きサンダースさんお願いね」
「よし分かった。一応イスタンブールには城壁がある。機雷も準備してあるから、半年は稼げるだろう」
「何か質問や意見はあるかしら? 一刻も早く対応が必要よ。準備が出来次第、移動を開始するわよ」
大事の前の小事である。手早く三正面作戦を済ませてしまわないと、次の予定が狂ってしまう。
「無いみたいね。それじゃあ、各自準備を進めて! 忙しくなるわよ!」
夏休みの宿題でもあるまいし、慌てて間違えるのも避けたい。オスマン帝国側の準備は完了しているという前提でないと、作戦も立てられない。
「まったく、金の切れ目が縁の切れ目なんて最低だわ。ヴィクトリア女王の横面を引っ叩いてやるわよ!」
その一言で全員が大笑いする。全員の意識が戦闘モードになった所で、作戦を立案したい。
「ホルス君、千鶴ちゃん。イギリス戦の作戦を立案するわよ!」
「はい、お姉様! イギリス海軍とのガチンコ対決ですね! 心が躍りますよ!」
「防衛用の民兵を募集しましょう。青年改革派との伝手があります。イスタンブール防衛はそちらを活用したいですね」
戦争屋と我がメンバーの司令塔だ。このメンツは実際頼もしい限りだ。
世界一の規模を誇るイギリス海軍をコテンパンに叩きのめす良い機会だ。
終戦協定で借款をチャラにして、賠償金を分捕ってやる! 商人を敵に回した事を後悔させてやるわ。
「ロシアにイギリスかぁ……。良い小金稼ぎに持って来いだわ。存分に国庫を吐き出させてやるわ!」
何、攻めてくるのはあちらなのだ。自分の良心も傷まないし、躊躇する事も無い。サクッとスナック感覚でやっつけてやりましょう。
普段は大人しいメンバーだが、戦やら相手との競り合いになると別人のように変わる。まったく、この不良共め。
「油断しないで、皆やる事をやって後で笑い話に出来るようにするわ。頑張りましょう!」
『おう!』
私は、このピンチを一気にひっくり返すための様々な手を考え、相手に「あっ」と言わせてやる、と意気込んだ。
いよいよ大戦争の開始です。
最強であるイギリス海軍相手に大立ち回りをしたいところです。