102.魔法少女に憧れて
「そうですね。まず、関節部分が重量に耐えきれないと思います。後は、動力は分散させた方が良いでしょう」マードックさんから改良点について説明が入る。
「構造図を見ているが、出来れば手足の中に骨格部分を入れよう。装甲部分もタダの板ではなくて、必要部分のみに改造が必要だ」
「そうか、小型の高圧蒸気機関を組み込むとして、排気も考えなきゃなぁ……」
議論が白熱している。ここは任せて、強化スーツの開発に着手する事にしよう。
「それじゃあ、マードックにジェームス。そっちは任せるからね。何か必要な事があったら呼んでね」
「おう、任せろ! 売り物じゃないって事は、いくらでも改造して良いって事だよな!」
ジェームス達の目が輝いている。マッド野郎共があの目になると、とんでもない事になるが……まぁ、その時はその時だ。ホルス君がいれば、ストッパーになるだろうか。
「お爺さんと千鶴ちゃん達でこっちの作業を進めましょう。メルちゃんはロンドンで縫製の作業もしてたわよね」
「ええ! ドレスに飾り物。色々と手伝いをしていたから得意よ!」
「じゃあ、可愛らしい強化スーツを考えましょうか。私、昔から魔法少女が好きだったのよね!」
趣味の話ではあるのだが、アニメなどで刷り込まれていたから仕方が無いのだ。こう、如何にも魔法と言う感じがして面白そうだし。
「じゃあ、試作品で試してみるかの。本当にちょっとしか強化はされんが……」
「大丈夫! 『魔改造』は得意技だから。原理さえ分かれば、何とかなるわよ」
そう言って、お爺さんから杖のような物を預かる。……何と言うか、地味だ。もっと見た目も改良したい。
「元素固定装置はそのままで良いじゃろう。強化したい内容を纏めんといかんが……」
「そうね。千鶴ちゃん、何かアイデアある?」
「スピードよりも筋力でしょうね。ある程度はカバーできますし。後は……ジャンプ力とか腕力みたいに、一部だけ強化するのが良いんじゃないですかね」
確かに、無理のない範囲なら一部のみの強化に絞り込んだ方が性能も上がり易そうだ。
「調整方法は、この資料に纏めてある。後はスーツの設計が必要じゃな」
「……使い回しは出来なさそうだから、オーダーメイドになるわね。まずは千鶴ちゃんの強化で、どの位性能が上がるか試してみましょう」
「私ですか? つまり実験台になれと……。まあ良いですけど」
強化されるのが加算方式か乗算方式かもわからない。もし元の力に合わせて強化されるなら、かなり有用なのだが……。後は、魔法との相性もあるし、肉体へのダメージなんかも怖い。
その点、千鶴ちゃんならダメージを受けない様に加護を付けておけば良い。……実験向きなんだから仕方が無い。蒸気船と同様に、未知の技術は最悪の事態を想定しないと。
「はい! こんな感じでどうかしら!」メルちゃんには魔法少女の話を聞かせつつ、ヒラヒラのついた可愛らしい衣装を用意して貰った。
未来的な飾りの無いイメージの衣装と悩んだ。だが、魔法少女は女の子のロマンなので、そちらを採用した。
「うん、良いんじゃないかしら! 不自然でもないし、動き易そうだわ」
「……あの、本当にこれを着るんですか?」
「良いじゃない。こういう衣装も似合うわよ、きっと」
無理矢理千鶴ちゃんを説得して、試しにテストを行って貰った。良く見るとレオナルドお爺ちゃん以外は女性陣が全員こっちにいる。ロボットの周りは男性陣ばかりだ……。
ムラトさんも一通りの説明を聞いて、幾つか質問をした後ロボットの方を見に行った。何とも楽しそうである。女性三人集まると姦しいと言うが、ワイワイやるのが実際楽しいのだ……。
「それじゃあ、ちょっと怖いですけど試してみますね」千鶴ちゃんが覚悟を決めた。
杖型の魔道具を作動させる……。特に変化はないようだけど……と思ったらいきなり服が消えた。全裸の千鶴ちゃんが慌てて隠そうとする。……男性陣がいなくて助かったわ。
「ねえ、お爺さん。もしかしてデメリットって……」
「ああ。どうやっても身に着けた服が消える仕様はどうにもならなくてな……。ちゃんと動作はするんだが、いまいち評判が悪かった」
でしょうね。変身する度に服が消えるのはどうにかならないだろうか……。魔法少女でなく痴女になってしまう。
「お姉様! 何とかして下さい、裸のままなのは困ります!」
そうは言ってもねぇ。十秒位してやっと強化スーツに包まれた。とんだ羞恥プレイである。
「まあ、一応問題点は分かった訳だし。千鶴ちゃん、感想はどう?」
「恥ずかしいです……」うん、それは見れば分かる。
何と言うか、変身シーンで服が消える演出と言うのは『魔法少女あるある』ではあるのだが……。人前で変身しないか、隠す方法を考えたい。
「お爺さん、服が消えるのは仕方ないとして全裸になるのはマズいわ。何か良い方法は無い?」
「そうじゃのう。一度全身を光らせて見えないようにするか、マントなんかで体に接触しない様に包むのはどうじゃろうか?」
まぁ、改良の余地はある、と。ともかく性能も確かめたい。
「千鶴ちゃん、ちょっとジャンプしてみて。筋力強化されている筈だから、ジャンプ力も上がると思うの」
「では、行きますね。はいっ!」
おお『仙道』の強化魔法程ではないが、かなり強化されるようだ。思わぬ拾い物である。
「……体が軽いですね。試しに魔法で強化を入れてみましょうか?」
「そうね。魔法同士が干渉するか確かめたいし」
いつもの強化魔法に時間操作まで使って、完全版でテストを行う。ジャンプ力と腕力に特化させたが、大体2倍程度のパワーアップになっているようだ。
「デザインやデメリットはともかく、この魔道具自体は良い感じで強化されていますね」
「うん、ある程度改良は必要だけど。ある程度バランスと対策が取れれば実用化出来そうね」
「やはり、変身時のあれは……何とかして下さい。あと、戻すのはどうすれば?」
「ああ、三十分程すればスーツは消える。後は魔道具を停止させるかすれば……」
何か、含む所がありそうな言い方ね。
「……すまん、元の服装には戻らんのじゃよ。だから、あまり人気が無いんじゃよ」
「ああ、そういう事ね。そこも含めて改良しましょう。使うたびにパニックになりそうだわ」
何故にそこの改良が出来ていないのか……。一番重要だと思うのだが。
ともあれ、それほど『オド』の使用量も多くはないし、三十分程度稼働するのなら良い方法だと思う。
「お姉様、とにかく体を隠せるものを持って来て下さい! 急いで! もうすぐ三十分経ちますから!」
「そうね。とりあえず私のマントを貸すわ。……全く、古代ローマ人は何だってこんな発明したのかしら?」
「……そりゃ、古代ローマ人は全裸に抵抗が無かったからな。古代オリンピックとかも裸で行っておった」
成程、一応理屈としては間違っていない。……しかし、この調子では他の技術も色々と問題がありそうね。
前途多難な問題ではあるが、それでも有用な技術である。
「やる事は山盛りねぇ。本当にこれで世界の滅亡が止めらるのかしら?」
こっちの改良は一旦お爺さん達に任せて、ロキさんの所で『破壊神』の件で話し合う必要も出て来た。自分が魔王になって『魔王軍』を編成する事も検討しなくてはならない。
私は、これ位の問題なら幾らでも解決出来るとは思ったが、他にも課題になっている大量の問題を考えると、頭が痛くなるのだった。
魔法少女あるあるです。
実際にやったらこうなりそう、と言うお話でした。
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