101.古代ローマの技術に期待を寄せて
予期せぬ出会いはあったものの、さしあたっての用事を済ませた私達はロンドンに向かっていた。
「しかしまあ、随分とメンバーが増えたわよね。かなりの大所帯じゃない」
「……お姉様、見境無く増やす本人が何を言っているんですか?」
「確かにその通りだな……俺自身、助かっている部分は否定しないが」
思い思いに好き勝手を言う。必要だと思ったから増やしたんじゃないの。『破壊神』相手だと、これでも心許ないのだ。
「お爺さん、古代ローマの技術についてもっと教えて欲しいんだけど……。特に戦闘力向上の方面で」
「ふうむ、そう言われてもなぁ。戦車とか空飛ぶ機械なんぞ、そう簡単には出来んのう」
……色々とある事にはあるのね。
「じゃあ、肉体能力を向上させる技術とかもあるの?」
「……あるにはあるが、あまり使われてはおらぬのぅ」
「えっ、あるんだ! ねえ、それを教えてよ。どんな感じなの?」
思わぬ収穫である。千鶴ちゃんみたいな強化とは行かなくても、少しでも底上げをしたいのだ。
「ゴーレム作成の前提技術なんじゃが……強化スーツと言うものがあってのぅ。ある程度の筋力を補助するスーツに着替えるのじゃ」
「へえ。具体的には?」そういうロマン成分は大好きだ。ある程度の妥協をしてでも導入したい。
「魔道具の一種になるが、着ている服を別のスーツに変身させる。元素固定装置じゃったかな?」
うんうん、良いじゃないの。変身という事は『魔法少女的な何か』も出来るかも知れない。
「実際に作れるの、それ。出来れば実用化したいのだけど」
「……本当に使うのかね? あまり、お勧めは出来んのだが」
「何かデメリットでもあるの? 多少なら我慢すればいいし……」
「まあ、そんなに深刻な事も無い。ゴーレムと同様に、設計図を用意して魔法で服装を変える事になる」
それなら、ロボットと合わせて研究・開発をしたいものだ。
「ロンドンに着いたら、そっちの研究も進めましょう! ロボットは使えなくても、それなら使える人も居るでしょうから」
「分かった、あまり期待はしないようにな……。古代ローマでもあまり使われてはおらんかったらしい」
何だか、歯切れが悪い。そんなに問題があるのだろうか?
ようやく「ストーンヘンジ」を抜けてロンドンに戻って来た。そこまで時間が経過した訳でも無いが、懐かしさはある。主に、ポンコツ女神関係で問題が増えてしまったせいだが。
「ここならある程度の機械もあるし、ロボット関係で話も出来る変人もいるわ! とりあえず工場に行きましょうか」
「……まあ、驚くだろうがな。結構、そう言うのは好きだと思うぜ」
ジェームスを筆頭に、男性陣はロボットに対して興味津々である。何処へ行っても、そういう大きくてパワーのある技術は好かれるのだろう。ホルス君がたいそう悔しがっていたしね。
「もしかしたら、改良して乗れるようになるかもしれませんしね!」ホルス君、まだ諦めていないらしい。
「マードック辺りは、喜んで改造しそうだな。フルトンは……分からん」
アイツは海専門っぽいしね。今頃潜水艦でも作っているのではなかろうか……。
「しかしまあ、賑やかな場所じゃのう。これが未来のロンドンか」お爺さん的には、300年程後の世界だし、その辺りが驚く所なのだろうか。
「そうね、この時代だと、一番栄えているんじゃないかしら」
「主にアキラがやらかしたんだがな……」
良いじゃないの、誰も困ってない訳だし。工場も増えて、蒸気船や蒸気機関車も当たり前になった。
途中から蒸気機関車に乗って、ロンドンに向かう。それほど時間短縮する訳でも無いが、未体験の人向けのアトラクション的なサービスという事で。
「どうも、アイツら延伸工事が終わっているらしいぞ。マンチェスター行きの列車がある」
「投資額の倍プッシュが効いているらしいわね。そこまで早いとは思わなかったわ」
工場でも蒸気機関車の製造で忙しそうだ。ともかく、マードック達の顔でも見に行こう。
「こんにちはー。みんな元気してた?」
「おお、社長。お久しぶりですね。また見かけない人がいますけど……」
「うん、ロボット製作をする事になってね。レオナルド・ダ・ヴィンチお爺さんが参加したわ」
「それはまた冗談がキツイ。そんな噓を言っても騙されませんよ!」
まぁ、信じないとは思ったけどさ。後、フェンリル君の事も伝えてやろう。
「『魔族』もいるわよ。言葉を話すだけの狼だけど」
「『魔王様』その言い方は酷いですよ。もう少し成長したら変身も出来ます」
「……本当だ。あの社長、何をしてきたんですか?」
「色々ね。とりあえず世界の滅亡を止めないといけないのよ」
うん、ちょっと説明が面倒なので端折った。良いでしょマードックなら。変人の扱いは慣れている筈だし。
「まあ、色々と気になる事はありますが……。その老人がレオナルド・ダ・ビンチで、ロボットを作っていると……。で、ロボットって何ですか?」
「人型の機械ね。『魔導石』で動かすのよ。試作機は出来ているから、今から見せるわね」
結構苦労したが、小型のタイプなら何とか形になった。……ドラム缶に手足が映えたような形だし、密閉すると周囲を確認出来ないので、本当に試作なのだが。
皆で工場の敷地に出て、試作機を起動する。材料となる鉄と魔法銀の合金、魔道具を置いてやる。魔道具を作動させると、3m位の人型機械が出来上がる。
「どう? これに乗り込んで動かすのよ!」
「成程……。で、何と戦うんですか?」
「『破壊神』ね。もっと大きくしないと、ちょっと抑え込めそうにないけど……」
「社長、そう言う事は持ち込む前にもっと説明をですね……」
だって、説明したって信じてくれないでしょ。こういうのは、実際に見せるのが一番よ。
「じゃあ、乗り込んで動かして見せるわね」胸の部分に出入り口がある。もう少し大きくするなら、どうやって乗り込むかも考える必要がありそうだ。
特に武装も付いていないし、歩いたり飛んだりする位なのだが。これでもかなり苦労したのだ。
前を見る為に胸のハッチは開けておく。視覚装置をどうやって作るかはこれからの課題だ。
「じゃあ、ちょっと離れていてね。少し動かしてみるから」
一歩、もう一歩とロボットを動かす。左右の魔道具のような操作パネルに動かし方をイメージする。バランスを取るために手も操作する必要もあるので、結構難しい。
「ほう、これはまた面白そうな機械ですね。詳しく教えて貰えますか?」
「マードック、魔道具関連は俺から説明するよ。機械部分は爺さんから聞きな。後はアキラが設計をしているからな。細かい事は後でな」
「とりあえず、今の所は人型の機械を動かすので精一杯ね。でも、人間の力よりも強いし、耐久力もあるわ。研究していけば、もっと色々と出来る筈よ!」
手足の部分なんかは、あまり耐久性を考慮していない。その辺はモーズリーさんが詳しいだろう。ともかく、ロンドンの皆にロボットの概念は伝えられたと思う。
「ふう、結構しんどいのよね。ちょっと油断するとバランスを崩すし。この位で良いかしら?」
「ええ。何となく、方向性は見えました。幾つか改善点も思いつきますし、試していきましょう!」
マードックさんも新しい玩具を与えられたように喜んでいる。こういうのは古今東西、男性の興味を引くらしい。
「最終的にはこの十倍位の大きさが無いと駄目なんだけどね。今の所は、この大きさでテストしたいわね」
「私も乗ってみていいかしら!」メルちゃんも実物を見ると興味があるらしい。
「良いわよ。気を付けてね。慣れると簡単だけど」
自転車に乗るみたいな感じで、二人で乗って操作方法を教える。大体、説明出来たのでで交代する。
「ヒャー! 凄いわ! レイよりも背が高くなった!」
「上手ね、メルちゃん。これなら何とかなりそう?」
「魔法を唱えられるかは、ちょっと慣れが必要そう!」
なんにしろ、感触は良さそうだ。皆で弄り倒して、実用化させていきたい。
私は、ロマン満載のロボット改造計画に期待を寄せるのだった。
実際問題、ロボットの作成難易度ってどれ位なんだろうか?
姿勢制御やら関節部分の強化やら、問題は山積みな気もしますが……。
ロマン極振りなので、試行錯誤させます。なんせ相手は『破壊神』ですし。