100.とにかくポンコツ女神が悪い!
暫く変な夢を見ていない、というのが油断となった。思い出したくも無い過去の思い出を忘れる前に最高神に接触する事になった。
……夢の中で少女と出会った。どこか、人でない印象を持つ無表情の美しい人形。何を考えているのかはさっぱり分からない。
そもそも、どういう理屈で『宝玉』と世界が結び付き、過去に巻き戻っているのかもわかっていない。そこら辺、詳しく聞く必要もあるし、こんな『運命』に巻き込んだ責任を問わねばなるまい。
「貴方、一体どういうつもりなの? 私を変な事に巻き込んで楽しいのかしら?」
「……お母様。それは違います。あくまでも危機的な状況から逃れるために行った事です。誰が好き好んで身内を酷い目に逢わせるでしょうか」
「何よ『お母様』って! 勝手に子持ちにしないでよね。……無いわよね。そういう事、最近はしてない筈だし……」
少し自信が無い。今、猛烈に混乱している自覚はある。『未来から過去への介入』と言う現象を体験しているからこそ、今後起こりえる未来からの影響も考えられる。
「……お母様はお母様です。人の手により作られし人造の神たる者として、その手助けを頂いた方をお母様と呼んでも、差し支えないでしょう」
美しい容姿とは裏腹に、冷酷な機械のような抑揚の無い声。確かに最高神と呼ばれるに足る、神々しい雰囲気はある。
「それはまぁ、構わないわ。ただね、今までどれだけ繰り返したかは知らないけど、少しは悪いとは思わないの!」
「六万五千二百七十八回です。……果てしない世界の輪廻の中、お母様は常に諦めずに後悔を糧として変わり続けた事を観測しています」
「……ろ、6万回!? そんなにもやり直しているの?」
「ええ。記憶を持ち越すと精神的に耐えられないと判断し、感情のみを『宝玉』に残して十年間を繰り返しています。結果として、ここまで到達出来るとは思いませんでした。あと少しです、頑張りましょう」
あぁ、嚙み合わない。神様と会話が噛み合わないわ、神だけに。……そんな下らない事を言っている場合でもないのだが。
「この前に見せた夢は、私の過去の記憶なのよね?」
「はい、イレギュラーな事でもあり、今後の対策の為に必要だと思いました」
「……あの鎖の魔道具や過去の私はどうなったの?」
「分かりません。……何処かを彷徨っている筈です。何時か出会う事になるでしょう」
どうにもこの神様は苦手だ……。何と言うか、感情が籠っていない。何処か他人事のように聞こえるのだ。
「最高神様にとっては、私の苦しみなんてどうでも良いって事ね! これだから偉い奴って嫌いなのよ」
「そうではありません! 期待しているのです。お母様ならば可能であると! 最高神と言っても何かの力を持つ訳でも無く、ただ管理を任されただけなのです」
ようやっと、人間らしい一言が聞けたような気がする。
「そもそも、何でこんなはた迷惑な仕組みを作る事になったのよ?」
「唯一の力として、人間の持つ魂と知識を用いる事が可能なのです。このような事態に精通している者から聞き取りを行い、問題無いと判断しました」
……どんな奴から話を聞いたのやら。まったく困った奴もいるものだ。とはいえ、詳しく聞けば打開策も見つかるだろうか……。
「……お母様は本来、病気で死ぬ『運命』だったのです。それを回避する為にも輪廻システムを実施したのですが」
「んで、どこの誰よ。こんな輪廻の話なんかした奴は!」
「大昔のインドの方です。何でもちょっと悟れば、直ぐに問題は解決するとか……」
「インド人? なんていう人なの?」
「シャカ族のシッダールタさんと仰いました。普通の方でしたけど?」
……私はそいつを知っている。むしろ知らない奴の方が少ない位だ。
「そいつはね『お釈迦様』と言って、神様扱いされている人よ! まったく、その人基準で考えるんじゃないわよ!!」ちょっと悟れば、何て無理に決まっている。大体、その境地に至った人が何人いるのやら。
「えぇ? 駄目なのですか? 他にも色々な方に聞いて参考にしたのですが……」
「アンタの基準の方が分からないわ……。絶対真似出来ない人のアドバイスなんて意味ないでしょうに」
「……あぁ、日本の方が良かったですか? 親鸞と言う方がお手軽な救済方法を……」
「はいストップ、このポンコツ女神! だから、参考にならないって言ってるでしょうが!」
疲れる。とっても疲れる……。何でこんなポンコツ女神の相手をしないといけないのか。そもそも、それで解決する問題でもないし。
「まずは、過去の私の記憶で見た『破壊神』が原因なのよね?」
「はい。あれは創造神が廃除出来なかった為に、何処とも接続しない世界に封じ込めていたのです。世界を移動する能力は無いので『門』を開けなければ、問題は無いのですが……」
「ざっと見る限り、破壊の限りを尽くしたら次の世界に……って感じだったわよ?」
あれに対抗出来る能力が思いつかない。唯一ホルス君の『ソウルスティール』なら魔力で出来た『破壊神』を何とか出来るかも知れない。後は……気が進まないが、あの鎖の魔道具か。
「お母様には、まだ認識していない能力があります。それを念のために教えておきますね。……ただ、危険な力ですし『オド』の絶対量が足りないので、それを増やす必要もありますけど」
そんな事は聞きたくない、と思っても最高神の力で無理矢理頭にねじ込まれた。
「これ以上、私を酷い目に逢わすつもりなの?」
「でも、これ位無いと『破壊神』には、対処が出来ないかと……」
「……えぇ、その通りね。だからこそ腹が立つんじゃないの!!」
全く、このポンコツ女神はこっちの事をお構いなしで色々と喋る。どうにも腹が立つのだ。
「その『ポンコツ女神』と言うのは、他の方からも言われましたが何か問題があるのでしょうか?」
「自覚が無いのが問題なのよ、まったく」
「……では、伝えたい事は終わりましたので失礼します。また、何処かで逢う事もあるでしょう……」
「こちらは御免よ。二度と会いたくないけど、どうせ『運命』とか言うんでしょう?」
……どいつもこいつも『運命』とか言って。こっちは良い迷惑よ!
「そうですね。『運命』の輪から外れた所でお会い出来る迄、お待ちしております」
「おい、アキラ。随分とうなされていたが、また変な夢か?」ジェームスに揺り起こされた。
「……えぇ。私の事を『お母様』と呼ぶ、ポンコツ女神の相手をしていたわ」
「相変わらず、変な奴に巡り合うなぁ、お前も……」
何処をどうしたら、あんな奴になるのかは知らない。親の顔が見てみたいが、自分の事らしい……。
「全く理不尽よね、私の人生って……。せめて、まともな相手との出会い位は欲しいのに」
「……そればっかりは、神様でも無理なんじゃね?」
ジェームスから聞いた最後の一言が駄目押しになった。
……私の不幸は、どんな事があっても変人しか来ない、という事実を改めて自覚するしかないのだった。
神様のオンパレードです。
一応、主人公との接点はちゃんと考えていて、ご都合主義にならない様に気を配っているつもり。
チート能力を授けたとしても、デメリットもあるという方針になるでしょう。
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