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99.あるいはあり得たかもしれない未来

 目下の大目標は掲げたと言っても、やる事はひたすらに地味である。


 私はと言えば、ロボットの設計図を作るべく頭を悩ませている。


「あぁ……駄目。もう無理だわ……」

「何だよ。さっきもそう言って、どっかで気分転換してたじゃねえか」


 ジェームスも魔道具工房との往復で忙しい。何でも、脅威に備えて矢の細工を変更中との事。


「矢じりの部分を改良して、着弾時に爆発するようにしてみた」

「ええのぅ……うん」


 お爺さんは喜んでいるようだ。見た目も派手だが……どこまで効果があるやら。どちらかと言うと使い捨ての矢が勿体ない。あぁ、何百万もの出費がぁ……。


「お嬢さんや。ここは繋がっていないが……」

「……レオナルドお爺ちゃんも手伝ってよぅ」


 慣れないデスクワークは苦手なのだ。紙の前に立つと頭が真っ白になるのだから仕方が無い。


 ……これがロボットを完成させるためにも、必要な事なのはわかっている。


「そうね。こことこのパーツは繋がって、そうするとこの装甲が擦り合わせて……」


 何とか、記憶を辿りながら少しづつ手を動かす。


「……何とか形にはなったかしらね?」

「そうじゃなぁ。ともかく動かしてみるかのぅ」


 リズさんの所からは、例の『魔導石』を貰ってきている。ジェームスの魔道具部分も合わせてテストしようか。



 問題はロボットだけではない。……どうも、神様の話をした翌日の晩から夢にうなされている。


 私、結城映の夢。そして、やけに具体的な夢なのだ。……私が体験した、ロンドンやリスボンで起こった出来事は同じ流れである。但し、私の知っている結末ではない……。


 恐らくではあるが、夢の中の自分は『冒険狂トラベラー』ではないらしい。


 インド洋を横断する事も無く、新たな世界を目指す訳でもない。ただ魔道具を作り続ける……。当然、出会う人も少なく、ジェームスと一緒に研究の日々である。


 ……何だか、引っ込み思案で自己犠牲精神の強い私。それが夢から覚めた私の感想だった。私と同じように世界を繰り返している事を教えられても、自分で抗う事を諦めてしまった様だ。


 だが、人助けの気持ちとやるべき事は分かっているようだ。次に繰り返す私の為に、強力な魔道具を作ると決心した。


 その気持ちは嬉しいのだが、自分を顧みないという一点で相容れない。……そして、ジェームスに好意を抱くが、一線を越える決断が出来ずにいる。


 そこら辺の所が、同じ自分なだけにもどかしく感じる……。



 ……聞く所によると、ジェームスも同じように別の自分の夢を見ているという。同じ過去の自分を追体験している感覚だそうだ。多分、同じ内容を同時に見ているのだろう。


 私が色々と無茶しないので、大変心が落ち着くらしい。まるで、私がやった事が否定されているようで気になる。恋愛面でも清い交際という奴なのだろう……。そりゃ、自分が拗らせていた自覚は有る。


 ともかく、私の持つ『オド』が全ての世界に繋がっており、無尽蔵に使えるという事実を知った過去の私が、それを最大限利用出来る魔道具を用意すると決意した。


 魔道具には一定以上の『オド』を流し込むと、壊れたり暴走する性質がある。だから、あまり無茶な使い方が出来ない。特注の魔道具なら多少の無理は効くが、それでも限界がある。


 成程、そんな魔道具なら『破壊神』にも効果があるかもしれない。……同じ自分ではあるが、随分と方向性は違うように感じる。


 過去の私は冒険しない代わりに、随分と慎重で丁寧に物事を進めていく。古代ローマの魔道具の知識を、何とか知る事に成功したのは驚いた。


 ジェームスとの息もぴったりで、周りからは良い加減に付き合えと言われているのは同じなのか……。



 もう、長い間夢を見続けている……。いや、これは夢ではなく過去の記憶を見ているのだろう……。失敗した過去の私の記憶。どういう理屈かは知らないが、何処かで精神が混線したような感覚だ。


 とにかく冒険をしない私は、根気強く魔道具の開発に力を注ぐ。古代ローマの知識も含め、あの呪いの魔道具と同じ技術にまで辿り着いたらしい。


 ……やはり、自己犠牲観が強すぎると思う。周りからも休むように勧められるが、拒否し続けている。


 これは、私にとって「あるいは起こりえた仮定」の世界だ。少しボタンを掛け違えただけで、これ程まで未来が変わるのかと思う。大きく異なる点として、この世界の私は人々との『縁』が少ない。


 ……孤独と責任感に蝕まれている自分を見るのが辛くなる。確かに、こんな過去であれば性格も変わるのだろう。それぐらい異なった世界。


「ジェームス。貴方が見た夢の中で、私はどう見えた?」思わずそんな事を聞いてしまう。

「ああ。今のお前と違って、繊細で危なっかしい印象だな。どうしてだか、見ている方が不安になって来る」

「……でしょうね。私は、こんな自分は嫌だと思っているわ。皆と出会っていなければ、こうなってしまうのね……」


 千鶴ちゃんとは何処か他人行儀だし、他の人達とも関わろうとしない……。見ていて物凄く寂しい気持ちになる。どこか自分の居場所が見つからないような感覚。


 ああ、私はこの人生をとても後悔したのだろう。……納得出来るのだ。根本的には同じ自分だから。


「悲しいね……。どれだけ世界を繰り返したかは知らないけど、やっぱり今の自分は恵まれているわ」

「ああ。誰かは知らないが、この世界を伝えたい奴が居るんだろう……。偶然とは思えない」

「……今の私が、皆に受け入れられてどれだけ影響を受けていたか、良く分かるわ」


 恐らく、最高神とか言う奴の仕業なのだろう。随分と陰湿に感じる。


 だが、このまま、世界が終わるまでを見る事が出来たら? 『破壊神』の正体を知る良い機会だ。


「ジェームス。恐らくだけど、このままこの夢は世界が滅ぶまで続くんじゃないの?」

「……そうだな、対策が取れそうだな」


 ここは我慢して、この物語を見る事にする。……過去の自分には悪いが、手段を選んでいる状況ではないのだ。



 毎日はっきりと認識出来る明晰夢を見る、と言うのは思ったより辛いものがある……。まるで自分の体験が倍になったようだ。


「ちょっと辛いわね。同じ自分の事だから、休んでいる気がしないわ」

「……ああ、俺も寝不足だな。ちゃんと寝ているのに疲れるんだよな」


 げっそりとしながら夢を見る。幸い、印象に残った部分だけなのか走馬灯を見ているように時間が流れる。


 もしもこっちの日数と連動していたら、精神的に耐えられなかったわね。……そこだけは感謝しておこう。


 かなりの日数が経った。どうやら、目的の魔道具は完成したらしい。……だが、ジェームスは使えないと断言する。


「……駄目だ! 無制限に魔法が発動出来るだけの耐久性は満たした。だが、コントロールが効かないんだ!」

「そうね。無尽蔵の『オド』を制御出来る技術なんてないでしょうね……」

「とにかく、この魔道具には触るなよ! 一度発動したら世界が滅ぶまで増殖するんだ、この鎖は!」


 倉庫の奥に仕舞われた魔道具を、残念そうに見つめる私。


 周りの人々を散々犠牲にして、この結末か……。納得は出来ない。


 やがて、こちらが確認したい事象である、世界の滅亡が始まった。


 ……どんどんと増えていく『破壊神』は魔法が無効化されるし、物理的な攻撃をすると分裂する。物凄い勢いで周囲の『マナ』を吸い取っていく様子は恐ろしい。どうやら『破壊神』の種類がいくつもあるようだ。


 気が付いた事と言えば、このレベルで魔力を発動すると周囲の『マナ』を枯渇するまで取り合う事になるのだ。私の知っている魔法での争いとは随分と規模が違う。


 じわりじわりと、あちこちの世界が『破壊神』に荒らされ『門』も使えなくなっていく……。その様を見るのは辛い。


 ……私が故郷と思っている街や親しい人達が犠牲となっていく。


 過去の私は悩み、苦しんでいる。あの魔道具を使えないか、そう思い悩んでいるのだろう……。


 その気持ちは痛いほどわかる。ましてや、人生の全てを費やして作った魔道具なのだ。



 そして、その時は訪れた。……ロンドンの街が燃える瞬間。もう逃げるところなんて何処にも無い。


 ……覚悟を決めて、私があの魔道具を手に取った。ジェームスが止めるが、もう遅かった。


「さよなら、ジェームス。ごめんね、私何も出来なくて……」そんな言葉を呟いて、鎖の魔道具を握りしめる。


 唯一、無尽蔵の『オド』を制御出来る者。私自身が鎖の魔道具に一体化する……。


 何をどうやったかは、私には分からなかった……。だが、その自己犠牲の気持ちから、そう望んだのだろう。ぐったりと力を失った私の体と、無尽蔵の魔力を発動させて、嵐の様に乱舞する鎖の魔道具。


 ジェームスは、悲しみに暮れて私の抜け殻を抱きしめた……。


 物言わぬ魔道具は『破壊神』を縛り『マナ』を吸い取っていく。あっという間に『破壊神』は姿を消していった……。


 確かに過去の私はその目的を果たした……。だが、あまりにも酷い結末だ。


 そこから、私がその続きの夢を見る事は無かった。過去の私も、鎖の魔道具も行方は知れなかった。


「くそっ、何も出来なかった! 俺は、過去の俺は無力だった!」


 ジェームスには少しだけ続きがあった様だ……。だが、それは私が聞くべきではないかもしれない。恐らく忘れてしまいたいような、そんな記憶なのだろう。


 私にとっても苦しく悲しい記憶だった……。もしかしたら、私が少し決断を変えていれば訪れたかもしれない未来なのだ。


 確かに収穫はあったが、もう思い出したくもない記憶。……もしも叶うならば、過去の自分が報われるように私が何とかしないといけない。そう思うのだった。

 世界が繰り返しているのなら、沢山の失敗した自分が居る訳です。


 そしてその数だけ悲しい過去がある、と言うお話。


 なるほど、面白いと気になった方は、評価☆やブックマークを付けて頂けないでしょうか。また、感想などもお待ちしています。

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