98.神々の黄昏と人々の力
私は、三人に挨拶をして、急いで皆の所に戻る事にした。ひとつ、世界が滅亡しそうな理由に思い当たる事があったからだ。
直接ホルス君達に確認する必要がある。
「おう、アキラ。随分と早かったな。……なんだその顔、随分と叱られたんだろう」
「ジェームス、皆を集めて! 話があるの」
「……お、おう」ジェームスが私の反応に違和感を覚えたのだろう。慌てて皆を呼びに行く。
……『運命の三女神』である本部のメンバーから聞いて、確信めいた仮定である。出来れば考えすぎであって欲しいのだが、望み薄だろう。
神様からのお墨付きだ。……どうあっても、その問題は発生すると思う。
「皆、集まったわね。お爺さんまで来るとは思わなかったけど」
「何、気にするな。どうせ厄介事じゃろう? ……お嬢の事だ。また、何か巻き込まれると思っておったわい」
「……変な信頼感ね。まあ、当たってるけどね」
私はホルス君達に視線を移す。
「そうね、ホルス君に聞くのが良いと思うけど……『破壊神』と戦ってどう思った?」
「……実際、その辺の感覚はレイに聞くのが良いんですけど。正直、良く勝てたなとは思います」
「……もし『破壊神がいる世界』に繋がったとして、戦った相手が『破壊神』と確証出来る?」
「えっ、それは……その。……いや、待って下さい!」
ホルス君は頭が良い。私が思いついた仮定に気付いたようだ。
「結論から言うわ。……ホルス君達が戦ったのは、恐らく『破壊神達』の一体。最初に出てきたとしたら、偵察役じゃないかしら……。『破壊神』本体は別にいると思う」
「……そんな事、そんな事あってたまるか! 俺達の戦いの意味は……!」
「ホルス君、自分を責める必要は無いの。私だって信じたくない。……でもね、確かな情報筋で数年で世界が滅びるらしいのよ。『破壊神』が世界に溢れてね」
……最高神でもどうにもならないとすれば、そういう事だろう。レイ君達の強さは十分に分かっている。
そうなれば、もっと厄介な能力を持った本体が居るのだろう……。それは認めざるを得ない。
「確かに『破壊神』は魔法も使わなかったし、物理攻撃が効いた……。ほんの少し思っていました。戦えると……」
「……アキラ。それは誰に聞いた?」
「自称、神様だそうよ。まったく、神様のバーゲンセールみたいだわ」
私はそう言って笑った。……あの三人が神様とは。流石のジェームスも信じないだろうなぁ。
「ともかく、ホルス君達が戦った『破壊神』の能力は高くなくて、もっと沢山の『破壊神』がいるかも知れないって事ね。考えるだけで眩暈がしそうね」
「……冗談ではなさそうだな」
「ええ、そうよ。話によると神様が匙を投げる位には、問題があるらしいわ」
ホルス君達が悩んでいる。そりゃそうだ。世界を守ったと思ったら、それがただの雑魚だという話なのだ。
言いたくは無かったけど、仕方がない。そのままやられる訳にも行かないのだ。
「……ここに居る皆に聞くわ。私はその未来を認めない。世界が終わるなんて意地でも阻止するわ」
皆がこちらを見ている。……私が何を言うか確信が持てないのだろう。
「私と一緒にその困難に立ち向かう、と言う人は居る? 無理だと言って離脱しても構わないわ」
「アキラ。俺がそれをすると思っているのか? お前と一緒に歩くと約束したからな……何があっても付き合うぜ」ジェームスならそう言うと思ったわ。
此処に居る人たちは、それぞれ思いもあれば立場もある……。正直、こんな馬鹿げた事に参加はしないでしょうね。……そう思っていた。
「ふぉっふぉっふぉ、お嬢。儂らがどんな思いでここにいると思っておる。……我が一族は一人たりとも欠ける事無く、お嬢に付いて行くぞ。なぁに『破壊神』とやらがどれだけ強くとも、命を懸けて立ち向かうわい」
こんな所にもお馬鹿さんがいた……。まったく、お爺さんには頭が上がらないわねぇ。
「お姉様、私も付いて行きます! お姉様の傍に居るのが私の役割だもの!」
「成程。では、未来の王妃の為に我らが国も参加しよう。国が亡びるのも世界が滅びるのも同じ事だ」
千鶴ちゃんにムラトさんまで……。無茶しちゃって、まぁ。うん、頼もしいわ。お婆さんの言った『縁』と言うのはこういう事なのか……。
「俺達だって、アイツらには因縁があるんだ。もちろん参加するさ」
ホルス君にレイ君。メルちゃんも手を上げる。……まあ、そうよね。そんな気はしていた。
「命の保証はしないわ! もしかしたら、とんでもない事に手を付ける事だってある! 後悔はしない?」
『おう!』と、皆が声を上げた。まったく仕方が無いなぁ……。
しかし、全員参加になったかぁ……。不安で胸が一杯だったが、積み重ねた『縁』とやらに感謝しておくとしよう。
「じゃあ、私達の目的はこの世界を救う事よ! 一つや二つじゃないわ! 全部よ! 全部救って見せるからね!」
まだ、やり方も分からない。対策なんて想像も出来ない。でも、今までだってそうだったじゃないの。
私は『冒険狂』だ。道なき道を進み、未だやり遂げた事の無い問題に挑む類の人間なのだ。恐らく沢山の協力者が必要だ。それこそ、世界中を巻き込んで『私達の軍団』と言える程の規模になるだろう……。
「やってやろうじゃないの! 私達にだって意地があるわ! 神様でも頭を抱える問題でも解いてみせるわよ!」
『おう!』随分と規模が大きくなったが、これも冒険だ。
……無知なるがゆえに、未知なるものに抗う事の出来る、人間だけがたどり着ける正解に手を伸ばそうではないか!
私達は団結した。きっと他の世界にも、協力者はいる筈だ。
世界の滅亡なんて、くそったれな『運命』なんか知った事か! どんな事があっても諦めないわよ……。
皆との『縁』があれば、きっと出来る。神様なんかよりも強い力になる筈だ。私はそう思い、決意を固めるのだった。