95.魔王様とは呼ばないで
「それで『魔族』との接触なんだけど……繫がりあるの?」私はホルス君に質問する。
「ええ。結構物々交換はやっていて、村との交流はあるんですよ」
「師匠が窓口になってるの!」
ああ、それは交渉が難しそうだ……。あの人基準でどう喋れば良いのやら。私は頭を抱えた。
「……た、多分ですけどリーダー役は生まれて年数が経っているので、話は出来ると思います」
「『魔族』って、どうやって生まれるの?」
「何でも、時空の狭間みたいな魔力の歪みから出てくるらしくて……同じ場所から生まれたグループを一族として、最年長がリーダーをしているらしいです」
つまり、親は居ないが兄弟みたいな奴ばかり、という事かぁ。……常識の概念が壊れる。
「やっぱり、上手くコミュニケーションできる自信が無いわね……」
「ぶっつけ本番ですね。良い方法は思いつきません」
ホルス君の知識で思いつかないのだから、それしか無かろう。
「これでも、商人として言葉も通じない場所で物々交換はしてきたのよ。多分……何とか出来る筈よ」
「頑張って下さい……」大変に心許ない。
「凶暴な奴は居ないから、大丈夫!」
「ありがとね、メルちゃん。一応慰め程度にはなるわ」
前途多難である。レイ君には、師匠に例の金属を作って貰うようお願いした。……これ以上、変な交渉は物理的に無理なのだ。
そんな絶望的な状況なのだが、三人で近くの『魔族』のねぐらにやって来た。
「こんにちは、リーダーは居ますか? 聞きたい事があるんです!」ホルス君が声を掛ける。
「……村の者以外もいるが、何か用か?」
奥から一人の『魔族』がやって来た。種族は……どうも犬っぽい顔つきだし、コボルトだろうか。知らないけど。一応『通話の魔道具』で翻訳は出来ているので、何とかなるかも……。
「『破壊神』について教えて欲しい。あれがまた復活しない様調べたい」
「……入れ」どうやら、話位は聞いてくれるらしい。
と言っても、吹きさらしの場所に石が置いてあるだけ。ともかく座って話をする。
「『破壊神』を呼び出した時の魔法陣は知っていますか?」私から話し始める。黙っていても警戒されるだろうし、こうなれば、とにかく聞くだけ聞いてみよう。
「あれは、他所の部族がやった事だ。我々は関係ない」
「……その方法を知っている部族は残っていますか?」
長老らしき人物? が他の仲間と相談している……。こちらには聞こえないが、私の事を疑っているのだろうか?
「お前、何者か? 随分と大きな魔力を持っている。もしや『破壊神』を呼び出す気では?」
「えっ、私? 確かに『オド』は大きいって言われたけども、そんな事したくないわ。……出来れば二度と呼び出さない様にしたいだけよ」
「……私では判断出来ぬ。付いて来い」
どうも、部族のリーダーよりも偉い種族がいるらしい。仕方が無いので三人で付いて行く。
「ホルス君、大丈夫かな? 私、怪しまれてない?」
「『魔族』は噓を付けません。上手く付き合う方法は、こちらも噓は付かない事です」
そういう物なのか。「信用」の問題なのだろう。確かに騙したり嘘を付いて、関係が悪化するのは避けたい。
何処まで行くのか少し不安になる。さっきの話では騙したり嘘は付かないとの事だし、大人しく従っておこう。
「……長よ! 我らが長よ! 人間からの申し入れがありました。判断をお願いします」
声の先を見れば、随分と大きな狼がいた。真っ白な毛色の狼だ。種族は違うが、この辺り一帯を取り仕切っているという事か。
「人間よ。質問を聞こう」
「私達は『破壊神』が復活する可能性があると思っています。呼び出した方法について教えて頂きたい」
「……それを聞いて拒否するとは思わなかったのか?」
「そちらも『破壊神』の復活は避けたいと思っている筈です。可能なら協力して欲しい」
「……」
狼がこちらに近づき、匂いを嗅ぐ。どういう意味があるのかは分からない。
暫くして、狼が人の姿に変わった。女性……で良いんだよね? 突然の事で驚いてしまう。毛で覆われているとはいえ、全裸なのだ。目のやり場に困ってしまう。……人間だと思ってみれば、美人の類なのだろう。
「人間よ。お前の名前は『結城映』で間違いないか?」
「えっ、はい。そうですが。どうやってそれを?」この世界に来てから一度も名乗っていないのに……。
「私の能力は人の思考を読み取る事。アキラよ、お前は確かに嘘を言っていない。お前の話を信じよう」
確か、そんな妖怪がいた気がする。「サトリ」とか言うんだっけ?
「そうだ、私はサトリの一族である。この能力を持つため『預言者』としてこの地を治めている」
あっ、そこまで読み取られるんだ……。成程、これは嘘など付けない。
「『破壊神』は撃退出来ただけだと聞いています。もし、もう一度同じ事にならない様に、その方法を知りたいんです。私が持っている『宝玉』の能力と同じと聞いたんですが……」
「……成程。自由に『門』を開ける能力か。それは危険だ……。だが『破壊神』の対策は取っている」
「対策ですか……それで、どうなっていますか?」
サトリの人は黙っている。色々と悩んでいるようだ。私の力で『破壊神』を呼び出す可能性だってある。
そうだ。心が読めるのなら、今まで私がやって来た事を全て伝えれば良い。
意識して、こちらの世界に飛ばされてからの事を考える。ロンドンでの事。本部での話。遊牧民の村の出来事……。決して争いを好んでいない事は分かって貰える筈。
「アキラよ。お前の思考は全て読み取った……。確かに『人を助けたい』との思いは確認した。その……随分と混ざってはいるが……」
……ああ、色々と暴走した時の事も考えたしね。多分、価値観の違いである。
恋愛沙汰やら『魔改造』やロマン成分などと言う概念を理解してもらうのは、難しいのだろう。
「今、あの事件の追跡を行っている。決して放置している訳ではない……。そうだな、原因になった書物や魔法陣が見つかったら、村に使いをやろう。それで良いか?」
「はい、構いません。もしも危険が迫ったら、助けに行きます!」
「……嘘偽りはないようだな。本当におかしな人間だ。普通はもっと欲望が表に出るものだが……」
欲望と言ってもお金儲けや恋愛程度だ。可能な限り犠牲を無くしたいというのは『魔族』相手でも同じ事。話すまでも無く、読み取って貰っているのだろう。
「商売人としては、やり難いですけどね……。協力したいとは思います。世界を破壊するなんて御免だわ」
サトリの人が笑った。どうやら、全て筒抜けのようだ。
「面白いな、お前は。今まで会った人間とは違うようだ。……しかし、その魔力は何なのだ? 私が知る限り、それは『魔王』と呼ばれるものに近い」
「『オド』の量の話ですか? その辺はこちらに来るまでは、普通の女子高生だったので知りませんよ?」
「……今、我々には指導者がいない。お前が望む望まないに関わらず、ここに居れば『魔王』として祭り上げられるだろう」
『魔族』は嘘が付けない……。つまり、本当にそうなるって事か。
私が『魔王』ですって? 私はただの人間なのに……。どうしてそうなるんだろう?
「生まれや種族も関係ない。我ら『魔族』にとっては、強い魔力を持つ者が指導者となる。我々には食事は必要ないが、強い魔力が必要なのだ。だから『魔王』を求めるのだ。それが、例え人間であろうとな……」
「アキラさん『魔王様』なんですか!?」メルちゃんも真に受けないの。
……全く、これ以上おかしな事に巻き込まれるのは面倒だ。
「貴方が読み取っている通り、私は『魔王』なんかになるつもりは無いわ。そういう話は他所でやって貰える?」
「私の名はロキ。覚えておくのだな『魔王に近き者』よ」
「ロキさん、そんな二つ名は要らないからね。……とにかく『破壊神』に関しては調べて貰えるのね?」
「うむ、約束しよう」
これ以上面倒な話になる前に退散しよう、そうしよう。
「『預言者』として語れば、アキラとは遠からず会う事になろう。そういう『運命』なのだ」
ああ、お婆さんと同じような事を……。
私は『魔王様』なんて柄じゃない。健全に生きていきたいのだ。そう言うのは、中二病の人達相手にやって欲しい。そんな事を考えたら、ロキさんが笑いだした。
「……そう言うな。これでもまともな人間が『魔王様』になりそうだ、と喜んでいるのだよ」
どうにも厄介事やら変人やらに巻き込まれる人生らしい。そんな事にならないように祈るのだが……。
私は、近い将来に『魔族』での変人枠と思わしき、ロキさんが付いて来そうだという勘が働いた事実に愕然とするのであった。
『魔力が高いので主人公が魔王になって魔王軍を編成する』と言うアイデアは当初からありました。
話の持って行き方がややこしくなるので、ちょっと悩んでいます。
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