94.悩み事は尽きないもので
私達は、ダルイムの街に到着した。それぞれやっておく事を再確認し、一旦別行動になる。
「ピョートルさん、短い間だったけど一緒に居て楽しかったわよ。道中気を付けてね」
「ああ、いい勉強になったよ。自分の国が滅びない様、気を付けるつもりだ」
やはり古代ローマの滅亡は、相当ショックだったらしい。驕れるものは久しからずという奴だ。
皇帝って大変だなぁ、と思う。国民を抱えて苦悩するのは、何処も同じようだ。
「お姉様、ちょっとムラトさんと一緒にサンクトペテルブルクまで送っていこうと思います」
「そうね、皇帝二人じゃ危ないしね。山賊には気を付けてね」
「はいっ。じゃあ、戻ってくるまで待ってて下さい」
そのまま、三人と別れる。何と言うか、賑やかだったわね。
「俺と爺さんは魔道具工房で留守番だ。ちょっとお互いの魔道具知識の共有と、魔道具製造マニュアルに手を付けようと思う」
「その辺の問題が解決するのは大きいわね。私は「兵馬俑」まで行って三人組を送って来るわ」
ついでだしあの世界の調査もしてみる事にしよう。『魔族』と話が出来ると良いんだけどね。
「それじゃあ、各自で一ヵ月後を目途にして集まりましょうね。ジェームス、千鶴ちゃん気を付けてね」
「そっちもな。間違っても自分だけで解決しようとするなよ」
流石に何かあれば、逃げるのが最優先だ。師匠さんに会って話を……出来るかなあ。
ともかく、そうと決まればさっさと目的地に向かおう。「西安」なら往復二週間って所か。
道すがら『破壊神』の事を聞いてみる。想像なんて出来る訳も無いが、危険な事は間違いないだろう。
「ねえ、ホルス君。『破壊神』について教えてくれる? どうやって呼び出したとか、どんな能力があるかとか……」
「俺達も復活した時に出会ったので、詳しく呼び出した方法は分かりません。ただ、何らかの書物を読んで魔法陣を使ったらしいです」
「魔法陣ねぇ……。どんな魔法なんだろう?」
「……今思うと、あれは『門』だったと思うんです。世界の全てを破壊し尽くした『破壊神』のいる世界に『門』を開いたんじゃないですかね?」
『門』を開ける魔法陣がある、と。それが特定の世界のみなのか、どの『門』でも可能なのかは分からないが、重要情報である。
「その書物は『魔族』が持っているのかしら?」
「そうだと思います。使われる『オド』がどの位か知りませんが、生贄を使って賄ったようですね……」
「……つまり、その魔法陣があれば『破壊神』を呼び出す事は可能って事になるわね」
ああ、やはり向こうから問題がやって来そうな雰囲気である。
「ただ『魔族』自体も『破壊神』は恐れているようで……頭のおかしい教団が復活させただけなので、他にそんな事をする『魔族』がいるとは思えません」
「意思の疎通が出来る『魔族』っているの?」
「ええ。簡単な会話や交渉は出来ますよ。ただ、アイツら食事と言う概念がなくて……」
生物としての機能が無いとなると、かなり面倒な交渉になりそうだ……。
「そうね。じゃあ、ホルス君達と一緒に『魔族』に会ってみましょう。何か有力な情報を聞きたいわ」
「……俺は気が進みませんが、やってみましょうか。万が一復活されたらとんでもない事になります」
「私はその魔法陣の方が気になるわ。『門』を開ける方法が『宝玉』以外にあるなんて……」
使い道によっては、私以外でも『門』を開けられるかもしれない。是非詳しく知りたいものだ。
「あと、師匠さんにロボットの件でお願いがあるのよ。レイ君が持っている魔法剣と同じ材料が欲しいのだけど……」
「多分、作ってくれるとは思いますよ。あの金属なら魔力を流したり出来ますから、対魔法の特性が付けられそうですね」
「そうそう。ロボットの表面に付ければ、魔法対策になるかなって……」
気の早い話ではあるが、特殊な金属があるのなら試してみたいのだ。他の使い道も有るかもしれないし。決して『魔改造』のネタになりそうだとは思っていない。
そんな情報交換をしながら旅を続ける。メルちゃんは難しい話が苦手らしく、黙って聞いている。ごめんね、ホルス君を独り占めして。後でゆっくりと二人きりにしてあげるから……。
三人と一緒に野宿する。そうは言ってもそれなりの準備はあるし、中華鍋で料理を作るのは私の役目だ。
「メルちゃん、ちょっとホルス君と薪を取りに行ってくれる?」
「はいっ、行ってきます!!」ああ、喜んでくれているわね。
個人的に『乙女心』の把握は難しくない。……一般人と同じかどうかは考慮しないが。
多分、意識しすぎてメルちゃんが距離を取っている事。ホルス君は気が付いていて無視を決め込んでいる事が確定的である。何故なら、その辺のやり取りはジェームスとの一件で経験済なのだ……。
どうせ、今の関係を……などと言う陳腐な理由であろう。詳しくは知らないが、三人組の関係は難しい。特にレイ君。何を考えているか分からない。
「レイ君、ホルス君とメルちゃんって仲が良いわよね」
「うん、友達!」
「……恋人じゃないのかしら?」
「ホルス、悩んでる!」おお、レイ君凄い。ちゃんと会話出来ているわ。
グレッグさんとジェームスとの話し合いみたいなものだろう。レイ君に避けられている事を相談したとか。ありそうな話である。有効な答えが返ってこない事を除けばだが。
「それで、ホルス君には何を言ったの?」
「『メル困ってる。ホルス、自分で行動しろ』と言った!」
凄い、ちゃんとアドバイスになっているなんて! 凄いよレイ君!!
「レイ君は仲間の事、ちゃんと見ているのね」
「三人、子供の頃から一緒! 顔を見れば、何考えてるか解かる!」
レイ君はいかつい体に似合わず、にっこりと笑う。何か、詮索しているこちらの良心が咎める程に純真である。
「二人がちゃんと恋人になれると良いんだけどね……」
「ホルス、臆病! 嘘付いてる」
「……メルちゃんの気持ちに気付いているって事ね?」
「うん!」
ああ、レイ君の反応が癒しである。見た目を除けば純朴な青年なのだ。何か、自分が汚れてしまったとさえ感じるのは、こちらの恋愛経験値が多すぎるからだろう。
「私も応援しているから、協力してね」
「おう、任せろ!」
……他人の後押し程、当てにならないものも無いとは知っているのだが。でも、切っ掛け位なら何とか。
間違っても、裸で部屋に突撃させてはならない……。私とて、あれは不毛な行動だったと反省しているのだ。穏便な方法なんて思いつかないけどさ。
「人の恋路を、何て言うけど……。実際傍から見てるとねぇ」
「困る」
夜空を眺めながら、二人で彼らの幸せを祈るしかない。まったく困ったものだ。
「アキラさん、取ってきましたよ。これ位で良いですか?」
「そうね、余ったら次の野宿用に持っていけば良いし」
二人の様子は……変わった所は無い。メルちゃんが思いつめた表情をしている事以外は。
悪い傾向である。経験者特有の感想になるが、あれはマズい。いつ暴発するか分からない感じだ。
「ホルス君、メルちゃん。ロボットのお話しようか?」とりあえず別の話を振ってみる。
「そうね、私はどんなものか知らないし、ホルスは興味ありそうだしね!」
「ああ。『ゴーレム』なら知っているけど、アキラさんの言うロボットは知らないからな」
うまい具合に乗ってくれた。ホルス君がメルちゃんにアドバイス、と言う感じに持っていきたい。
「そうね。操縦方法なのだけど……結構種類があってね。基本的には、レバーとかペダルみたいなもので操作するのだけど……体に連動、なんてのもあってねぇ……魔法とか魔道具で出来るのかしら?」
「そうですね。『魔導石』に複数の魔術回路を付けて、切り替える形になるのかな?」
「……操作する、って言うのが漠然としてるわ。いっそ、ただの鎧代わりにしたい位よ」メルちゃんが呟く。
確かに、メルちゃんの感想ももっともである。こればっかりは見本も無いし、手探りするしかない。
その手の事は蒸気船で経験済ではあるが、ロボットはねぇ?
私は、苦手な恋愛とロボット関係の課題について、そのハードルの高さにウンザリとしてしまい溜息を吐くのだった。
プロット見直しにつき、淡々とした準備回になってしまいました。
『魔族』は元々終盤に入れようとしていたため、試行錯誤しています。
戦争ものとして、一気に雪崩れ込むつもりです。