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93.こういう時こそ嫌な予感が

「それじゃあ、一通りの荷造りも終わったし行きましょうか?」

「いや、その前に道具屋の親子にだけ挨拶していこう。突然いなくなると心配するからな」


 確かに、旅に出ると言っておけば不要な心配もさせなくて済む。お爺さんは変人だが常識人だ。


「後は、あの親子にもそれとなくここが危険な事は伝えてやらねばな」

「そうね。可能ならそのフランス王国や神聖ローマ帝国を叩き潰してやりたい所だけどね」

「アキラ、最近その辺りの一線を越えるのに躊躇い無くなってないか?」


 そりゃ、人が死ぬのは避けたいし歴史的に撃退して影響が出るとは思えない。どちらかと言うと、レオナルド・ダ・ヴィンチがいなくなる影響の方が気になるのだ。


「……今更でしょ。大体、オスマン帝国でやった事を考えたら、誤差の範囲よ」

「全く……横浜で吹っ切れてから暴走が止まらなくなったな。出来るなら組織の方針には逆らうなよ……」


 どうにも最近分からなくなってきた。……「史実を守る事」と「人を助ける事」。天秤に掛けて優先するなら私は人を助けたい。その為なら、多少の不利益や問題を起こしても自分の責任として償うつもりだ。


 こちらの世界に転移させられた頃は、私は弱者だったのだ……。今、安定した生活と少しばかりの仲間がいる。圧倒的に助けられる人が多くなっているのだ。


「その辺は、私の性分よ。助けられる人を見捨てるなんて、私に出来ると思う?」

「……分かっているから言っているんだ。いつか、手痛いしっぺ返しを食らう前に自重してくれ」


 ジェームスの言い分も分かる。こればかりは永遠に平行線の議論になるだろう。


「お姉様、どんな決断をしたとしても私は守ります。……それが私の存在する意味なんですよ」

「千鶴ちゃん、ゴメンね。私が変な事に巻き込んでしまって……。もし私が間違った時は止めてくれる?」

「はいっ、もちろんです。皆お姉様が好きなんですよ。そんな事させません!」


 ……そうか、それなら安心だ。きっと、千鶴ちゃんはどんな事があってもそれを守ってくれるだろう。仲間と言うのは良いものだ。今まで、テキトーにメンバー集めをしていたがそれも含めて『縁』なのだろう。



「お爺さん、私達はあちこちの世界を飛び回って人が悲しまない様に頑張っているわ。時々面倒事に巻き込まれるけど、そう言うものだと思ってね」

「やはり、お嬢さんは面白いな。構わん、儂の力で良かったら幾らでも手を貸してやるわい!」

「私も皆に助けられた身だ。どんな事があっても助けると誓う」ムラトさんの言葉が頼もしい。


 ……何となくだが、私には確信めいた勘が働いている。近い将来、自分一人では対処出来ない事件が起こると確信している。それも一つではない。大量の問題や厄介事が自分に降りかかると思っている。


 古代ローマの件は空振りだったが、それでもその予感は消えない。『運命』という奴は、何処かで帳尻合わせをすると思っている。これだけのメンバーが揃ったのだ。何かあると思って間違いない。


「皆には、そのうち迷惑を掛けそうな気がするの。こういう時の私の勘は良く当たるわ」

「……それは否定しない。俺も何となく予感がするんだ。こういう順調な時ほど危ない」


 皆が頷く。どうも、その空気感は全員共有しているようだ。特に気になるのが、ホルス君達の世界だ。


「ホルス君、気になった事があるのよ。以前『破壊神』の話をしたよね?」

「ええ。俺達で撃退した件ですよね」

「……復活しない保証、有る?」


 三人組が驚いている。無理も無い……。そうそう簡単に復活する訳が無いと思っていたのだろう。


「個人的にあそこの世界は危険だわ。……これは勘よ。但し、過去に山ほど問題を抱えた経験のある私の勘ね」

「……暫くあっちには帰っていません。『魔族』の動きが一枚岩ではないですし、そう言われると気になります」


 出来れば、その『破壊神』を呼び出すプロセスやその能力とかも知りたい……。一度成功したのだ。もう一度する事は可能だろうと思っている。


「後はオスマン帝国ね。ロシアとの戦い、嫌な予感がするのよね……」

「確かにまだ国も軍隊も立て直している最中だが……もう少し余裕があるのでは?」

「……以前にね、フランスが史実を前倒しして、ナポレオンが皇帝になった事があるのよ。あくまでも可能性だけど、史実通りには進まない事って結構あるのよ」


 千鶴ちゃんとムラトさんも驚いている。そりゃ、後四~五年位は時間があると思い込んでいたのだろう。何か手を考える必要があるかもしれない。



「ともかく、こういう事は経験があるのよ。問題が発生する時は、立て続けに起こるの。こうやって、メンバーが増える度に私の勘が囁くのよ。……危険が近いってね」


 ジェームスが溜息を吐く。こいつだけは経験者だ。遊牧民の村もフランスの問題もほぼ同時だった。リスボンの件も同様だ。大丈夫、と思っていた所にこそ問題が起こる。


「……ああ、アキラの勘はヤバい。そういう事なら戦力増強や対策は必要だな」

「気のせいであって欲しいけどね……。千鶴ちゃんがメンバーに入った時みたいに、立て続けに何か起きそうなのよねぇ」

「ああ、ロンドンとリスボンですね。そういえば、私が入ってから海や船の問題が立て続けに起きましたね」

「そこにオスマンも追加しておいて……。正直、ムラトさんの件は成り行きだけどね」


 思い返してみると、メンバーが揃うとそれに伴って問題が発生する気がするのだ。それこそ『運命』とでも言うように……。随分と増えたメンバーを見てそう思う。


「何があっても良い様に、本部で対策は考えて貰うわ。色々と報告も必要だしね……」


 ちらりと、レオナルドお爺さんを見る。本部のメンバーの反応が怖い所だ。実際問題、この件についてはお婆さんの占い頼りである。


「メンバーも増えたし、これからやる事はきちんと報告しないとね。また怒られちゃうから」

「もう、十分怒られる可能性はあるけどな……」ジェームスの皮肉は否定しない。


 自分の責任とは言え、勢い任せな行動で反省する事は沢山あるのだ。


「俺も付いて行きたいところだが……そろそろ戻らないと嫁が怖いぜ。また機会があったら会いたいものだがな」

「そうですね、一緒に旅が出来て楽しかったです。サンクトペテルブルクまで、ご一緒しても良いですか?」

「ムラトさん、良いですね。それ、私も行きたいです」


 そういえばピョートルさんは、メンバーでは無かったっけ。あまりに自然に混ざり過ぎて、違和感が無かった。千鶴ちゃん達も別行動かな。自主的な行動は、ムラトさんにとって良い傾向である。


「そうね、一度ダルイムの街で状況を皆で整理しましょう。暫く待機した後で、本部へ行ってからロンドンへ向かうわ。……オスマン帝国の外交状況は、サンダースさんに確認して貰いましょう」

「そうだな。他の世界の状況は把握しておきたいし、レオナルドの爺さんと魔道具工房で、魔道具の作り方を纏めたいと思っていた所だ」ジェームス達も方針が決まった。


「俺達は、一度村に戻って確認した方が良いかもしれませんね」ホルス君達は、一旦別行動の方が良さそうな気もする。ちょっと考慮しておこう。



「他に気になる事は無い? 出来るだけ問題は出ないように気を付けるけど……。何かあったら言ってね?」

『はーい!』と、気の抜ける返事が返って来る。まったく、本当に分かっているのかしら?


 それぞれ出会いもあれば別れもあるのだ。きっと私達が世界を移動した事で、何かが変わったと思う。こればかりは『明日はもっと良い日になる』事を信じるしかない。……そうでなくてはやっていられない。


 出来る事、やる事が増えると考え事が多くなる。まったく『未来から過去への介入』と言う問題には、毎度悩まされる。「バタフライ効果」と言うか、ちょっとした事で史実が変わるのは勘弁して欲しいものだ。


 私は、暫く腰を落ち着けて考える時間が欲しいと、今後の活動に頭を悩ませるのだった。

 ネタだと思った『破壊神』の話。考えてみると上手く繋がりそうなので、このような流れに。


 プロットの組み直しではありますが、面白さ重視です。


 主人公の設定も当初と変わりましたが、投稿していて冗長になりそうなので見直しました。

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