91.ゴーレムが無理ならロボットで良いじゃない
ひとまず片付けが終わったリビングで全員が集まった。私が代表して色々と聞く事にしよう。
「……さてと、聞きたい事は何かな?」
「色々とあるんですけどね。まず、古代ローマはどうなったのかしら?」
騎馬民族の侵攻と今の状態になるまでの経緯が知りたい。……多分、争い事は起こりそうにないと思う。
「今から300年ほど前じゃな。古代ローマ帝国は繁栄を極め、幾つかの世界を支配していた。帝国では、支配体制を盤石にするために魔法や魔道具に関する知識の持ち出しを禁止しておった」
敵対勢力への技術漏洩を防ぐという訳か。良くある話である。
「ある時、一部の組織がそれを破り、別の世界に接触した事が発覚した。それが『青い鳥』だった……。彼らが何故そうしたかは知らん。特に危険性も無い、ちょっとした技術だったらしい」
「……それが原因で『青い鳥』の大量虐殺になった、と?」
「そうじゃな。一部の者達は別の世界に逃げ延び、ある者は復讐の為に大規模な反乱を起こした……」
そこで偉大なる大ハーン様との繫がりが出てくるのね。
「騎馬民族に『魔導石』と魔道具の知識を教えて、古代ローマを滅ぼしたという事ですか?」
「……ちょっと違うな。王族や貴族と言った連中は殺されて、宝物も奪われたし街は焼かれた。だが、他の世界に居た者や生き残った者もおった。……滅んだのは、ただの仲間内での権力争いじゃ」
「あれ、何でそんな事に?」
あくまでも遊牧民の侵攻はきっかけで、滅んだのは別の理由って事なのかしら?
「良くある話じゃな。一部の貴族連中はガリアに別の王国を建て、他の連中も小さな支配地域を治めるようになった。他の世界との行き来は廃れ、進んだ技術も封印された」
「技術もですか。……せっかく、そんな技術があるのなら残しておく筈では?」
「国を亡ぼす危険な技術を野放しにしておく事が出来んかったのだろうな。お互いの国の取り決めで、少しずつそれらを排除していった。……受け継がれない技術など、あっという間に消えてしまうもんじゃ」
残念ねぇ。せっかくここまで来て何も残されていないなんて。
「今は西暦1510年になる。これまで残った者達で300年間続けて来た、この教皇領も隣国から襲われるじゃろうて。周囲の都市国家との関係も良くないしな……儂が死ぬ位までは持つじゃろうが」
「……お爺さんは残った資料を集めて、ここで古代ローマの技術を研究していたの?」
「今は殆ど資料など残っておらん。……あちこちを巡って微かな痕跡を探したり、人伝てに残った言い伝えを調べておった」
そういうと、お爺さんはこちらを見た。
「お嬢さん方、こちらの世界の人間では無かろう。他の世界から来たのではないかな?」
「……どうしてそれを?」
「いや何。推測じゃがな……『青い鳥』と言う言葉を聞いた時の驚き方から、その末裔の関係者じゃないかと思っておった」
前にもこんな事があったっけ。どうも、隠し事をするのは苦手なのだ。ずっと顔に出ていたらしい……。
「……ええ、そうです。私達は『青い鳥』のメンバーです。ここを襲った遊牧民の末裔の人達から話を聞いて、ここまで来ました。もしかしたら、今でも警戒されているかと思って……」
「成程な、不幸な歴史のすれ違いという奴じゃ。そもそも、この国が分かれた原因も『また、彼らに攻められるのでは?』と言うのが発端なんじゃよ」
そう言って、お爺さんは笑った。
……ローマが崩壊しかけているのが少し意外な事ではあるが、ひとまずは安心だ。
「お嬢さん方は、古代ローマの魔法技術が知りたいのかね?」
「今の話を聞く限りだと、出来れば復活させたいとは思いますけど……」
「爺さん、俺は魔道具師だ。知っている事があれば教えて欲しい!」ジェームスが口を挟む。いつもの発作だ。
……気持ちはわかる。失われた技術と言うのはロマンである。反論は認めない。
「そうね。色々と研究していると言っていましたが……具体的には何をやっていたんですか?」
「儂はな、元々絵師じゃ。最近は『ルネサンス』と言ってな、古代の芸術が流行っていたんじゃ。だが、完璧主義と言うかスケッチする対象を知るために色々とやったもんでな。動物を解剖して細かな動きを調べたり、観察を続けたりと横道に逸れてばかりで……そのせいで、ほとんど完成した絵が無い訳じゃが」
お爺さんが苦笑する。手段が目的になる事、良くわかります。……私も経験者だ。
「そんな訳でな。古代ローマで作られたという『ゴーレム』を造ろうとした。以前は空を飛びたい、と研究しておったが……流石に諦めたわい」
「……『ゴーレム』ですか?」何か、聞いた事はある。
「ああ、人工の機械装置と魔術回路を組み合わせ『魔導石』を動力にして動く人形、じゃな」
面白そうな話になってきた……。益々もってロマン成分が高まる感じである。
「結論から言おう。ある程度の実験は成功した。……巨大な体を動かすだけの動力と仕組みは完成したんじゃ」
「それで、結局どうなったんですか!?」皆の期待が高まる。
「……体は出来ても、自ら動くための仕組みが造れん。残っておった記録は体の方だけでな。どうやって動かせば良いのか、儂には想像出来んかった」
残念、世紀の大発見とは行かなかったか。……体だけでも出来た事は凄いと思うのだが。
「なんだ、直接操縦する訳じゃないのね……。てっきり、ロボットみたいな物だと思ってたわ」
「……何だ、ロボットって?」ジェームスが質問する。確かに、私だって詳しくは知らないわ。アニメとかで見ただけなんだけどね。
「巨大な機械の体に人間が乗って手足を操縦するのよ。人間では出せないパワーと頑丈さがあって、こう武器とかも付いていて……」
……しまった、つい勢いだけで説明しちゃった。ロボットはロマンなのである、仕方がない事なのだ。
「ほう、成程。動き方を考えさせるのではなく、人間が動かすという事か……その考えは、有りじゃな」
お爺さんがその話に食いついた。……待ってよ、私の思いつきなんだから!
「爺さん、そのゴーレムの体は現物があるのか!? 是非、見せてくれ!」ジェームスとホルス君が乗り気だ。
……何だか変な流れになってしまったが、まあいいか。ものは試しだ、色々と弄ればいい。
「……そうね。私達も今まで色々と作って来たし、何か力になれる事があると思うの!」
「俺は、東西の魔道具に詳しい。他に、魔法を分析出来る奴もいるしな……。何より楽しそうだ」ジェームスが興奮している。あぁ、いつものマッド野郎の目だ。
「そうですね。俺も古代ローマの技術、詳しく見てみたいです」ホルス君、こういう事好きそうだし。
その流れで、お爺さんは私達を別の部屋に連れて来た。ここは、工房……かな?
今まで見た事も無いような機械や魔道具で一杯の部屋がそこにあった。
「ふはは、老い先短い我が身だが、何だかやる気が出て来たわい。……お主らに、ここにある物全て説明してやろう。これが儂の集めた古代ローマの技術じゃ!」
「じゃあ、お爺さんも『青い鳥』のメンバーになりますか? 他の世界にも詳しい人間がいますし……」
「そうか、その手もあるな……何かメンバーになる資格とかあるのかのぅ?」
「えっと、他の世界へ行く『門』さえ見えれば、誰でも大歓迎ですよ!」
いつものテキトーな勧誘活動の流れである。私が『宝玉』を操作してホログラフを見せようとしたら、お爺さんは『宝玉』を夢中で眺めている。
「おお、これまた見た事も無い魔術回路じゃな。これは何かね?」
「これがあれば、何時でも『門』を開けます。私も詳しくは知らないんですけどねぇ……」
「ふむ、この光が世界の地図なのかね? ……良く出来ておるが、仕組みが分からんのぅ」
「……爺さん、これは流石に古代ローマでも作れないぜ。俺も色々と調べたが、人の手が入るような隙間さえ全く無いんだ!」
ともかく、他の世界にもお爺さんを連れていけるのは確定だ。……ここは危険そうだし、別の世界で手に入るものもあるだろう。これも何かの縁だし、ウチのメンバーに入れてしまうかな。
「じゃあ、お爺さん。『青い鳥』にようこそ!皆で歓迎しまーす」
「おう、そうじゃな。儂は『ヴィンチ村のレオナルド』と言う。皆よろしく頼むぞ」
「……え、今何て?」私は一瞬固まった。何処かで聞いた事がある名前……。
「ん? 儂の名前じゃよ。フルネームで『レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ』と言う。レオナルドで良いわい……年寄りじゃが、健康には自信がある。旅にも慣れておるし、心配はいらんぞ!」
ちょ、ちょっと待ってよ! 何でそんな大物が、こんな所で暇してるのよ!! 聞いてないってば。
だが、私の驚きは皆に伝わらない……。
「よろしくな、爺さん。俺はジェームスだ」
「魔法の事は俺の専門だよ。ホルスと言います。よろしくお願いします」
「宜しく!」「わーい、新しい仲間だわ!」
誰も動揺せずに受け入れているんですけど……。ひょっとして、みんな知らないの?
このお爺さん『レオナルド・ダ・ヴィンチ』は、馬鹿みたいに天才な人なんだからね!!
私の想いとは裏腹に、一気にそういう流れになっていった……。歴史、変わらないかなぁ?
……ああ、どうしてこうなったのだろうか。
私は、自分だけしか認識していない、重大な問題が発生した事に頭を抱えるのだった。
ロボット製作は男のロマン。……勢い任せな内容です。色々と作るのも面白いと思ったので。
別にやっちゃいけない訳でも無し。
ジャンル違い? 今更です。存分にロマン成分を追い求めるのです。