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90.古代ローマは衰退しました

 トンネルを抜けると……抜けられなかったわね。出口が封鎖されていた。


「掘る! もっと掘る!」レイ君に任せた。


 どうやら、古代ローマのコンクリートで埋められているらしい。これはひょっとして……。


「なあ、これってつまり……」

「推測だけど、攻め込まれる危険性は無いと思うわ」

「お互い『門』を埋めているとは思ってないんだろうなぁ」ジェームスが呆れている。


 騎馬民族は随分と無茶をしたらしい。荒らすだけ荒らして去っていったという事か。


「ちょっと頑丈そうだけど、掘れなくは無いわね。……安心して調査出来そうで良かったわ」

「……ちょっと残念ですね。強い人はいなさそうです」

「腕慣らし程度に丁度良いと思ったんですけどねぇ……」ホルス君は常識人だと思ったのに……。

「ねえ、魔法で吹っ飛ばしちゃいましょう!」


 それぞれ物騒な事を言い出す。まったく、この戦争屋ウォーモンガー共め。ちょっとは危機感を持ちなさいよね。


「あのね、皆聞きなさい! あくまでこれは調査なんだからね。目立つ事しちゃ駄目よ!」

『はーい』と、気のない返事が返って来た。変人しかいないのが悲しくなってくる。


 幸い、そこまでしっかりと埋められている訳でもない。小一時間後、出口が見えて来た。


「さて、どんな状況なのかしらね?」やはり、新しい世界は気になるものだ。

「アキラだって、ワクワクしてるじゃないか。まったく……」


 言うな、ジェームス。『冒険者魂トラベラー』に、嘘は付けないのだ。



 ようやく人が通れるだけの穴が開いて、我々は未知なる世界に足を踏み入れた。


 ……何と言うか拍子抜けである。『門』は、郊外にあるちょっとした祠に通じていて、近くにそれほど高い建物も無い、普通の市街地が広がっている。もう少し、文明の高さを想像していたのだけれど。


「とにかく、場所と年代を確認するわよ。皆、固まって動きなさい」

「ふむ、人の気配はあるが……随分と静かだ。とても古代ローマを継いだ文明とは思えないな」

「そうだな、これならサンクトペテルブルクの方が賑やかだろうぜ」


 皇帝二人組が揃って残念そうにしている。どれだけ、期待していたのやら。


「そうねえ、史実通りとしたら1200年位に騎馬民族がやって来て、そこから300年としても……ちょっとおかしいわね」

「中世ヨーロッパに毛が生えた程度、と言った所かな?」そうね、その辺の経緯が知りたいわ。


 とにかく、大通りを見つけたのでウロウロしながら手掛かりを探す。平和である事は確かなのだが、首都と言う雰囲気でもない。


「あそこに商店があるわね。とにかく入ってみましょう」



「はい、いらっしゃいませ。どういったお買い物ですかな?」人が良さそうなおじさんが店番をしていた。


「すみません。旅の者なんですが、ちょっと迷ってしまいました。ここはどのあたりですか?」

「ああ、ここはローマだよ。アンタ達は旅の行商人かな? ここよりもナポリやフィレンツェの方が活気があるだろうに」

「私達、オスマンの方からやってきました。今のヨーロッパの状況には詳しくないもので……。この街は誰が治めているんですか?」適当な事を言って誤魔化そう。下手に怪しまれない様に。


「ああ、教皇領さ。随分と前にここローマは滅ぼされてね。今は、行く所のない奴が寄り集まっているだけなんだよ」


 ……どうやら史実と同じような感じでローマは滅ぼされたらしい。期待外れかもしれないわね。


「最近は、フランス王国や神聖ローマ帝国と小競り合いばかりだ。怖がって街を出る人ばかりでねぇ……」

「……私達、昔の出来事を調べているんです。どこかに詳しい人は居ないでしょうか?」

「ああ。それならレオナルドの爺さんが良い。郊外の屋敷で色々と実験ばかりしている変人だがな。何でも古代ローマの研究をしとるそうだ」


 レオナルドさんか。丁度良い具合に研究者の人がいるようだ。


「今からお会いする事は出来ますか?」

「ああ、丁度息子が注文されていた物を届けに行く所だ。おい、案内してやれ」

「あいよ、父ちゃん。古代ローマを調べたいなんて変わった人達だねぇ」


 これまた、人の好さそうな青年が荷物を持って店に出て来た。


「どうもご迷惑をお掛けします」

「良いよ、そんな事。……あの爺さん変わり者だから気を付けなよ。変な研究ばっかりしてるから」


 青年は笑いながら、食料などを運ぶ。また変人かぁ。ともかく、色々と聞けそうなので止むを得まい。


「古代ローマって、そんなに知られていないんですか?」

「ああ、お伽話みたいなもんさ。空を飛んだとか、岩でできた巨人がいたとか……。まともに信じる奴なんかいないよ」


 何だか、話が違うなぁ。どういう成り行きでこんな状態になったんだろう。


「……なあ、そのレオナルド爺さんってどんな人なんだ?」ジェームスはその老人が気になるのか。変人同士だからかなあ。惹かれ合うモノがあるかもしれない。


「俺も、良くは知らないんだけどね。何でも昔は、あちこちを渡り歩いて仕事をしていたらしいよ。頭は良いらしいんだけど、俺にはボケた爺さんとしか思えないね……」


 青年が笑いながら説明してくれた。どうにも変人っぽい雰囲気である。


 ……何と言うか、ネルソン提督みたいな電波野郎じゃ無ければいいけど。



 そうこうしている内に街の郊外の屋敷に着いた。……屋敷と言うか廃墟のようにも見える。


「爺さん、荷物を持って来たぜ! 開けてくれよ」

「おお、道具屋のせがれか。何やら大勢だが……」

「ああ、古代ローマが知りたい旅人らしい。爺さんなら知っているんだろ?」

「……成程、こんな年寄りのほら話で良ければ構わんぞ。何のもてなしも出来んが宜しいかな?」


 ……これも何かの『縁』だろう。せっかくなのでほら話とやらを聞いてみる事にしよう。


「ありがとうございます。皆、失礼のないようにね。お邪魔しまーす」

「うーっす」「失礼します」「お化け屋敷みたいですね!」「この扉閉まらないぞ!」


 もう、早速失礼な感じである。こいつらに礼儀作法を求める方が間違っているのだろうか?


「ピョートル、頭をぶつけるなよ。ここは天井が低いからな」

「うむ、中々俺に丁度良いサイズの建物は無いからな……。体が大きいのも面倒だ」

「ムラトさん、この標本何ですかね?」

「……さて、犬にしては立派だし。狼でも無し。何であろうな」


 皆、物珍しそうにあちこちを眺めている。……確かに、足の踏み場も無い程にガラクタが散らかっている。


「……すまんね、今は家の者が出払っておってな」

「千鶴ちゃん、こうなったら片づけちゃいましょうか?」

「そうですね。流石にこの状態では、身動きが取れませんし……」


 話を聞く前に、部屋の荷物をちょっと整理する事にした。お邪魔したお礼位はしても罰は当たるまい。


「爺さん、こりゃなんだ? ……捨てても良いのか?」

「それは、新型の橋の模型じゃ。使わなくなったんじゃが……まあ、捨てても良かろう」

「へえ、面白い構造だな……。こんなに精密な模型なら置いといた方が良いだろう」

「お爺さんは発明もするのかね?」


 思い思いに片づけだか、物色だかをしている。まったく、ちっとも整理出来ないじゃないの!


「アンタ達。男衆は、重い物を動かしなさい! 女性陣で陣頭指揮するわよ!」

「はい、お姉様」

「ホルス、レイ。アンタ達はこっちね!」


 どうにか、秩序だって部屋の掃除が始まった。それにしてもガラクタばっかりねぇ……。


「お嬢さんがた、すまんのぅ。部屋の管理は弟子に任せておってのう。アイツが金目の物を盗んだままになっておるのじゃよ」


 金品を盗む弟子って、それ犯罪者じゃないのよ……。やっぱりこの爺さんも変人だわ。


「アイツは暫く戻って来んじゃろうし。テキトーに捨てて貰って構わんぞ」

「そうはいきません。『袖すり合うも他生の縁』って奴ですよ。気にしないで下さい」


 ただ、変人が寄って来る縁だけは何とかしたい……。多分、前世の行いがよっぽど悪かったのだろう。


 私は、この変わったお爺さんとの出会いをいつもの事とは思いつつ、まともな会話になると良いなぁ、と不安に駆られるのであった。

 古代ローマ(の成れの果て)到着です。


 偉人で変人枠のお爺さん登場です。


 色々と面白い発明をさせたいものですね。前振り、という奴です。

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