まだ見ぬ明日を迎える為に
私、結城映の一世一代の大博打が今始まる……。
「さあ、ここが正念場よ! ここさえ乗り切れば『きっと明日はもっと良い日になる』筈なのよ。皆、最後の戦いの準備は大丈夫?」
私は皆で魔改造したロボットに乗り込みながら、何時ものように士気を上げる為に皆に声を掛ける。
各所に散らばった軍団からは、威勢のいい返事が届く。
「お姉様、こちらの陸戦部隊は問題ありません! やっと、この『破壊神』との戦いを終わらせるんです! 全員、死に物狂いで鍛錬してきた成果、お見せします!」
「こちら、勇者パーティーと魔導師部隊。足止めと妨害、支援魔法はありったけ使います! 魔法の出し惜しみをするつもりはありません! 『破壊神』を倒して、真の平和を手にするまで諦めません!」
「騎馬部隊の準備も万全じゃ。側面攻撃はスピード勝負! 誰にも負けんわい」
「魔王軍は絶好調だぜ。好きなだけ暴れまくってやるさ! こっちは楽しみでうずうずしてるんだ!!」
しかしまあ、随分と揃えたものだ。
偶然と思いつきで結ばれた『縁』の思し召しという奴だろう……。
大体、拾ったり助けたりした仲間達が居なければ、この最終決戦さえ迎える事が出来なかった。
思わぬ形で戦力化した、我々の切り札「魔族四天王」だっているのだ。
……こんなにも頼りになるとは、出会った当時には思いもよらなかったのだが。
「主殿。オイ達の出番は、何時になり申すか? はよう、首ば落としたかでごわす!」
「私達も戦えます。……戦いは怖いけど、頑張ります!」
うん、君達は最後の頼みの綱なのだ。
ここぞという所で、頑張って貰わなければならない。
「……まずは様子見よ。戦況が動けば『破壊神達』は、あの穴から溢れ出るわ。こちらの戦線を崩されない様に、貴方達の力が必要なの。よろしく頼むわね」
……今、最高の形でこうして戦いの準備が完了した。
もう、やるべき事は済ませている。
悩み抜いた作戦も苦しい訓練も、全てこの時の為なのだ。
もう、世界を滅亡させたりしない。
やり直しをするつもりも無い。
流石にただの商人とは、到底言えなくなってしまった。
……私の今の肩書は『魔王』である。
どうしてこうなった、とは思うのだが仕方が無い。
この日の為に物凄い回り道をしてお金を稼ぎ、これだけの軍団を支えるだけの兵站や古代技術の魔改造まで、ありとあらゆる事をやってきた成果なのだ。
成り行きとはいえ、諦めるしかない。
……たった十年前は、ロンドンの片隅で行く当てもなく、するべき事も見つからなかった孤独な私。
だが今は、沢山の仲間と大切な思い出の詰まった世界を守るために、全力を尽くしている。
私は、全てを守ろう。
これまでの、果てしない苦難の道の果て。
私がやるべき事は、まだ到達した事の無い、未知なる『明日』を迎える事なのだ。
そして、出会った掛け替えの無い人々と迎えた、楽しい日々と明るい未来予想図。
それが、私にとっての大切な宝物なのだ。
……どんな事があっても、それを壊される訳には行かない。
……私に課せられた『運命』は、世界が滅ぶたびにやり直しを強制させられるという呪いだ。
どうすればこの『運命』から逃れられるかを手探りで試行錯誤し、そして死ぬ。
悲しい『運命』とそれに翻弄され続けた、幾千・幾万の過去の私。
今まで、そんな事をずっと繰り返してきたらしい。
それが、神様から私への酷い無茶ぶりの結果なのだ。
まったく、酷い話もあったものだ。
あの『ポンコツ女神』め、いくら文句を言っても納得出来ない。
そんな神様でも解決出来ない、このくそったれな世界の『運命』とやらを今ここで終わらせる。
私達は、決して諦めなかった……。
ここに集めた精強な軍団を、私達は必死で用意したのだ。
その行動は、神様達でも予測不能だったらしい。
それが、私達が築いてきた『絆』による力だ。
何の力も無い人間や魔族達だって皆で協力すれば、世界の『運命』をぶち壊す事が出来ると私は確信している。
初めは、ほんの思い付きや気まぐれで結んだ人々との『縁』だった。
だが、その『縁』のおかげでいくつもの奇跡を生み続けた。
我々は、数奇な因果の果てに、ようやくこの場に立つ事が出来たのだ。
……ここまで来たら、やる事は一つである。
「さあ、やるわよ! 私達が夢見た『未知なる明日』は、この戦いを終わらせて迎えるのよ! 頼んだわよ皆。絶対に大丈夫! 自分を信じられずに不安になる必要は無いわ。私が信じた、皆の頑張りを信じなさい!! 『破壊神』なんてぶっ飛ばしてやりましょう!」
あちこちから『おう!』と言う掛け声が帰ってくる。
長く苦しい日々だった……こいつら変人共の相手をする毎日も、もう終わる。
まったく、こいつらが居なければ、どうなっていた事か。
変人の相手は慣れた、というよりも諦めた。
良い仕事をする事だけは、間違いない。
願わくば、制御しきれない暴走さえなければ……と言ったところだ。
その辺りの行動については、自分も人の事は言えまい。
ロマン成分と、その場の勢いで暴走した結果が、この大軍団なのだ。
……実際、文句が言える立場でも無いだろう。
「さあ、行くわよ! 全軍、突撃!!」
私の掛け声とともに、各軍団が動き出す。
地獄の穴が開き、中から大量の『破壊神達』が群れを成して現れた。
こいつ等さえ全滅させれば、未来が見えるのだ。
これは『守銭奴』と呼ばれた少女の、トラブルとロマンの狭間で繰り広げた、世界を守る戦い。
……永遠に繰り返される世界の輪廻という、神様でさえ諦めた問題を解決する為に努力してきた、変人共のあいとゆうきの物語である。