御園ひまわりが死んだ日
この作品は、『第4回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。
一年前の今日、御園ひまわりが、死んだ。
よく晴れた冬の日だった。夕刻になり深く傾いた太陽が、彼女の部屋の中を、真っ直ぐに照らしていた。
あの日見た夕陽の美しさを、私は、一生忘れないのだろう。
あの日と同じように、私はパソコンデスクに腰掛けた。手に持っていたコンビニのビニール袋を、ドサっと乱暴にデスクへ置く。
「ビール、買ってきたの。今日は飲んじゃおうかなと思って。あの日以来、飲んでないんだ」
ガサガサ、と大袈裟に音を立てて、私は缶ビールを取り出した。
カシュッ、という乾いた音が、静まり返った部屋に響き渡る。
「カンパイ」
私はパソコンの画面に向かって、缶ビールを小さく掲げた。くい、っと缶を煽った途端に、眉間にシワが寄る。
一年振りのビールは、苦かった。
「うええ……こんなの、よく飲んでたよね。ま、飲まなきゃやってられなかったんだろうけどさ」
ゆっくり、ゆっくりと、太陽が沈んでいく。
気がつくと、部屋の中が薄暗くなっていた。パソコンの画面が放つブルーライトの方が、よっぽど明るく感じるほどに。
「……誰も、応援してくれなかったもんね」
その言葉を口にした瞬間、胸に、鈍く痛みが走った気がした。
「私くらい……ちゃんと応援してあげればよかった」
絞り出すように出した声が、中空に消えていく。
私は、煌々と光るパソコンのディスプレイを、そっと、優しく撫でた。
画面には、名のある小説投稿サイトのホームページが表示されている。
ユーザー検索画面に入力された「御園ひまわり」の文字。
ーー検索結果は、該当なし。
「何で、辞めちゃったんだろう。ほんとに……」
その問いに、答えられる者はいない。
「……ほんとに、大好きだったのにな。書くの」
御園という苗字の由来は、大好きな作家のアナグラムだ。“ひまわり”という名前は、花の向日葵から取った。
ーー私の作品が、あの作家さんのように、読む人の心を明るく照らしてくれますように。
そんなことを、願ってつけたペンネームだった。
今日は、彼女の命日だ。
一年前の今日。
御園ひまわりという一人の作家が、死んだ。
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