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人の話を聞かないレストラン  作者: たかさば


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2/2

後編

「おい!!ここめちゃめちゃすげえ便所だったぞ!!」


 勢いよく個室に入ってきたツレは、何やらテンションが上がっているようだ。やけにおちゃらけた動きで椅子に座り、大袈裟に跳ねながらスマホを差し出す……、って!な、なんだこれ?!


「すげえのな、正にアトラクションって感じ?!思わず用たすの忘れて動画撮っちまった、これめっちゃ回数稼げるて!!すごくね?ここの輝き!!こんな演出、俺初めて見たわ!」


 見るに堪えない大量の汚物を指差し、唾を飛ばすツレに…正直ドン引きだ。スゴいものをみて、テンションを上げることで…気を紛らせているのか?だとしても、これはない。一目見て、背筋が震え上がったから…ある意味ホラー系のアトラクションとしては有能かもしれない、だが…こんなのは有害動画指定されてBANされるに決まっている。


「無理だって!!こんなもん映したらチャンネルが消滅する!お前せっかくの銀のカップふいにするつもりかよ?!」

「うーん、確かに便所は便所かあ、いい案だと思ったんだけど!あとさ、ついでにギャルたちも撮ってきた!アイキャッチで使お!!俺はこの右の子がいいと思って……」


 ツレのスマホをのぞき込み、薄暗い画像に注目しようとした、その時。


「お待たせしました!日替りでーす!美味しさが揮発するんで、すぐに食べてね!!」


 大きめのトレイの上にのせられた、…日替わり定食が。


「うっひょー!!キタ━(゜∀゜)━!めっちゃうまそー!!いっただきまーす!!!あ、お水もう一杯!」

「はい、少々お待ちを!」


 ツレは、トレイを受け取るなり…干からびた何かに、齧り付いた。


 半額シールのついた、安物のつまみみたいなやつを、大袈裟に…箸で、つまんで、惜しそうに、口に入れて、ゆっくり、ゆっくり、咀嚼を……。


「肉汁滴るハンバーグ!とろけるチーズ!サンマ丸ごと一匹?!この時期に生サンマが食べられるとは!ジューシー!」


 ……なんか、……?


 日替わり定食は、べたつく飯と、梅干し?具のない茶色い汁に、メザシが一匹、ドクダミっぽい葉っぱに、肌色のハムのようなもの、あと…なんだっけな、これ…黒い粒、そうだ、桑の実!


「なに、お前食わねえの?あ、そっか、さかな嫌いって言ってたな!俺貰ってやるよ!スイカも食ってやろうか?こんな大きいの、小食のお前じゃ食いきれないだろ!」

「スイカ?なに、どこに、お前…なに言ってんの?」


 ……なんか、おかしく、ないか?


 動画向けの、誇張表現?……にしては、明らかに無理がある。というか、頭が悪くて嘘が付けないツレが、ここまで饒舌にお世辞を言うのに…違和感が、拭えない。


「お前こそなに言ってんだよ!こんなごちそうが450円なのに!…うわぁ、このサーロインステーキ、とろける…!」


 ガキがままごとで作ったような定食をがつがつ食べるツレに…ドン引きしつつ、俺はツレに魚を食ってもらおうと、皿の上にのせた。…皿のすぐ横に置きっぱなしになっていた、ツレのスマホが、目に入る。なんとなく、見ておいた方が良いと思って、箸を置き、手垢だらけのそれを手に取った。


「うん?ああ、そうそう!この右の子!めちゃめちゃかわいくね?綾子さんって言うんだって、もぐもぐ!声かけてくれて嬉しいって!電話番号も、家電だけど聞けてさ!」


 ツレのスマホの画面には…真っ暗な…、ここ、こんなに暗かったか?あの女性達がいた辺りは、もっと明かるくて……、というか、今どき、家電?写真のコントラストをあげようと指を動かしたら、また…あの、おじさんが。


「はい、お水ね!良い食べっぷりだね!おかわりいかがですか!自慢の料理、たっぷりたべてね!」

「やったー!じゃあ、ご飯と味噌汁お願いします!」

「お、おい!俺たちは帰らないといけないんだぞ!もうじき日が暮れて、道にも迷ってるのに!」


 明らかにおかしい状況、怪しい雰囲気、これは……。


「道に迷ったんですよね、わかりますよ!ここね、そういう人たくさん来るんです!今からだと暗くなっちゃうんで、向こうにある旅館に泊まって行ったらどうです!一泊千円、一万持ってるなら余裕で払えます!朝イチで出たら良いんですよ!ここに来た皆さん、いつもそうしてますよ!」

「やすっ!おい、泊まっていこうぜ!どうせ明日は編集で一日潰すだけなんだ!もう一日撮って行こ!」


 目を爛々と輝かせて訴えかける、ツレの姿をみて、なぜか……背中に、汗が。


「ちょ、なに言ってんの?すみません、泊まりません、帰るので道を教えてください!!おま、急に宿泊とか無理だろ、着替えもないし、落ち着けって!!そんな気軽に…

「着替えございますよ!コインランドリーもあります、電子マネー使えるし、浴衣も選び放題!ここねえ、天然の温泉が有名なんですよ!さ、ご案内しますから、早く完食してください!…って、おかわりいるんでしたよね?いそいで持ってきます!」」


 おっさんが慌てた様子で個室を出て行ったので、夢中になって干からびた残飯を貪るツレの皿を奪って、訴える!


「…おい!ここ、マジちょっとおかしい!もう帰った方がいい!お前、もう食うな!早く帰らないと、ヤバイ!!ここは、もしかしたら化け

「おい!!俺の分はやらねーぞって言ったよなあ?!勝手に食うなよ、このシャトーブリアン、コシヒカリ…誰にもやらん!一粒だってわけんぞ!!!」」


 勢いよく皿を奪い返し、抱え込むようにして草を口に押し込んでいる!!!


「お待たせしました!おかわり追加でーす!!ささ、早くお食べください、あ、お兄さんもですか?なんだ奪い合わなくても、たっぷり持ってきますから!!も~、早く言って下さいよ!お部屋も今準備しましたからね!」

「うハァ!待ってました!!いいの?!こんなにつやっつやの新米!ああ…具沢山のかに汁!!」


 明らかに食べ物と思えない物体が、ツレの目の前に置かれ!!

 すぐに追加されて、出てくるたびにグレードが下がっていく定食、生ゴミに夢中のツレ!!!


 絶対に!!おかしい!!!


「あの!僕たちもう帰ります、帰らないと

「帰る?無理ですよ、あなた達はここで満腹になって、泊まっていくんです。もう部屋もご用意していますからね、あ、これどうぞ!」」


 ニコニコとしながらもこちらの言う事を一切無視するおっさんが旅館のパンフレットと手ぬぐいを差し出す!逃がすつもりは、ないらしい?!これはヤバイ、やばすぎる!!一刻も早く逃げなければ!!…って!!パンフ広げながら、腐った魚の骨をかじってるツレ、つれがっ!!


「お、おまっ…お前もう食うな!!帰らないとレンタカーの延滞金めっちゃかかるって言ってたじゃん!!」

「あー、そっか、レンタル今日までだもんな、じゃあさ、一回返してきてよ!で、明日迎えに来て!俺がたっぷり旅館のレポしとくからさあ!!綾子さんも泊まってくって言ってんだよ、俺さあ、よる部屋に遊びに行くことになった♡」


 ダメだ、ツレは…明らかに目が、おかしい!いつも自由な発想で発言しがちではあるけど、ここまで身勝手なことを言ったのは初めてだ!明らかに…人が違っている?っていうか、どこ見て話してる?!


「美味しい夕食、お出ししますよ!こんな定食じゃなくて、船盛も、豚の丸焼きも出しますのでね!お腹いっぱい食べて、ぶっくぶくに太ったあと、お風呂に…混浴に入っていただけます!さぞかし美味しくゆだることができると思いますよ!!…なんてね!!アッはっは!!!」

「ちょっとー、まさか有名な人気小説みたいにスパイスかけてぱくっといっちゃわないでよ!」


 調子に乗ったツレが、いつも俺にするようなノリで…ツッコミを入れた、瞬間!!


「え、そんなこと……しませんよ。なんです、有名なんですか、その…物語。この世界には、人にスパイスをかけて、食べて、容認されている物語が、あるんですか……?興味深いですねえ…、ちょっと…詳しいお話、聞かせていただけます?その、堂々と食べていい、物語……!」


 明らかに、人の瞳として存在してはいけない色合いの光が!!!


 きらりと!!!


 あ、アアア!!!


「そ、そんなものは……な、ななななっ!た、べてたら、だ、ダダダメでぇえええええええ!!」


 俺は、軽口に反応してツレに詰め寄ったおっさんの横をすり抜け、個室から飛び出した!


 ホコリっぽい店内を一目散に駆けて、後ろの方で何かわめいている声を無視して出口を目指しながら!!


 秒で、情報を!!


 空けにくい古いドア!

 煙たい、店内!

 ぼんやりした、雰囲気!

 ツレは…、あの、ぬるい水を、のんだ!!

 俺は、水を、飲まなかった!

 ツレが絶賛した便所!

 古臭い名前の女!

 今どき固定電話!

 ツレの過剰な食レポ!

 薄暗くて見えない写真!

 無理やり泊まらせようとするおっさん!

 人の話を聞かないツレ!

 人の話を聞かない…化け物!!!


 俺は……!!


 俺はっ!!!!!!



 古いドアを蹴破り、車に乗り込みっ!!!!!!



 ……!!!



 …………?!


 ……ちょ……か……!!!


 コン、コンコンっ!!!



「もしもし!!大丈夫ですか!!!」



 コンコンと、窓を…たたく音、兄ちゃんの……声。



 ……俺は……一体???


 体中が、びっしょりと…濡れている。

 じっとりと…汗にまみれたまま、眠っていた…らしい?


 音と、声で…目が……覚め、た……?


 とりあえず、窓を開けようとして…手が、震えていることに、気が……付いた。

 ……ヤバイ、熱中症に、なりかけている?


 やけに、頭が……ぼんやり、する。


 ドアを、開けると…涼しい風が、入ってきた。

 吹き込む風が…やけに、ホコリっぽいというか、田舎臭い、においがする……。


 ええと……ここ、は……。


「あんたね、こんな気候のいい日に車の中で寝たら脱水で死んじゃうよ?!大人なんだから、気を付けてください!!もう少しで…肉体が…命が無くなってても、おかしくなかったんだよ?!」

「すみ…ませ……ん。」


 見ず知らずの兄ちゃんに怒鳴られて、俺は……項垂れる事しか、できない。


「こんな辺鄙な場所で目立つような事件を起こされちゃ、たまんないよ!一体…なにしてたの!!」


 ……寂れたクソ田舎のSAの端っこで、車を停めて。

 そうだ、ええと…ツレを待っていて、眠っちまって。


 ……ツレ?


 ……いや、違うな。


 どうやら…熱中症になって、悪夢を見ていたらしい。


 …夢と現実がごっちゃになってしまっていて、混乱が、すごい。

 頭が、がんがんする…物を考えようとすると、気が、飛びそうに、なる……。


 やけにリアルな夢に、現実が…引っ張られている。


 俺はぼっちで動画配信をやっていて…。

 ツレなんか、いなかったじゃないか。


 今日も、配信用の動画を撮るために、レンタカーを借りて、高速に乗って、田舎に行こうとして。


「……顔色が悪すぎる、完全に脱水状態になってるじゃないか!これ、飲んで!!」


 兄ちゃんに、ペットボトルを、渡された。


 ……わざわざふたを開けてくれている。

 握力も落ちているから、ありがたい……。


「あ、ありがと、ござ……。」


 体がほてっているから、水がずいぶん…ぬるく、感じる。


 俺は、それを、ごくりと。


 ひとくち、飲んだ。


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