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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
99/198

3−3

 騎士団の訓練場へ行くと、爆撃機が二機待機していた。機体は大小の大きさが異なっている。

「さあさあ、陛下お乗りください」

 ジーブルが胡麻を擂るような素振りで愚王カヴィタスに大きな機体に搭乗するように招く。

「セティー、お前は飛んで行くか」

「いいえ、陛下のお側に」

 カヴィタスはニヤリと笑いながら、セティーが続いて歩くのを見ると爆撃機へと乗り込んだ。

「ほら! 陛下を待たせるな! お前たちもすぐに乗れ!」

 第二王子のアレスフレイムも居るというのに、ジーブルは偉そうに命令。どうにかして抵抗をしたいが大切な家族や恋人が人質にされているが故に誰もが爆撃機に乗ろうとした。


 きっと、彼女が何か動くだろう。


 カジュの葉を愚王の会議室に仕込んだことをリリーナも知っているし、カジュが知らせただろう。

 カジュから進捗報告を聞きたい、とアレスフレイムは考えた。

「絶対に父親とは同じ空気を吸いたく無い。俺は別に乗るからな」

 筆頭魔道士であるセティーの魔力は強い。念の為セティーに万が一カジュの声を聞かれてはならないと思い、自ら別々になるように仕向けた。彼の側近のノインもアレスフレイムと同乗。

 ジーブルの息子のエドガーはアレスフレイムと別れて乗ることに不安しか無かったが、

 シュルシュルっっ……

 カジュが分身であるもう一枚の別の葉をエドガーの胸ポケットにすぐに身を潜めた。

 それを見たアレスフレイムは、大丈夫だ、お前はただ自然としていれば良い、と目でエドガーに訴えた。

 そしてカジュも

「安心しろ、金髪兄ちゃん。保護魔法くらいなら瞬時にいつだって出せるからよ」

 ひそひそ声で彼に伝えたのだった。

 エドガーは自身を奮い立たせて歩いた、愚王と同じ機へと。


「操作はお任せください、陛下。あいつ等が乗っている機体もこちらで操作出来ますから、逃げられる心配はございません」

 ジーブルが操縦席にてボタンを二つ押す。すると、魔力で機体は浮かび、飛び立った。迷いの森へ目指すべく南へと。

「ひっひっひっ、妙な真似はするなよ。そっちの機体を一瞬で粉々にすることも出来るんだからな!」

 アレスフレイムたちが乗っている狭い機体のスピーカーからジーブルの品の無い笑い声が聞こえる。

「けっ、妙な真似をしているのはテメーらだろ! こっちの声は聞こえるのか」

 アレスフレイムがスピーカーに向かって声をかけると返事が無い。

「大丈夫だ、聞こえない」

 すると、胸元からカジュの葉がしゅるりと飛び出した。

「えっ!?」

 突然葉が生きたように飛び、エレンとアンティスは驚いて目を見開いた。オスカーはどことなく慣れた様子。ノインは言うまでもなく、カジュなどの魔力の強い植物の声が聞こえるので平然としている。

「リリーナが魔法を使えることは知っているよな」

「ええ。でもどうして彼女の名前を今?」

「彼女には植物と話せる力もある。訳あって俺やノイン、エドガーも会話が出来る」

「そんな夢物語が!?」

 エレンやアンティスは絵本の設定のような事実にただただ驚くしかなかったが、緊急事態なのもあり、疑う余地など無い。

「今回俺たちが連れ出されたことをコイツの葉を通じてリリーナも知っているはずだ。牢屋から人質を救出出来る希望はリリーナにかかっている」

「リリーナターシャが…」

 祈るような気持ちでエレンがアレスフレイムたちの言葉に耳を傾けた。

「王サマたちの方のオレの葉には声が漏れないようにしてある。一人魔力が強い兄ちゃんが居るからなぁ」

「食えない筆頭魔道士だ。すんなり親父と同行して何を企んでいるんだ」

「カジュ、牢屋の様子は見れそうか」

 ノインもカジュに話しかける。無論、エレンとアンティスとオスカーにはカジュの声は聞こえないため、奇妙な光景に映った。

「リリーナたちが何とかしそうだ」

「たち?」

 アレスフレイムの眉間に皺が出来る。

「悪いけど、オレからは協力者の名前は言えない。リリーナに危害を加える人物では無いから、そこは安心していいぞ」

「牢屋の様子は何て?」

 母親を人質に取られたエレンが心配そうにノインに聞く。

「あ、終わった終わった。あっという間に片付いた」

「片付いた?」

「片付いたってどういうこと!?」

「人質は全員無事ということか、カジュ」

 取り乱すエレンを軽く抑え、アレスフレイムが落ち着いた声で重要事項を確認した。

「おう! 牢屋から出られるようにしてある。今は捕まった人たちは眠っているけれど、後から青髪王子様が助けに来るように手配済みだ!」

「全員無事だ。マルスに保護してもらえる」

「良かった……良かった……お母さん…っ!」

 安堵でエレンが思わず涙を流し、ノインたちもほっと胸を撫で下ろす。

「リリーナも無事だから安心しろよ。牢をぶっ壊して、今は薔薇の迷宮に居る」

 薔薇の迷宮は敷地内で最も安全な場所。リリーナの無事も聞けてアレスフレイムも心からほっとした。

「リリーナと話すか?」

「いや、いい。心配させるだけだ。不安そうならこっちは平気だと伝えておいてくれ」

 本当は愛おしい彼女の声が聞きたい。だが、危険に晒すわけにはいかないため、アレスフレイムは彼女に連絡をしないことを選択。万が一、こっちに来ると言われても困るだけだ。

「余りにも短時間過ぎないか」

 常識を遥かに逸脱したスピードで人質を救出したと聞き、思わず疑心暗鬼になるアンティス。

「彼女の魔力は底知れない。俺は目の前で見た。スティラフィリー王太子妃を絶体絶命の重症から救ったのを。傷跡一つ残さずに」

 そんなアンティスを諭したのはオスカー。

 そしてアレスフレイムはノインたちに顔を向け、宝石のように赤い瞳を煌めかせた。彼女がやるべきことを果たした、今度は自分達の番だ、と。

「親父やセティーを止めよう。問題は親父専属の騎士団の連中に家族が無事であることを伝えられない。リリーナのことは俺たち以外に口外してはならないからな」

 ノインたちは黙って頭を全力で働かせた。

「アレスフレイム、ノイン、ちょっといいか」

 やや声色を低くしながら声をかけたのはカジュ。普段どんな時でも陽気な彼にしては珍しいとノインたちは葉に目を向けた。

「迷いの森や太陽の丘はオレたちにとっては異国だ。オレがアレスフレイムたちは味方だと訴えても擁護してもらえるとは限らない。むしろ排他されると思った方が良い。オレは(分身)から魔法を使えるけれど、最悪姫様の魔法は届かないかもしれない」

 植物たちが今回も協力をしてくれるだろうと、アレスフレイムもノインもどこか期待をしていた。それが出来ないとなると、自分達が生きて帰れるのかと途端に不安に襲われそうになる。

「だからな、正直にオレの気持ちを言うと、アレスフレイムたちには森に入って欲しく無いんだよ。この空飛ぶ物体が着陸をしたら、森から逃げて欲しい」

「だが王専属騎士団はどうなる。彼等を見殺しになど出来ない」

「王サマよりもアレスフレイムたちの方を信用するんじゃないか? 人質が助かったと叫びながら逃げれば付いてくると思うぜ」

 それでも、

「欲望に支配された人間は太陽の丘の魔女を求めるだろうよ。アレスフレイムたちを追おうとせずに、幻の魔女を目指そうとすると思うぜ。2000年前のように」

 それでも………。

 アレスフレイムは歯を食いしばりながらカジュの話に耳を傾けていた。


「それでも、助けたいと思うのか。父親を」




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