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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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2−3

「愚かな人間だこと」

 薔薇の迷宮にて、白薔薇姫がカジュを通じて王の愚策について聞いていると嘲笑うかのように毒づいた。

「……………」

 一方リリーナは黙って考えている。


 アレスフレイムたちが城から不在となれば、私で牢屋に閉じ込められた人たちを救出しなければならない。でもどうやって………?


 牢の鍵を入手するのは不可能に近い。ならば、装置を破壊しながら牢屋の中にいる人たちに防御魔法で守るのはどうだろうか。

 装置の制作はあの国内で最大の武器製造の領地、ジーブルが手掛けたのだから破壊力は凄まじいかもしれない。

 以前アレスフレイムたちとゲルー大国が仕掛けた爆発物を抑えたのと同様に装置に防御魔法をかけて破壊を抑えた方が良いのか…。

 いや、装置自体が爆発するとは言っていない。もしかすると牢に細工をしてあることも考えられる。

 装置の破壊、装置の防御、人々の防御、これら3つの魔法が同時に必要になる。

 リリーナは3つ魔法を維持することは可能だが、同時に発動することは無理だ。それにいくつか並行して魔法を唱えれば、1つだけ唱えるよりも威力は低くなる。


 他に仲間が欲しい。


 だが絶対に信頼出来る相手に限る。リリーナの特殊な魔力を知られるわけにはいかないのだから。


「あらぁ、まさか無茶なこと考えていないわよね?」

「白薔薇姫、もう一度聞くわ。最近植物たちに掛けられた埃を消した人物を知っているかしら」




「………セティー?」


 小庭の隅で一人でぽつんとしゃがみ込んでいたメイドが立ち上がる。

「セティー? セティーね! 帰ってきたの!? どことこ? 今会えそう? 会いたいよ、セティー!」

 きょろきょろと彼女は宙を見上げて彼を探す。彼の風を健気に求めながら。

「セティー…………?」

 だが彼女に聞こえたのは残酷な言葉だった。

「セティーだめだよ!! 嫌だよ! セティー、行っちゃだめ!! セティー!! セティー!!!」

 彼女の声は風を掴めなかった。

 ぽろぽろと涙が溢れ出し、小さな花たちに雨を降らしていく。

「泣いてるの?」

「どうしよう、セティーが………ニックもいないし……私何も出来ない」

「諦めないで。中庭へ行ってみて! あなたを助けてくれるから!」

「え…」

「薔薇の迷宮へ! そこに白薔薇姫様がいるわ! そして今ならリリーナも!」

 リリーナ……ニックから近付くなと言われた人の名前。

 そして小花たちが信頼出来ると言う人物。

 だが、彼女は故郷の教会に桁違いに美味しくて鮮度が長持ちする野菜を陰ながら寄付をし続けてくれた人物でもある。

 実際に会えば、誰よりも品の良い礼を単なるメイドにもする人………。


 不安が無いわけが無い、信じ切ってるわけでも無い。

 一人の泣き虫なメイドは無我夢中に腕を振りながら土を蹴り、駆けて行く。

 リリーナという人物に会う決心を胸に抱きながら。




 はぁ、と白薔薇姫様はため息を漏らした。

「知ってるけど、あなたとは全然タイプが違うわよ」

「どういうこと?」

「手助けしてくれる仲間が欲しいのでしょ? イイコではあるんだけど、あなたみたいに勇気は備わってない子よ。危険なことには回避したがるわ」

「…………」

 無理強いをするべきではない相手か……とリリーナは悔しそうに俯いた。ならば別の策を……と思考を変えようとしたその時、


 背後の茨がざわざわと揺れた。


 リリーナが驚いて振り向くと、白薔薇姫は

「あらぁ、すごいタイミング。通して」

 と薔薇の迷宮に入る許可を出した。

 茨の扉が開かれ、そこには一人のメイトが立っていた。

「あなたは、さっきの…」

 リリーナが静かに驚くと、

「あのっ、助けてくださいっ! お願いしますっ!」

 ココは勢い良く頭を下げて懇願をしたのだった。

 まさかの手助けを求めようとしたら逆にいきなり求められる展開。リリーナは少し眉間にシワを寄せたが、

「助けるって、何を?」

 落ち着いた声でココに訊ねた。

「えっ、あ、あの、幼馴染のニックが今、騎士団で洞窟に行っていて、彼にすぐに会わなくちゃいけなくて、その」

「幼馴染に会ってどうしたいの?」

「や、それは…その、大切な人を止めたくて。でも、一人じゃ出来なくて……」

 ココは話しながら大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を流す。

「ニックがいないと何も出来ないんですっ。でも、一人じゃ洞窟にも怖くて行けなくて…」

 次第にココの瞳は赤く染まり、鼻まで啜っている。


 確かに、彼女では頼めない。


 とリリーナは静かに判断をした。危険を伴う人助けを彼女が協力をするとは考え難い。

「私一人じゃ何も出来ないから、助けて欲しいんです」

 だがその前に、彼女に気付いてもらいたいことがある。

「何も出来ないことはないわ。私はいつもあなたに助けてもらっている」

「え……」

 リリーナは凛としながらライトグリーンにローズピンクが濁った瞳を真っ直ぐにココに向けた。ココの涙で赤い風色の瞳に。

「植物たちに埃が被さった時、いち早く綺麗にしてくれているのでしょ? 本当に助かっているわ、ありがとう」

「………」

 自分が褒められるなど全く予想をしていなかったココは鼻を啜りながら胸が熱くなり、さらにぽろぽろと涙を流した。

「お、お役に立てて……っ…嬉しいです…っうっぅぅっ、うわぁぁ〜〜っっ」

「ちょっと、落ち着いて」

 ついに子どものように泣き声を上げるココにリリーナは戸惑い、優しく彼女の背中を擦った。

 すると、


「何泣いているんだよ」


 逆光を浴びながら一人の青年が茨の扉から入ってきた。

「ニック! ニック……ニックぅぅぅぅ!!!」

 彼の姿を見て安心をしたココは彼の胸に抱きついた。

「離せよ! わ、鼻水、汚えな!」

「ひどいっ!」

「で、あんたがこいつを泣かしたのか?」

 ニックがココを庇うようにして立ち、リリーナに睨みつける。

「…………そうですね、私ですね」

 まぁ言われてみればそうなるかな、とリリーナは淡々と答えたが、ニックは一瞬怒りを爆発しそうになると、

「違うの! 私が勝手に泣いてたの!」

 ココがガシッとニックの腕をぎゅっと握って止めた。

「でね、リリーナさんはね、本当は良い人なの、たぶん」

「たぶん?」

 ニックが怪訝そうに聞いたが、リリーナ本人も引っかかる。

「植物たちも頼ってって言ってたし、あのね、教会の野菜を育てていたのもリリーナさんだったの!」

「あの野菜を……!?」

「そう、だからね、その、ニックにダメって言われたけど、大丈夫かなって思って、ニックを探すのを手伝ってもらおうかと思って」

 もにょもにょと小声になって喋るココを見て、

「ならイイヤツじゃん」

 サラッと言ったのだった。

「ふぇ?」

「教会に野菜を寄付してずっと助けてくれた人だったんだろ? 俺でもそれを知ったら味方だと思うし」

「怒らないの…?」

「何でだよ」

「ニックの言いつけ破ったから………」

 恐る恐る言うココを見て、ニックはふぅっと軽く鼻から息を漏らし、

「ココが一人で判断出来たことなんだろ? なんとなく大丈夫そうかと思ったとか言ったらキレるけど、ちゃんと判断材料見つけて出した結果なら怒るわけないだろ」

 呆れることなく甘やかすこともなく、ただ真っ直ぐにココの行動を褒めた。

「ニック……」

「で、何で俺を探していたんだよ」

「あ、そうだった! あのね、セティーのことなんだけど…」

「セティー?」

 それまでずっと黙って見守っていたリリーナがついに会話に交ざる。

「筆頭魔道士様のことですか?」

「えっとぉ、はい、まぁ。ちょっとセティーを止めたくて…」

「止めたい? アイツがどうしたんだよ」

「その、守りの森に王が率いる兵隊と一緒に攻め入るみたいで……」

「はぁあああああっ!? 何言っているんだ、あの馬鹿! 俺が止めてくる!」

「お待ちください。説得に向かう前にやらねばならないことがございます」

 リリーナに止められ、間もなく追い掛けようとしたニックがハッとして動きが止まる。

「隊の一人一人が王に人質として家族が捕らえられていて、彼等を解放しないと、上級魔法たちが王に逆らえないのです」

「何故知っている」

 ニックに真剣に聞かれ、リリーナも彼を信頼し、答えた。

「私は植物と会話が出来ます。魔力の強い葉に予め会議室に潜んでもらい、彼経由で情報を得ました」




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