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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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2−2

「急に上級魔法使用者を集めて何を企んでいるんだ」

 苛ついた様に口火を切ったのは王の実子のアレスフレイム。

「王子、そろそろ陛下に対する礼儀を身に着けたらどうた!」

 反論をするのは王の腰巾着、ジーブル。

「まぁ良い、今日の私は実に機嫌が良い。世界の神となる日が近付いているのだからな」

 何を意味不明な戯言を吐かしているのだ、とジーブル以外が白い目で愚王を蔑む。

「セティーが間もなく帰ってくる。到着次第、迷いの森へと出発する。太陽の丘を目指すためにな」

 太陽の丘、と聞いてアレスフレイムとノインが心臓を跳ね上がらせた。エドガーから事前に何を企てているのか聞いてはいたが、実際にその名を愚王の口から聞くと心臓に悪い。

「太陽の丘…………?」

 その名を初めて聞いた騎士団の団長のアンティスが怪訝そうに訊ねる。

「我が国にある幻の地だ。その地に住む太陽の丘の魔女が全属性の魔法を使いこなすと言う。迷いの森を突破した先にある最強の戦力だよ」

 結局戦争のことしか考えていないのか、と誰も賛同をしようとはしなかった。ジーブルを除いては。

「しかし迷いの森は生きて帰ってきた例がありません。幻の地に行くのに条件が不要とも考え難い。わざわざ死にに行くような行為ではないでしょうか」

 流石騎士団の頂点とも言えるべく、アンティスは国王相手にも果敢に反論。

 だが愚王は「ハハハハハッッ!!!」と笑い声を上げ、


「死ぬ気で太陽の丘の魔女をお前等が捕まえるんだよ。家族を殺されたくなければな」


 残酷な言葉を言い放った。途端に緊張感が一層増す。

「父上! 王として有るまじき恐喝です!」

 王太子としてマルスブルーが声を荒げる。

「お前は戦場へ行っても役立たずだから大人しく城で待っていろ。裏切り者が出ないように見張りながらな」

「なっ!」

 すると、愚王はジーブルに視線を向け、ジーブルがそれを合図に手の平サイズの特殊な箱を取り出し、円卓の上に向けた。

 箱から薄い光が放たれ、何やら映像を映している。

「これは……っ!」

 牢屋に眠る人々の姿。

「スティラ!!!!」

「母さん!!」

「私の母もいる!!」

 王太子妃のスティラフィリーまでもが牢屋で眠らされ、ノインやエレンの母などその場に居る者の家族が人質となっていた。

「王と言えども大罪だ!! すぐに解放しろ!!!」

 アレスフレイムが立ち上がって剣を引き抜いて父親に向けるも、愚王は全く怯もうとしない。

「牢屋を守る兵士の家族はジーブル領で梗塞している。彼等も家族を守るために牢を開けるとは思わんが」

「貴様ぁぁああっっ!!!!」

 アレスフレイムが身を乗り出して剣を振りかざそうとすると、背後から大きな男に羽交い締めにされて止められた。彼は王専属騎士団のリーダー、プロディオ。

「殿下、やめてください!! 私の婚約者も捕まっているのです!!」

「ヒッヒッヒ、そうだぞ、第二王子。この牢にはさらに細工があってな、鍵を開けずに壊そうものなら上にある爆破装置が働いて皆粉々になる。我が領地にある牢も同じだ。鍵は持ち運んでいないから私を殺しても見つからないぞ」

「こいつら……ッッ!!」

 アレスフレイムは悔しそうにグッと手を握りしめる。震えるほど力強く。

「……………我々が壊滅したらどうなさるおつもりですか」

 震えながらアンティスが聞くと、愚王は笑ったまま答えた。

「牢の者を解放してやろう。自ら命を絶ったわけではないならな」

 全員が行くしかないと怒りと絶望で言葉を失っている。何とも不吉な空気が漂う。


 その時、風が舞った。


 部屋の中心部を螺旋を描くようにヒュゥゥゥゥと不気味な音を立てながら吹く風が。


「大変長らくお待たせ致しました、国王陛下」


 上質な厚手の白いマントがはためく。筆頭魔道士の名に相応しい高級な魔導着を身に纏った美しい颯爽とした緑色の髪の青年が部屋の中心に浮かんでいる。

「おぉぉぉ、セティー! よく帰ってきてくれた! さあ、迷いの森へ攻め込むぞ!!」

 その青年は愚王にも怖いくらいに美しく微笑を浮かべた。だが目は笑ってなどいなかった、彼の風色の瞳は。




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