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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第四章 迷いの森へ
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1−1 ココとニック

「い〜やぁあああああ!!!! ニックのバカ〜〜っっ!!!!」


 その日の騎士団の宿舎の朝は騒がしかった。


「バカっ! バカっ! バカっ! 服ぐらいちゃんと着ていなさいよ!」

 上半身裸の若手の騎士に枕でバンバンと思い切り叩くメイドの姿があった。彼女の名はココリッシュ、通称ココ。白銀と金の中間とも言える美しいプラチナブロンドの髪を頭頂部に左右に小さなお団子でまとめ、背は小さめだが、卵型の顔に大きくてクリクリとした目が特徴だ。彼女の瞳の色は森を駆け抜ける風を彷彿させるような美しい緑。

 一方彼女に叩かれている若手騎士の彼の名はニック。全く他色の無い金髪で少し天然パーマがかかった短髪に、瞳はやや茶色。騎士に相応しくしっかりとした筋肉を身に着けているが、どちらかと言えば細身の体型であり、身長も然程高くは無い。

 8名の相部屋に他の騎士達は着替え終わってシーツ等を所定の場所に置き始めているが、

「悪かったな! 俺だって年1ぐらいは朝寝坊するんだよ!」

「偉そうに言わないでよ! 早く着て〜〜!!」

 どうやらニックの逞しい上半身裸の生肌にココが目のやり場に困って言い合いをしている模様。

「朝からうっせぇなぁ。ち○こ見せてるわけじゃねぇから良いだろ!!!」

 下品な言葉にココは顔を真っ赤にして、

「ニックなんて、最っっっ低〜〜〜〜!!!!!」

 ニックの枕を彼に投げつけると、逃げるようにして他の部屋の掃除へと走って出て行った。

「おいおいニック、お前もそれくらいにしないと、本当に嫌われるぞ?」

 ココが部屋から出ると、同室の同年代の騎士がやれやれと声をかける。

「うっせ」

 ニックは少しバツが悪そうにしながらも、ほんのりと頬を赤く染めていたのだった。




「あらやだ、帽子が」

 容赦無い日差しから令嬢を守る帽子が心地良いはずの風に飛ばされ、帽子が木陰を好むかのように葉が青々と生い茂る木の枝に引っ掛かってしまった。

「お父様に買ってもらったばかりの帽子なのに、どうしましょう」

「あんな高い所ですもの。もう一度風が運良く運ぶことを祈るしかないかしら」

 図書館に向かおうとしていた二人の貴族の娘が困ったようにして木の上の方にある帽子を見つめていた。


「そこで待ってな、お嬢さん」


 娘たちが振り返ると余裕の笑みを浮かべるニックが居た。

 彼は白い襟付きのシャツに茶色のベストを前開きで羽織り、茶色のカーゴパンツにブーツという、一見して騎士には全く見えない服装。シャツの裾に隠された腰に留めてあった鞭を手に持ち、ビュンッと一振りすると解けて数メートルの長さとなった。さらにそれを上に向かって振ると、木の枝に器用に巻かれ、彼は鞭を引っ張りながら勢い良くジャンプをすると、軽々と帽子が引っ掛かっていた枝へと飛び乗る。そしてそっと帽子を手に取って、あろうことかそこから一気に飛び降りると、貴族の娘たちは思わず目を閉じたが、


「ほら、もう風には気を付けろよ」


 ふわっと頭に帽子が被さると、ハッと目を見開いた。

「あっ、ありがとうございますっ!」

 娘がお礼を言うと、ニックはフッと笑って軽く手を振り、小走りで日差しが強い道へと去って行った。

「あっちって騎士様の訓練場よね。見習いの方かしら。素敵、また会いたいわ」

 うっとりと彼の後ろ姿を見送る娘に対し、彼女の友人が

「あの方は騎士だけど、やめておいた方が良いわよ」

 蔑んだような瞳で忠告をした。

「あらどうして?」

「あの男の名前はニック・カトリック(・・・・・)、孤児出身よ」

「まぁ………」

「ついでに彼の幼馴染みたいなメイドも働いているんだけど、その女も孤児出身なのよ」

「じゃあ、あまり近付かない方が良いわね。良かった、知らないで声をかけちゃうところだったわ」

「物乞いされたら嫌だものね」

「ほんとほんと、貧しい人は知性が無いもの」




「何よ、ニックのくせにカッコつけちゃって」

 ココが建物の上の階の窓から彼が遅刻をしないか見守っていると、予想外の光景を見てしまった。場所が遠かったため、会話は聞こえていないが、ニックが身奇麗な貴族の娘を助けたのははっきりと見えた。

「私にはすぐ意地悪するくせに。子ども扱いしてきたり、っていうか同い年なのに。チビとか、貧乳とか言ったりしてくるのに。今朝だってち…………とか」

 ブチブチと日頃の不満を垂らしながらもニックの姿が見えなくなるまで密かに見届けると、打って変わって今度は別の人物が歩いているのを見つけた。

「アンティス様だ………っ!」

 思わず目より下を窓枠から隠くれるようにしてしゃがむ。ココは覗き見をしながら騎士団団長のアンティスが堂々と城へと歩いて行くのを目を輝かせながら瞬きもせずに見つめていた。ほわわわわわっ、と乙女の表情に豹変させながら。

 やがてアンティスの姿が完全に見えなくなると寂しくはあったが、顔を赤くしながら興奮冷めらやぬ様子で立ち上がる。

「見れた、今日は今朝からアンティス様を見れた〜っっ! よぉし、今日もお掃除頑張ります!」

 騎士達は出払ってもぬけの殻となった宿舎。逞しい男たちの汗等、たった一日で充満する臭い。宿舎内は小柄な彼女一人だけであったが、部屋は幾つも有り、容赦無い空気が彼女に清掃の試練を与えるかの様。

 気合十分。ココは宿舎の長い廊下を駆け抜け、全室窓が開いていることを確認すると大きく腕を広げ、


風・(ウィンド・)光ノ浄化(フォス・エーセリアル)!!」


 魔法を唱えると、彼女から風が舞い、同時に無数の光の小さな粒が放たれて飛ばされて行く。

 一瞬で男たちの臭いが消え、清々しい空気の風が流れる。宿舎内が日光消毒されたかのように。


「今日も太陽の恵がありますように」


 彼女は幼い頃からの日課で、陽の光を浴びながら一礼をした。

「今日も笑顔で頑張るね、お母さん、お父さん」

 そして、首元からそっと小粒の宝石が付いたネックレスを取り出して、ぎゅっと握りしめたのだった。彼女の瞳と同じ、風色の宝石を。




数ある作品の中からご覧いただきありがとうございます!


第四章の幕開けです。

いきなり新キャラしか登場しないシーンから開始。もう本当にこの人たちを書きたかったので作者はわくわくしっぱなしです。


本章もよろしければご覧いただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。

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