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5−5
無機質な空間にリリーナは倒れて眠っていた。
幾つもの茨で縛られた白い扉の先に居たフローラも、ゆっくりと目を覚ます。立ち上がり、扉の前に立った。
僅かに出来た扉の隙間から、リリーナを覗く。
「……………私には魅了の魔法をかけるしか出来なかった」
長く柔らかなウェーブのかかったローズピンクの髪が揺れる。
「死にたくなかったから、それしか方法が無いと思ったから」
遠くからリリーナを見下ろすと、彼女は安心しながらも疲れた顔で眠っていた。
「どうして。どうしてアナタには出来たの…………」
すると、一本の茨の弦が静かに消えた。
音を立てずに。
だが、フローラの居る扉の先の音は僅かにだが大きくリリーナの方へ漏れてきた。
バチッバチと熱く弾く炎、それと、人々の言葉にならない叫び声が。
フローラはそっと扉を閉める。孤独を背中一杯に抱え込むように頭を垂れながら。




