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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
86/198

5−4

 アレスフレイムとアレーニとノインが太陽が描かれた絵の先にある隠し通路を通り抜けると、目の前に現れたのは石で作られた螺旋階段。

「どこまで続くんだ」

「わからないねぇ。走って上るよりも、飛んだ方が早いかな」

 とりあえず階段を駆け上がろうとするアレスフレイムだが、一方アレーニは落ち着いた素振りでポケットから小さな金色のコンパクトを開くと、一匹の黄金色の蜂が羽撃いた。


蟲ノ(インセクト・)巨大化(ハルクアウト)


 アレーニは手の平を上に向けてふぅと息を吹き掛けて蜂に向かって魔法を唱えると、蜂は巨大化し、透明だが羽を黄金色に美しく震わせていた。

 アレーニは黒く毛羽立った蜂の胴体に勢い良く乗って跨り、

「王子クン、乗って。悪いけどお付クンは定員オーバーだから自力で来てネ」

 アレスフレイムに促すと、アレーニのすぐ後ろに彼も飛び乗った。

「良い子だね」

 アレスフレイムを乗せても全く嫌がらなかった友にアレーニは頭を撫でた。

「全速力でボクたちを上に連れてってくれ!」

 彼の言葉を合図に蜂はブンブンブブブブ!!! と大きな羽音を響かせながら螺旋階段を飛び回る。背後にいたノインは羽が生み出した風に吹き飛ばされそうになり、慌てて壁へ手を付け、風が弱まると自分の足で階段を登り始めたのだった。


「もうすぐ着くよ!」


 羽音に負けないようにとアレーニが大声を上げると、蜂は最上階の扉の前に止まり、彼等は蜂から降りた。

 目の前にあるのは六色の頑丈そうな大きな観音扉。

 試しに取手を持ってアレスフレイムが開けようとするが、無論開くことは無い。剣で切ろうとしてもビクともしなかった。

「クソッ!!」

「魔封じのしかけが施されてるかな? 中から魔力が一切感じられない」

 アレーニが扉の前で指を曲げて顎に添えて悩むと、アレスフレイムに引っ付いていた白薔薇姫の葉がヒュンッ! と舞い上がった。

「ふんっ、どーせ人間が作ったモノでしょ? 無属性、火、水、雷、土、風しか封じ込められないってことよね!」

 白薔薇姫は一段と白く葉を輝かせると、集中して魔力を溜め込み、


薔薇ノ(ロサ・)光砲(フォスカノン)!!」


 眩い光の砲を扉に目掛けて一直線に発射。

 余りもの強烈な光の砲は扉だけでなく壁までもぶち壊し、アレーニでさえも驚きで目を見開いて言葉を失っていた。


「リリーナ!」


 壁が砕かれていく中、燭台を振りかざすリリーナの姿とそれに追われていたがこちらに気付いたシャドの姿をアレスフレイムは真っ先に見つけ、剣を引き抜きながら彼女等の間に立った。

「クソぉぉ!!! 邪魔をするな!!」

 魔封じの扉が破壊されたのを見ると、シャドは片手を上に掲げて炎の球を召喚しようとしたが、


 ブスッッッ!!!


 腕の長さ程の長く細い針が彼の手を貫いた。

「グッぁあぁあぁああっっ!!!!」

 痛みでシャドが手首を押さえながら叫び声を上げると、扉のあった先にアレーニが指をシャドの方へ向けて立ち、彼のすぐ後ろには毒針を射った巨大な蜂が圧力を掛けるように羽音を轟かせていた。

蜘蛛ノ(アレニ・)神糸(テオスフィル)

 そしてアレーニは魔法を唱え、両手の全ての指先から白銀の絹糸のような蜘蛛糸を放ち、忽ちシャドの全身を拘束。

「クッッ!!! この時を俺はずっと待っていたんだ! フローラ!! フローラァァ!!! 今度こそ俺のモノに!!」

 2000年前の国王、グリードフレアがシャドの前世として彼の人格を支配しながら尚もかつて狂おしい程愛した女神を欲しようと、血管が浮き出る程全身に力を込めて抵抗をしようとしていた。

「シャド、いや、グリードフレア。君をアンセクトに連れて行くよ」

 アレーニが次に強制送還の魔法を唱えようとしたその時、


「待って」


 意外にも止めたのはリリーナ。

「このまま戻っても彼は再びフローラを求めるわ。生まれ変わっても」

 リリーナはそう言いながらシャドの前に立ち、彼に両手を向けた。


「私が貴方を鎮める」


 フローラ、もう恐れないで、と願いながら。


聖水(アスモス・)噴流(ジェットフロー)!」


 リリーナの手から勢い良く溢れ出した聖水は、真っ直ぐにシャドを倒れさせる程力強く彼の全身を打ち、一瞬でずぶ濡れになった彼の身体からはグリードフレアの影が薄れていき、そして次第に完全に消え、シャドは意識を失っていった。

「…………歪んだ魂が消えている」

 倒れたシャドの横にアレーニが立ち、彼を縛っていた蜘蛛糸を消した。グリードフレアが完全に消えたと確認をすると、指で円を描いて黄色の輪を召喚させ、輪を寝ているシャドに潜らせるとシャドの姿も消えてしまった。アンセクト国に送ったのだろう。


「………っっ」


 殺されずに済んだ、殺さずに済んだ。

 恐怖心を隠しながら幽閉されていたリリーナは緊張の糸がまるで切れたかのように、涙ぐみ、胸に飛び込んで行った。

 アレスフレイムの胸に。

 震えるリリーナをアレスフレイムは力強く抱き締め、

「怖かったろう! よく無事でいた!」

 労いの言葉をかけると、リリーナは彼を抱き返した、震える手で。

「殿下……助けに来てくれると…信じてました……っ」

 二人の絶対的な信頼関係を目の前で見させられ、アレーニはふぅと息を吐くと彼等の邪魔にならないようにと静かに巨大蜂の前に行き、友を元の大きさに戻した。

 はぁはぁとした息遣いが階段の下の方から聞こえてきて、

「お姫サマ救出したよ、今イイトコロだから邪魔しない方が良いんじゃないカナ」

 アレーニは駆け上がって来るノインにひそひそ声で伝えると、ノインはなるべく気配を消しながら最上階へ向かうことにした。


「もう大丈夫だ」


 彼女を安心させるべく、アレスフレイムがライトグリーンの頭をそっと撫でる。


 安堵を覚えたのはリリーナだけでは無かった。


 フローラもまた、グリードフレアに追われないと思うと、潤んだ瞳を長い睫毛でそっと閉じた。


 そしてリリーナもアレスフレイムの腕の中で眠りに落ちたのだった。




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