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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
84/198

5−2

「お昼はどうするんですか?」


 先程アレーニに連行されたはずのシャドがまたしばらくすると戻ってきた。突如リリーナの背後に魔法で姿を現し、気配もなく近寄りながら声をかける。彼の手には何やら竹ひごで作られた小さなお弁当箱が。

「シャド様。昼はいつも厨房で友人といただいておりますが」

 しつこいな、とリリーナは若干煙ったそうに答えた。丁度中庭で作業を終えたところで、ジョウロを持って裏庭へと片付けようと思っていたところだった。

「良かったらサンドイッチ食べませんか。僕が作ったんですけど」

「申し訳ございませんが手が汚れておりますので」

「一口だけでも食べてください! ほら、僕が口に運びますので」

 食べれば満足して解放してくれるかと思い、リリーナは渋々口を開けた。


 彼女の口に彼が育てたサンドイッチが運び込まれる。彼が育てた薬草入りの物が。


「っ……何をっ……」


 口に入れた瞬間にリリーナの意識が朦朧とし、倒れ、その瞬間にシャドが欲深い笑みを浮かべながら彼女を受け止めた。


「ずっと会いたかったよ、フローラ!!」


 すると白薔薇姫の根が地中から外へと勢い良く現れると、彼は根に向かって手を伸ばし、

「植物共、再び庭を焼け野原にしてやろうか! あの日のように!!」

 笑いながら手のひらに火の玉を溜めると、白薔薇姫は悔しながらも庭一面に防御魔法を覆うことに徹した。

 するとシャドは「ハハハハハッッ!!!」と口を大きく開けて笑い声を上げると魔法で姿を消してしまった。リリーナと共に。

 残ったのはサンドイッチのお弁当箱とライトグリーンのジョウロだけだった。



「では、表向きな協定は結べないにせよ、ボクたちは相互助け合うということを約束しよう。太陽の丘の民のことやフローラについても新たに情報を得たらまずは君に教えることにするよ」

「助かる」

 長らくアレスフレイムとアレーニ、そしてノインで執務室で話し合いをしていると、


「アレスくん!!!!!!」


 窓の外から白薔薇姫の叫び声がアレスフレイムとノインの耳に届いた。


「シャドが!!!!」


 と同時にアレーニも蟲の助けを呼ぶ声が聞こえ、三人は反射的に外を見ながら立ち上がる。

「ボクの連れが何かしでかしたみたいだ…!」

「リリーナに何かあったらしい…!」

 三人は勢い良く執務室を出ようとしたが、突如部屋の中心に薔薇の魔法陣が浮かび上がった。

「これは?」

「中庭に居る上級魔法を使う植物の魔法だ。アレーニ国王、付いてきてくれ」

 三人は勢い良く魔法陣を潜り抜けると、茨で囲まれた小さな城、バラの迷宮に行き着いた。

「何が起きた、白薔薇」

 神々しく君臨する白く光る白き薔薇を見ながら話しかけるアレスフレイムを見て、彼も植物と話せるのかと驚いた。

「リリーナターシャが攫われたわ!」

「攫われた!?」

 恐れていた事態にアレスフレイムは発狂しそうになるも、努めて冷静さを維持する。

「恐らく犯人はボクの連れのシャドだ。蟲が彼の人格が豹変したと言っている」

「そいつは今どこに」

「わからないわ。庭に張った結界を通った形跡は無い。恐らく、城のどこかよ」

「ノイン、手分けして探すぞ!」

「待って、王子クン」

 今すぐにでも探しに行きたいアレスフレイムだが、至って乱れていないアレーニに呼び止められる。

「その薔薇ちゃんに聞いてもらっても良いかな。シャドは何に変わったの? って」

「は?」

「彼の言葉なら薄っすらだけど聞こえるわ、アレスくん。そのシャドって青年が表した前世が」

 白薔薇姫はつばを飲むように間を空けた。


「グリードフレア。グリードフレア・ロナール、2000年前の国王であり、ロナールや世界を火の海にした人物よ」


 アレスフレイムとノインは驚愕し、咄嗟に何も言葉が出なかった。

 以前王城敷地内の図書館の秘密の部屋にて偶然彼の手記を見つけたが、彼はフローラとは恋人だと書かれていた。

「薔薇ちゃんは何て?」

 アレーニに声をかけられてアレスフレイムたちはハッとした。

「2000年前の我が国の王で、グリードフレア・ロナールという者だ。魔女フローラとも関係が深い」

「厄介だね。君の城はからくりが多そうだから、見つけにくい場所に隠れていそうだな。では、急ごう」

「待って」

 すぐにでも城へと探しに行こうとするアレスフレイムたちを呼び止めたのは白薔薇姫。


「私の葉を一枚摘んで行きなさい」


 意思の堅い声ではっきりと白薔薇姫が命令をすると、隣に立つ赤薔薇のナイトが

「姫様!? なりません! 貴女の寿命が縮まります!」

 即座に枝を伸ばして止めようとした。

「今は緊急事態よ、彼女を救出するのが最優先だわ。アレスくん、時間が無いわ、早く!」

 アレスフレイムは躊躇いを一瞬見せたが、白薔薇姫に速歩きで歩み寄ると、彼女の葉を一枚、一気に枝から抜き取った。

「つっ………! いい子ね。さぁ一緒に連れ戻しましょう」

 白薔薇姫は苦しそうに茎を揺らしながらも、気丈に摘み取られた葉も白く輝かせた。

「ボクに付いてきて。城内に居るボクの友達が見たって言うから」

 アレスフレイムとノインがささっとアレーニに近付くと、

周囲転送(エリア・テレポート)!」

 とアレーニが唱え、彼等は城内へと消えた。




「ここは?」

 彼等が着いたのは単に1階の廊下の端で、行き止まりとなっている場所だった。壁には額縁に入った美しい風景画が飾られている。

「この先なんだね、有り難う」

 アレーニが何やら天井に向かって礼を述べる。彼の視線の先には一匹の壁の色と同色の蜘蛛が這っていた。

「行き止まりですね」

 ノインが訝しげに言うと、アレーニが

「絵を見て。空に何が描かれている?」

 彼等に絵を見るようにと促した。


「………太陽!?」


 図書館の隠し部屋へと続く目印ともなっている太陽と同じ絵が描かれていた。

「正解!」

 アレスフレイムにアレーニがウインクすると、アレスフレイムがアレーニとノインに手を差し出した。

「捕まってくれ。中に突っ込む。白薔薇も俺から離れるなよ」

「ボクのことも離さないでね」

「畏まりました」

「強い魔力を感じるわ。アレスくんも油断しないでね」

 皆がアレスフレイムに力強く捕まると、アレスフレイムは壁に向かって躊躇うこと無く足を突っ込ませると、壁がぐにゃりと歪み、彼等は未知の城内へと進んで行った。



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