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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
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5−1 魅了Ⅱ

「僕ですか!? まだロナールに残っていたいです! 異国で学べることが山程ありそうなので」


 世話対象のハニビが強制的に帰国したのに対して、付き人のシャドにもアレーニが先に戻るか聞いてみると、普段控え目な性格の彼が目を輝かせて残りたいと答えた。

「わかった。じゃあ明日ボクと一緒に帰ろう」

 まぁシャドはハニビと違って邪魔をしないしせっかくこんなにも意欲的だから良いかな、とアレーニもすんなり承諾をした。

 この選択を彼が後悔するとはこの時はまだ知る由もない。




「おはようございます! 朝も早いんですね!」

 リリーナが中庭で花壇の手入れをしていると背後からシャドが声をかけた。彼はリリーナと同じくらいの年齢で、背は高くもなく短髪茶髪。ごく普通の青年である。

「おはようございます。そうですね、陽射しが強くなる前に一通り済ませるようにしているので」

 リリーナがしゃがんだまま作業を続けていると、シャドも横にしゃがむ。

「僕は薬草の研究もしているのですが、もっと朝早くに水やりとかした方が良いのかな」

「植物もそれぞれですので、食事のタイミングの好みに違いがあるかもしれません」

「そうですよね! いやぁ、本当にここの植物たちは見事だなぁ!」

 内心リリーナは作業に集中したいから邪魔だなと思っていたが、無下にも出来ずに適当に相槌をする。

「ありがとうございます」

「肥料は自分で選んでいるんですか?」

「そうですね」

「他に庭師はいないんですか?」

「そうですね」

「園芸は独学ですか? 誰かに教わったんですか?」

「本を参考にしてます」

 ぐいぐいと質問攻めのシャドに対してリリーナは花壇を見ながら答えを一言で済ましていく。


「何か特別な魔法を使ってますか?」

「いいえ」

 

 シャドはニヤニヤと笑みを浮かべながら質問をしたが、リリーナは顔色一つ変えずに涼しげに答える。


「普段どんな魔法を使うんですか?」

「魔法は使いません」

「じゃあ、植物と話せたり?」

「出来たら良いですね」


 あまりにも素っ気なく答えるリリーナにシャドは彼の中に眠るとあるモノが次第に顔を出そうとしていた。赤黒い感情が。


 何故だ、何故戸惑いを見せない。

 何故怯えない。

 何故頭から離れられない程恐怖を抱かない。

 天真爛漫な女神の君も愛していたが、

 僕の顔を見るだけで絶望的になる君も堪らなく愛していたのに。


「シャド、何しているの?」


 突然、転移魔法で背後に現れたアレーニに声をかけられ、シャドはびくっと振り向いて立ち上がった。

「アレーニ様、アレスフレイム様とお話中だったのでは」

「ちょっと気になったから来ちゃった。彼女は仕事中だよ、邪魔しないでね」

 アレーニに指摘をされ、シャドは一瞬ぐっと手を握りしめた。

「申し訳ございません……っ」

「ふぅ、薬師もいるみたいだよ。紹介してもらおう」

「……………はい」

 シャドがアレーニの方へ向くと、アレーニはそっとリリーナに目を合わせて軽く会釈をした。そして二人は転移魔法で姿を消す。


 蟲たちが来たほうが良いと呼ぶから来たが………アレーニは少し違和感を覚え始めていたのだった。




 遥か昔の記憶と大差の無い城内。


 彼は懐かしみながら廊下を歩いていた。


 魔力持ちによって作られた我が城。

 女神が歩くだけで男たちは心を奪われ、彼女は泣きながら魔法をかける。

 彼女を求め、欲望のままに手を伸ばす日々。

 あの日をもう一度……………。




「悪かったね、急に抜け出して」

「本当に急だったな」


 執務室ではアレスフレイムとノイン、そして魔法で戻ってきたアレーニが向かい合って座っていた。

「王子クンさぁ、リリーナターシャって何者なの?」

 戻ってきたかと思えば今度は一番答えたくもない質問をかましてくる。アレスフレイムは眉間にシワを寄せた。

「勿論、彼女を悪いように利用しようとは考えていないよ。ただ、彼女はこの世界にとって異質的な存在だ。ボクが今回ロナールに来た目的は、君と協力し合う約束をすること、そして彼女が悪の存在か確かめること」

「何故彼女を知っていた」

 おっと隠す気も無くなってきたね、とアレーニは少しニコッとした。

「ボクの友達から聞いたんだ。魔力が桁違いの庭師が居るってね」

「友達?」

「蟲さ。ボクは生まれながら蟲使いだからね」

「…………」

 ハニビを捕らえる瞬間、クモが糸を吐いていたのを覚えている。アレーニは嘘をついていないだろうとアレスフレイムは聞いていた。


 アレーニは僅かに姿勢を正すと真っ直ぐにアレスフレイムを見つめて言い放った。

「ボクは太陽の丘の民の遠い末裔とも言われてる」 

 太陽の丘、それは愚王が太陽の丘の魔女を捕まえようと企んでいる場所の名でもあり、リリーナに潜んでいる魔女フローラの故郷。

「その表情は何か知っているね。リリーナターシャはかなり濃い血を継ぐ者かとも思ったんだけど、違う?」

「正確に言えば違うが、知ってどうする」

 するとアレーニは立ち上がって窓の外を見つめた。

「君は竜を単なる人が操れると思うかい?」

「何が言いたい」

 すると、アレーニはふっと鼻で笑った。

「彼等の長も恐らく太陽の丘の民の末裔だ。ボクは特別な血を引いているから蟲と話す力を得ている。太陽の丘の民は女は特に魔力が強く、男は普通の人間が話せないような生き物と会話が出来るようになると言われているのさ」

「太陽の丘は今もロナールに存在をしているかもしれない」

 アレスフレイムが極秘とも言える情報をアレーニに教え、ノインは緊迫した表情を浮かべた。

「彼女は太陽の丘からやってきたのかい?」

「いや、正確に言えば彼女の中に潜んでいるのが、2000年前に死んだ太陽の丘の魔女だ」

「……………フローラかい?」

「!?」

 何故その名を知っているのだ、とアレスフレイムたちは目を見開いた。

「大昔の手記が残っていてね。太陽の丘から降りたフローラの命が枯れたと聞いて、他の民たちが彼女の亡骸を探しに丘から降りたそうなんだ。結局見つからかったみたいだけど」

 アレーニは笑顔を失せてアレスフレイムの視線を捕らえた。

「フローラの目的は知っているのかい?」

 アレスフレイムが首を横に振るとアレーニが気難しそうな顔を浮かべていた。


 


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