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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
78/198

3−6

 元々髪が赤いアレスフレイムは怒りで増々頭が燃えているようにも見えたが、息を深く吐くと多少は落ち着きを取り戻した。


 まだアレーニを完全に信頼したわけではない。


 寧ろ何故彼女に付き纏うのかが理解出来ない。

 たが、先程は余りにもカッとなりすぎたなと彼は自身の額を軽く拳で叩いた。


 もう一度息を吐くと中庭の方へと向かったのだった。




 執務室に戻ると主の姿は無かった。

 どこへ行かれたのかと思いつつもノインは椅子に腰掛けて執務の補佐を黙々と始めたのだった。

 すると、コンコン、と叩く音が。

 扉ではなく窓から。ノインが目を向けるとカジュの葉が外からノックをしていた。

「どうしたんだい」

 ノインが窓を開けるとカジュはヒラヒラと浮き、

「荒れるフレイム降臨」

 あろうことかノインが一番苦手とする仕事の名を告げたのだった。ノインは項垂れながらも仕方なく彼の後を付いて行くのだった、胃をキリキリと痛みながら。


「な、何をしているのですか」


 着いた場所は薔薇の迷宮。中には既にアレスフレイムも居て、白薔薇姫が何やら数枚の葉で作った釜らしき物でぐつぐつと煮立たせ、木の枝で掻き回していた。

「ふふふっ、あら、前髪くん、いらっしゃい」

「何を作っているんですか」

「私の可愛い娘に変な虫がまとわりついちゃって大変なのよ〜」

 大変なのと言いながらも声色はどこか楽しげである。

「アレーニという名の虫だな!」

「そうそう」

「はぁ!?」

 荒れるフレイムから一変して上機嫌に腕を組みながら白薔薇姫を見物するアレスフレイム。他国の王を虫呼ばわりする二人にノインは狼狽えていて、白薔薇姫の隣に立つ赤薔薇のナイトは呆れたように項垂れていた。

「防虫剤でも作っているのですか」

「まさか」

「ですよね」

 ノインもホッとするのも束の間。

「殺・虫・剤♡」

 さらに宜しくない物だと平然と白薔薇姫は公言した。

「ハッハッハッ、素晴らしい、白薔薇。ぜひ虫を撃退しようではないか!」

 アレスフレイムも手を叩きながら歓喜の声を上げ、ノインは逆に青ざめていった。

「何をお喜びになっているんですか! 他国の王を殺すなど大犯罪ですよ!」

「我々が他の生き物を殺めば、あの方の命が削がれるのですよ!」

 ノインとナイトで双方の主を説得すると、主たちはやれやれとため息をついていた。

「ま、本当には殺さないわよ。でもウザいわ」

「今日は特に気が合うな、白薔薇」

 ノインとナイトはさらに深いため息を漏らすと、アレスフレイムはスッと白薔薇姫を見た。  

「今日みたいにリリーナの護衛を頼めるか」

「頼まれなくてもやるわよ。大事な娘だもの」

 白薔薇姫の返事を聞いたアレスフレイムは安心してフッと軽く笑った。

「用はそれだけだ。行くぞ」

 ノインに声をかけるとアレスフレイムは白薔薇姫に背を向けて去ろうとした。

「あなたこそ倒れないようによ、アレスくん」

 背後から白薔薇姫に心配の声をかけられると、アレスフレイムは

「心配ない」

 背を向けたまま返事をしてノインと共に薔薇の迷宮を去ったのだった。




「ねぇねぇ、オネーサン、アレスフレイムさまは恋人はいらっしゃるの?」


 王太子妃を“オネーサン”呼ばわりをして、マルスブルーと側近のオスカーはギョッとしながらハニビを見たが、スティラフィリー本人は至って微笑んでいた。妹みたいな呼び方で可愛らしいわ、とまで思っている。

 客室へと案内しながら長い廊下でハニビがスティラフィリーの横に並んで話しかけている。

「そうねぇ、恋人はいらっしゃらないけれど、想い人はいらっしゃるように見えるわ」

「恋人ではないの?」

「そうねぇ、お相手は多分アレスフレイム様に親しみはあっても特別なお心はまだ芽生えていない気がしますわ」

「ロナール国では王族からの婚約の申し出は断ることが出来るの?」

「アレスフレイム様は恐らく自然恋愛をご所望でいらっしゃるかと思いますわ」

「ふ〜ん」

 スティラフィリーよりも3歳歳下のハニビは姫らしからぬ口を尖らせながら歩いていた。

「ねぇねぇ、オネーサン」

 再び不躾な呼び方をするハニビに対して

「ハニビ様、そのお方は王太子妃でいらっしゃいます」

 慌てたようにシャドが巨大なリュックサックを魔法で背負いながら窘めた。

「あら、よろしいのですよ、シャド様。まるで妹が出来たようで気軽に呼んでもらえて嬉しいですわ」

「そんな、僕にまで様付けなど恐れ多いです」

「シャド様も他国からいらっしゃったお客様でございます。敬称を付けて当然でございます」

 美しい王太子妃に優しく接してもらい、シャドは思わず顔を赤らめた。

「ゴホンッ」

 するとマルスブルーがあからさまに咳払いをした。

「そちらの荷物はとても多いですね。魔法で背負えているみたいですが、シャド殿も魔法に長けているのですか」

「アレーニ陛下程強くはございません」

「お兄様は最強だから! アンセクト国の国民のほとんどは魔法が使えるのよ」

 腰の低いシャドと違い、ハニビはふふんっと自慢気に答える。

「それにこの国って服装に個性が無いのね。み〜んなおんなじ格好に見えるわ」

 ハニビの服装は黒い襟に黄色の短い半袖ワンピースに黒いショートパンツに白と黒のボーダーのタイツに黒い厚底ブーツ。女性はドレスかスカートを履く文化のロナールではそのような服装は奇抜なファッションと見倣される。

「皆と似たような服を着なければ、魔女だと囁かれることもございますわ」

「なにそれ、変なの」

 ハニビの受け答えにスティラフィリー以外は冷や冷やしながら眺めていた。

「こちらがハニビ姫にご用意致しました客室です」

 マルスブルーが扉番に扉を開かせると可愛らしいレース調の部屋が姿を表した。

「カワイイ!」

 早速中に入ってはしゃぐ彼女を見てスティラフィリーが優しく微笑みかけた。

「お気に召していただけて嬉しいです。私の故郷で手掛けた装飾品でございますので」

「シャド様のお部屋はお隣です」

「えっ!? 姫様の隣ですか!?」

 マルスブルーがシャドを客室に案内をすると、王族が利用をしても不思議じゃない程一級品の装飾で飾られた気品のある部屋が用意され、シャドは目を見開いた。

「こんな、単なるお付きに豪華絢爛過ぎて恐れ多いです!」

「客室はいくらでもある。ゆっくり寛いでもらえると嬉しい」

「夢のようです………ありがとうございます」

 シャドは中に入ると恐る恐る巨大なリュックを下ろした。

「シャド、私のお気に入りのドレスを出して。ディナーで着たいから」

 ハニビがシャド用の客室に入ると同時に彼に命令をすると、彼は慌ててリュックの口を開いて腕を中に突っ込んだ。

「こちらでございますか」

「違うわよ! そんなの普段着じゃない」

「これですか」

「違う!」

 次から次へとハニビのドレスが鞄から出てきて、周りの一同はまさかリュックの中身はほとんど彼女の荷物なのでは、と同情した。

「お洒落なドレスをして、アレスフレイムさまの心を釘付けにするの!」

 乙女の顔をするハニビであったが、アレスフレイムが苦手とするタイプだなと彼が不機嫌にならないか今から不安になりながらあどけない姫君を見守るのだった。




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