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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
75/198

3−3

「ここだ」

 扉番に開けさせると彼等は執務室へ入った。

「執務室か。なるほど。じゃあ、早速」

 扉が閉まるとアレーニは裾が広がったズボンのポケットから硬貨程の大きさの白い石を取り出すと、手の平からフワッと浮かせた。


 石が白い光を淡く放つと、忽ち部屋が魔法円盾に包まれた。


「これは?」

「ボクが作った魔法石。石に魔法を閉じ込めておいてボクの合図でいつでも魔法を使えるようにしているんだ。魔法を使い続けながらだと話し合いに集中出来ないからね」

 アレーニは促される前に執務室にあるソファーの上座の中心に座った。


「ゲルーの次のターゲットはボクの国だ。そして最終目標は君の国だよ。レジウムは二の次だ」


 背凭れに寄り掛かりながらアレーニはまずそう言い放った。

 ゲルー大国。世界で唯一竜騎士を備え、力任せに他国を制圧する国であり、光魔法の中級魔法を唯一世界で使用出来るレジウムの国王に対してもスパイを送ったりとまるで世界の頂点にでも立とうとする動きを見せている。

「これを見て欲しい」

 アレーニが空に2つの円を指で描くと、それぞれ何やら風景が見えて来た。アレスフレイムが見ながらアレーニの向かい側に座り、背後に立とうとするノインに目配せしてノインにも横に座らせた。それぞれの風景は街中では無く、人も居ない草原が広がっている。

「アンセクトは南北に広がっている国だ。こっちが国の北側、こっちが南側」

 円の風景に指を指して説明をすると、北側の風景に比べ、南側の方が花も多く咲き、蝶も飛び交い豊かであるように見える。

 アレーニが煙を消すように手で魔法の円を払うと、

「世界が北側から大地の力が弱まっている。北に問題が有るのか、または南に鍵が有るのか。君はどっちだと思う?」

 謎解きの問題を出すかのように薄ら笑って問い掛けた。

 ロナールは世界の最南に位置する。アレスフレイムは余計な事を言いたくはなく、

「お前はどう思う」

 逆に問い掛けた。

「簡単には答えてくれないんだねぇ。イイヨ、ボクの考えを教えてあげる」

 アレーニは体勢を変えて、アレスフレイムに笑みを向けた。

「ボクは特に自然保護に昔から力を入れててね。他の北にある国よりも作物なども豊富にある。それでも国内の南北で差異が出るから、ボクの考えは南に鍵がある方。それと、恐らくゲルーに広がっているのは荒れてひび割れた大地だ。自給自足なんか出来ない。輸入に頼れば良いのに力任せにに脅して他国から国ごと奪う形で食い繋いでいるのさ」

 ゲルーは大陸の最北にある。

「竜を死なせるわけにはいかないからな」

「そうなんだよ! 彼等の食料も半端ないだろうしね! 彼等も哀れだよ。元来竜は神聖な生き物で崇めるべきだ。ゲルーの人間に兵器にされるなんてね。心底罰当たりな連中だと思うよ」

 哀れにと竜に同情したアレーニの顔を見ると、アレスフレイムは口を開いた。


「さっきの質問だが俺は正直わからない。北を知らないから自国が特別だとかそんな認識は全く無い」

 

 リリーナの力は別格だが、世界の大地を彼女を出発点に潤しているなどそこまでの次元とは考え難い。風変わりな国王の腹の中は見えないが、アレスフレイムはリリーナに関することは伏せながら少し彼の話に付き合う姿勢を見せた。

「なるほどね〜。自国に問題が起きなければそうなるわな」

 アレーニは腕を組んで「う〜ん」と言いながらも顔をニヤつかせていたが、突然姿勢をピンと直した。 

「もうはっきり聞いちゃおうかな! 君さ、レジウムのあの仕掛けはどうやったの?」

「は?」

「ピンチの際に葉に助けられたことさ」

 レジウムが他国に話すとは考え難い。新しい庭師が女性であることを知っていたことと言い、何故この男はこんなにも情報を手に入れているのだとアレスフレイムは警戒した。

「おっと、レジウム国王が口を割ったわけではないよ。ボク独自のやり方で情報収集させてもらってるからね」

 まるでアレスフレイムの頭を見透かしているかのように尚も笑いながらアレーニは話す。

「悪いがそれもわからない。あまりにも信じられない光景ではあったが、自分に不利では無さそうだったから深く考えていない」

「そっか〜」

 漸くアレーニが笑顔を崩すと背凭れに寄り掛かり、天井を見上げている。

「君は手強いねぇ」

「詮索するためにわざわざ来たのか」

「まぁ目的の1つではあるよ。さて、1番の目的でもあるお願いをしようかな」

 アレーニは背凭れから背中を離すと今度は少し前のめりになった。獲物を捉えるような鋭い視線を彼等に向ける。


「ボクの国がゲルーに襲われたら応戦に来て欲しい。応じたら逆も約束する。ロナールが襲われたら助けに来よう」


 魔法が栄えているアンセクト国と手を組むのは国にとって悪くはない。だが、それでもアレスフレイムは警戒をした。

「何故他の国ではなく、ロナールに?」

「ボクたちが同盟を結んだことを世界に見せつけたい。これ以上ゲルーの脅しに屈する国を増えるのは厄介だ。ロナールが平和を目的に他国と同盟を組んだら世界が注目するに決まっているさ! 他の小国も同盟を組もうとする動きに変わっていくと思う。ゲルーに対抗するには世界各国が協力し合うべきだ」

「お言葉ですがそれは…………いえ、申し訳ございません」

 ノインが思わず意見を述べようとするが、すぐに身を引いた。

「流石君の側近だね、物分りが良い」

 アレーニは怒ることは無いのは勿論、寧ろ少し微笑んでいる。


 ロナールが平和を目的に他国と同盟を組む、そんな理想は夢物語だ。


「親父を早急に引きずり降ろせという意味か」


 アレスフレイムが静かに言うと、アレーニはにっこり笑って正解だと伝えた。


「ゲルーに対抗して世界平和を取り戻すのに1番邪魔な存在だからね」


 アレーニは悪びれず魅惑的な笑顔で訪問国の国王を蔑んだのだった。




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