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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
70/198

2−3

 訓練場から転移魔法を使ってリリーナは薔薇の迷宮へと避難をした。

「白薔薇姫、今のは…」

「先に水をちょうだい。ちょっとカラッカラなのよ。ここなら強い結界を張ってあるからいくらでも魔法を使って平気よ」

「畏まりました」 

 リリーナは白薔薇姫に言われて両腕を横に広げ、

聖水(アスモス・)散開(スケドフィリック)

 聖水をシャワーを降らせていった。

 先程の間欠泉の如く使われた水の量を考え、謁見の間を回りながら長らく聖水を撒いたのだった。


「ふぅ〜、生き返ったわ〜」


 まるで白薔薇姫が飲み干すと、リリーナは魔法を止めた。そして、白薔薇姫に身体を向け、

「今日の出来事について教えて欲しい。エレン副団長の背後に見知らぬ女性の幻影が映ったと思ったら、急に刃を向けてきた」

 真剣な表情で見つめた。

「正直に言うと私も正確にはわからないわ。恐らくだけど、前世の記憶が蘇ったのでしょうね」

「前世………? フローラみたいに棲み着いたのとは別物なの?」

「フローラについては魔力が異常だから成し得る技よ。自分とは無関係の人間に誰もが宿すことが出来たらひとたまりもないわ」

「そっか…」

「人間が言う“未練がある”ってヤツ? フローラに対する憎悪が強いと、今回みたいに前世の人格が前面に出てしまうのかもしれないわね」

「……………」

 黙って俯くリリーナを見て、白薔薇姫はふぅっと息を吐いた。

「リリーナターシャ、あなたを怖がらせるつもりは無いのだけれど、フローラと深く関わりのあった人物たちが生まれ変わって生きている可能性もあるわ。そのためにも、あなたには抵抗出来る力を身に着けて欲しいと思うの」

「…………わかったわ」

 殺意を向けられたのならショックを受けて当然よね、と白薔薇姫も言葉選びに苦慮した。

「エレン副団長に会ったらまた同じことの繰り返しになるのかしら」

「彼女が倒れる直前に魂のようなモノが抜けていく感覚があったわ。成仏っていうのをしたんじゃない?」

 確かにリリーナもそれらしき影は見えた。穏やかな顔で眠りにつく女性の顔を。

「ねぇ、リリーナターシャ」

 白薔薇姫に呼ばれて少し顔を上げる。


「今回は相手が女だから力で捻じ伏せられることは無かったわ。でも、男だったらどうする?」


「…………っ」

 先日フローラにされた警告を彷彿とさせる白薔薇姫の問いかけにリリーナは顔色を悪くしながら身震いをした。

「……………ごめんなさいね、今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んで。明日の庭仕事も休んでも大丈夫よ」

「……………失礼します」

 リリーナは一礼をし、まだ僅かに手を震わせて宿舎へと戻って行くのだった。


「ふぅ…………」

 リリーナの背中を見送り、姿が見えなくなると白薔薇姫はため息を漏らした。

「どうすれば良いのやら」

「なるようになるさ、姫様」

 ひゅるひゅるっとカジュの葉が迷宮に風に乗って舞い込んで来た。

「なるようにならなかったら、今度こそこの世は終わるわよ」

「ははっ、そうだな」

「はぁ〜」

 白薔薇姫は花弁を上に向け、茎をだらんと反らしている。


「あの子は殺さなかった。歴史が繰り返されるのかしら」


 カジュはふっと軽く息を吐き、

「リリーナとアレスフレイムが変えるさ。フローラの運命を」

 明るく励ますと、

「…………そうね」

 白薔薇姫は再び茎を立たせて優雅に君臨するのだった。




「ん…………」


 一方訓練場では間もなくエレンが目を覚ました。

 辺りでは騎士たちまでもが倒れていて、エレンは一気に覚醒をする。

「サントス!! ケビン!!」

 倒れた騎士の側に寄り、懸命に彼等の名前を呼び、首に指を添えて脈を確認した。

「生きてる……でも」


 この状況はいったい何だ?


 誰かに襲撃された記憶も無い。エレンは記憶を辿ろうと冷静に考えた。

 騎士たちの訓練の稽古をし、そろそろ庭師の彼女が来る時間だろうと気にしていて、彼女が………そうだ来たんだ。そして、私は手合わせに負けたんだ。そして…………


「リリーナターシャが居ない」


 居たはずの彼女の姿が無いことに気付くと、彼女が何かしたのか、と疑惑が生まれようとした。

 だが、すぐに払拭される。

 あんなに剣の扱いが美しく、冷静な判断も出来る賢さも兼ね備えている彼女こことだ、騎士団にわざわざ襲撃などしないだろう。


 けれど、彼女は何かを知っているはずだ。


 エレンは騎士たちが意識を取り戻すのを確認し、彼女に会おうと思ったが生憎団長のアンティスが不在の為、気に掛かってはいるもののリリーナに会いに行けずに騎士たちの混乱を収めて再び稽古に励むのだった。




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