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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
69/198

2−2

「…………魔女」


 騎士団の副団長のエレンがぼそりと言いながらリリーナを睨みつけ、リリーナはぞくりと身震いをした。


 エレンの背後に浮かぶ幻影が昨日よりもくっきりと浮かび、エレンよりもかなり年上で、母親ぐらいの年齢の女性が目に映った。

 恐ろしい程憤慨した顔を浮かばせながら。


「許せない」

「え…」

「私の家族を奪った! 夫だけでなく、息子まで!!」


 エレンが怒鳴り声を上げ、周りの騎士たちも皆、一斉に視線を向ける。


「エレン副団長、どうなされましたか。エレン副団長!」


 エレンの名を呼ぶが、彼女の人格が戻ってくる気配は全く無い。


「どうして息子と夫が死ななくちゃいけなかったのよ!!」

「副団長!」


 発狂するエレンを不審に感じ、一人の男の騎士がエレンに近付こうとするも、


「邪魔をしないで!!」


 レイピアを剛腕で振り回し、騎士は手出しが出来なかった。

「様子が明らかに変だ。副団長は未婚のはずだぞ」

「おい! 総出でエレン副団長を止めるぞ!」

 騎士たちが全員でエレンを捉えようと一斉に飛びかかって来た。

 だが、エレンはレイピアを持たない手を振り払い、


大砂嵐(サンドストーム)!!」


 魔法を唱え、砂嵐を巻き起こすと、全ての男達を吹き飛ばした。

 そして、

土ノ魔壁(ソイルウォール)!!」

 下から上へと力強く手を上げると、地面が唸り、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!!


 リリーナとエレンを四方で取り囲む土の壁が下から盛り上がって出現をした。唯一天井が開いているが、上から侵入出来ることなど不可能な程の高さがある。


「まずいぞ! 誰かアンティス団長を呼べ!!」

「見えない壁で外に出られない!!」

「何だと!?」


 外から壁を剣で崩そうとしたり、中級水属性の魔法を唱えたりと騎士たちは混乱をしながらも必死に土壁を壊そうと動いている。


「彼等に見えないようにしてくれた方が好都合ね」


 地面がひんやりと冷え、声をかけてきたのは

「白薔薇姫」

 リリーナが下に目を向けて声の主に返事をした。

 すると、エレンが大きく剣を振り上げて駆け寄り、リリーナに渾身の力を込めて振り下ろした。リリーナは間一髪で避け、胸元のポケットからカジュの葉が舞出る。

「彼女から目を離さないことよ、リリーナターシャ。事を大きくしないために結界を張ったわ。人間たちは植物の魔法を察知出来ないから気付かれないけれど、あなたは違う。あなたは魔法を使ってはならないわ。すぐ外にいる騎士に流石にこの至近距離ならバレるわよ。カジュ」

「あいよ、姫さん」

「彼を呼んでは駄目よ。理性を失ってすぐに来てしまうわ。それと殺すのも駄目。私達は傷を付けることなら出来る。けれども」


「ァアァアアアアッッ!!!!」


 叫び声を上げながら何度も何度もエレンは刃をリリーナに向けた。彼女は騎士では無かったのだろう。エレンよりも動きは雑で、リリーナでも避けることは出来る。


「さぁ、リリーナターシャ、この状況をどうする? 殺せるのはあなただけよ」


 覚悟を見せなさい、リリーナターシャ。


 リリーナは歯を食いしばりながら剣を躱したり、レイピアで止めたりと後ろ向きに下がりながら攻撃を躱していた。

「あんたのせいで! あんたのせいで!!」

 殺意剥き出しになりながらも、女の瞳からは大粒の涙が流れている。


「白薔薇姫、私は殺さないわ」


 攻撃を躱しながら方法はないかとひたすら考えていた。

 やがて、壁際に追い込まれ、

「家族の仇!!!!」

 と女に矛先を心臓に貫かれそうになった瞬間、リリーナはすぐ後ろの土壁を爪で引っ掻き、ぼろぼろになった土を彼女の目を目掛けて投げつけ、瞬時にしゃがんで突きを躱した。

「目がぁぁっっ!!!」

 苦しそうに土を払い除けようとする間にリリーナは彼女から距離を離した。

「お願い、白薔薇姫。城内の植物たちから水をすぐに分けて。ここにあなたの根から噴き出して欲しい」

「間欠泉を出して上から放り出すの? あの高さから落ちたら死ぬから出来ないわよ」

「噴き出すだけで良い。聖水が必要なの。早く!」


 シュワワワワワワワッッッ


 リリーナに急かされ、地面があっという間に水色に輝き、ひんやりとすると、


 ドパァァアァアァアアァアァアアッッッ!!!!


 リリーナの目の前に土壁よりも少し高く上がる聖水が噴き出した。


「な、何……っ!?」


 目を擦りながら女は噴水を見上げると、隙だらけとなり、リリーナは走りながらレイピアを投げ捨てた、少しでも速く走るために。手を噴水に突っ込ませ、水の勢いに負けぬよう力を込めながら手を少し丸くさせて駆け抜けると、噴水から抜け出したその手をそのままエレンの口へと押し込んだ。


 手の内側に集められた聖水がエレンの口から身体の中へと流れていく。

 そして、高く噴き出した聖水は辺りに激しい雨を降らした。


 ずぶ濡れになった二人は目を合わせていると、エレンの手からレイピアが落ち、瞳を閉じながら気を失って倒れていった。それを感じた白薔薇姫は噴水を止めた。


 スーッとエレンの幻影の女も穏やかな顔で眠りながら消えていく。


 同時に高くそびえ立つ土壁も崩れ、リリーナと横たわるエレンの姿が騎士たちに顕となった。


「エレン副団長!!」

「どういうことだ、魔女!?」


 倒れたエレンとずぶ濡れだが立っているリリーナを見て、騎士たちはリリーナが悪行をしたに違いないと今度はリリーナを抑えようと向かってきた。

「違う! 私はただ……っ!」

 説明しようにも出来ない。リリーナは逃げ場を無くし、悲壮的に身構えた。


光失記憶(ライトロストメモリー)!!」


 中庭から光の速さで飛んできた幾枚ものカジュの葉が光の粒を放ちながら訓練場一帯を飛び回った。

「何だ!? この光と葉は…………」

 光を受けた騎士たちが次から次へと倒れていく。

「カジュ、この魔法は?」

 心配そうな顔でリリーナが聞くと

「記憶を少し消す魔法だ。本当はあまり使いたくないんだけどさ」

 カジュは少し悔しそうに答えた。

「今は仕方がないわ。リリーナターシャ、ここからすぐに出なさい。転移魔法で抜け出して」

 白薔薇姫に言われてリリーナは頷き、そっとエレンに近付いて脈を首に指を当てて念の為確認をしてほっとし、

転移魔法(テレポート)

 誰にも見られることなくその場から姿を消したのだった。


 今になって、手が震え始める。




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