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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第三章 蟲の楽園からの来訪者
66/198

1−4

「ではエレン、あとは頼んだ」

「はい!」


 アンティスがその場から去ると、


「じゃ、気を取り直して、はい、これ持って」


 騎士団副団長のエレンは訓練場の壁際に立ててあった剣を二本引き抜き、一本をリリーナに手渡した。

 軽々とエレンは持っていたため、リリーナも片手で受け取ると、予想外の重さに手首からズシッとバランスを崩しそうになるが、剣先を下に向けて立ち直した。

「あら、いきなり片手持ち出来るなんて上出来ね! こんなに重たいのなんて持てな〜い、てその辺の女達はすぐに音を上げるのに」

「毎日寸胴鍋に水汲みしておりますので」

「そう、良い腕してる」

 エレンは満足そうに微笑み、片手で剣を持って構えると、

「これは小剣(レイピア)、騎士団が使うような長剣(ロングソード)よりも軽い種類になるわ。戦場向きでは無いけれど、殺傷能力は十分にある」

 矛先をリリーナの剣に軽く当てるとカンッと鋭い音を奏でた。僅かに当たっただけでも、手にビリッと金属音が響き、一層重量感が増す。

「まずはこいつを自由自在に振り回せるところからね。レイピアを使いこなせればもっと軽い短剣も簡単に使えるようになるから」

 ビュンッビュンッ、とエレンは空気を切る音をさせながらレイピアを縦に振ったり前へ突き出したりと素振りをした。

「ということで、今日は素振り縦と突きをそれぞれ100回ずつね!」

「100回!?」

 途方も無い数字にリリーナは逃げ出したくなったが、自身の護身のためだと思えば素振りを始めるのだった。回数を増すごとに汗も額から滴り落ちる。

「うんうん、私が不在の時も素振りなら自主練出来るからいつでもしてね」

「47、48、49、はいっ、51」

 素振りをしてる途中で話しかけられてもリズムを崩さずに返事をする。


 体幹がしっかりした姿勢が一切崩れない。


 背筋も伸ばして猫背になることなく、前を向き素振りの姿が美しい。


 エレンは感心しながら横でリリーナを見守り、他の男性の騎士たちも組み手をしている傍ら、初めてなのに全くリズムが崩れないリリーナの素振りをちらっちらっと見ているのだった。


「100っ!」


 縦の素振りの目標回数に達すると、リリーナは休憩を挟まずに突きの素振りに入ろうとすると、

「はいはい! 初めてだからそこでストップ!」

 エレンがリリーナの手首をガシッと掴んで止めた。

「変に間に休みを入れると却って疲労感が増します」

 それでも間髪入れずに突きの練習をしたいリリーナに、エレンはさらに強く手首を掴む。

「気持ちはわかる。けれど、初心者が最初から突っ走るものでもないわ。まさか本当に100回出来るとは思わなかったもの」

「え」

「初日にしては十分過ぎるくらいよ。あまりやりすぎると明日筋肉痛で動けなくなるわよ」

 それは困る、とリリーナは素直にレイピアを下に向けた。

「軽くストレッチをしてから休むようにして。本日の訓練はこれでお仕舞!」

「ありがとうございました」

 互いに向き合って礼をし、身体を起こすと、


 ゆらぁぁっ


 エレンの背後に何か幻影のような影がリリーナのライトグリーンにローズピンクが混じった瞳に映った。だが、一瞬でその影は消えたので、リリーナは、疲れかな、とさっさと訓練場から姿を消した。


「おい、見たか、あの魔女」

「見た。初日からあんなに振れないだろう、普通の女なら」

「やっぱり普通では無いんだろう」

「アレスフレイム様もご乱心だったからな」


 ヒソヒソと話し始める騎士たちを見かねて、


「コラァ!! 手を休めるな!!!」


 副団長の怒号が迸ったのだった。




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