表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第二章 王子と恋人
59/198

6−3

 リリーナに頼られただけでアレスフレイムは僅かしか得られなかった睡眠時間でも体力も気力も回復していった、魔法のように。

 眠る彼女にそっと口吻をし、その後自室に戻って眠ると朝を迎えた。

 赤い髪を掻きながら上半身を起こし、机で寝そべっているカジュの葉を見て、植物も眠るのか、と物音を立てずにベッドから降りると

「よう! もっと寝なくて平気か!?」

 と突然びゅんっと葉が飛び上がった。どうやらカジュはとっくに起きていたらしい。

「リリーナの様子はどうだ」

「あれから落ち着いてるけどよぉ。お前はどうなんだよ」

「騎士団長との会議もある。その前に解読結果をノインに確認したい。リリーナが落ち着いてるなら例の場所にも行こう」

「おいおいおいおい、朝飯食わないのかい?」

「時間が惜しい」

 手早く着替え、ジャケットを羽織ると窓を開き、

「カジュ、一枚よこせ」

「あいよ! お前も随分扱いが慣れてきたなぁ!」

 瞬間移動をしているくらいの速さで一枚の葉がアレスフレイムの指の間を目掛けて飛び、挟まった。

転移魔法(テレポート)

 唱えると忽ちアレスフレイムは自室から姿を消した。


「本当に窓が無い部屋だな。苔も居ないし」

 愚王が神の間と呼ぶ秘密の会議に使われる部屋に着くと、朝日に照らされないためカジュの葉たちがぽわっと光を灯した。

 愚王は朝が苦手、なのでアレスフレイムは早朝に侵入することを選んだ。

「さて、どこに潜んでもらうか」

「大テーブルの裏一択だな」

「頼んだ」

「あいよ!」

 カジュが自信満々に隠れ場所を選択し、しゅるりと舞いながらテーブルの裏へと身を潜めた。


 また転移魔法を唱えると、今度は執務室に移動をした。

「おはようございます、アレスフレイム殿下」

 一晩中手記の解読作業をしていたノインが椅子から立ち上がって礼をする。

「仮眠取るか」

「必要ございません」

「おいおいおいおい、二人して無理すんなよ」

 カジュの心配も我関せずで、ノインは対面式のソファー席に座り、手記と関係資料をローテーブルに広げた。向かい側にアレスフレイムが座り、横にカジュも浮かぶ。

「まず、このグリードフレア・ロナールは日記を書いていた当時は第二王子で、後に国王となった人物です。歴代の国王を記した資料によれば、推定2000年前に王に即位された方です」

「2000年前、フローラに関係する時代か」

 ノインは静かに頷き、続ける。

「ポエムと呼んでも良いくらい、彼女に対する情熱が綴られていました。前半は日々の国の様子や政治の愚痴などが書かれていて、特に戦争に繋がるような内容は全くありません。ですが、」

 ノインがしおりを挟んであったページを慎重に開く。

「リーフ帰城し、太陽の丘の魔女を地上へと降ろしけり。天女の如く美しく、声は小鳥のように澄み渡り、全ての者が彼女に心を奪われたり。美しき彼女と共に人生を歩むことを、ひと目見て誓う」

「太陽の丘の魔女?」

「フローラのことです。後に彼女をフローラと記しています。冒頭のリーフという男ですが、日記から推測すると第一王子でグリードフレアの兄にあたります。何日か前にリーフが迷いの森へ偵察に行ったと記してあります」

「迷いの森だと!?」

 それは現代も残る森。ハイレベルのモンスターが潜んでいたりと過去に愚王の軍を瞬殺で滅ぼしたりと今は人々から距離を置かれている。

「後にグリードフレアとリーフはフローラを巡って恋敵となったようです。グリードフレアとフローラが恋仲になったようですが、リーフが邪魔をすると恨んでるようでしたね。そして、世界中の男たちが彼女に魅了をされ、我こそはと取り合いになったと書いてあります」

「……………フローラを手に入れるための戦争か」

「恐らく。日記が書かれていたのはここまでで、王に即位をされたことなどについては書いてありませんでした」

「有り難う。良く分かった」

 アレスフレイムが立ち上がり、窓際に立って中庭を眺め、ノインはというと古い資料を傷付かせないようにと慎重に片付けている。

 すると、何かを複数の葉で包んだカジュの葉が窓の前にやってきて、アレスフレイムが開けてやると、二葉は皿となってテーブルの上に横になり、それぞれの上に拳二つ分程の大きさの橙色で艷やかな果実がゆっくりと置かれ、ピンと伸ばした葉がヘタを切り、役目を終えると葉たちは窓の外へと飛び立った。

「朝飯だ。皮ごと食えるぞ!」

 カジュの陽気な声に促され、もう一度アレスフレイムはソファーへと歩み、果実の前に座った。窓から差し込む朝日に照らされてキラキラと煌めき、増々瑞々しくて美味しそうだと思わず頬張りたくなる。

「いただきます」

「あいよ! 召し上がれ!」

 二人は軽く手を合わせて素手で果実を掴んでかぶりつくと、

「上手い!」

 と同時に舌鼓を打った。

「へっへ〜、そうだろそうだろ。リリーナの聖水のおかげでおいしさ倍増だぜ! おかわりもあるから遠慮無く言えよ」

「パッと見は果実など木に実らせていなさそうだが」

「葉の中に隠している。人間には滅多にあげたことは無いからな。葉と違って果実は無限に実らせられない」

 カジュと喋りながら半分を食べたところで

「そろそろアンティスに会う時間か。団長室に行ってくる」

 とアレスフレイムが立ち上がろうとするものだから、

「半分っきゃ食べてないじゃないか! 身体は資本って言うんだろ!? しっかり栄養取っておけよ」

 カジュは葉をくるくると回転させながらアレスフレイムに訴えるも彼は支度をし始めてしまう。

「……………リリーナの聖水で出来た果実なんだよなぁ。間接的にリリーナの手料理とも言える果実なんだけどなぁ」

 カジュがわざと呟くとアレスフレイムは再び着席し、果実を食べきった。

「行ってくる。ノインは執務を頼む」

「承知しました」

 急いで部屋を出るアレスフレイムの胸元にカジュがひゅるりとポケットに潜り、彼らは執務室を出たのだった。


「随分殿下の扱いに慣れたな」

 一人残ったノインはフッと穏やかに笑い、彼もまたカジュの実を全て平らげた。

「ご馳走さま。懐かしい味だった」

 すると皿になっていた葉がテーブルから浮かび、

「覚えていたのか!?」

「勿論」

 ノインが掌を上に向けて前に出すと、蝶のように葉がひらひらとさせながらノインの顔の前に飛んだ。

 魔法学校を首席で卒業をし、第二王子の専属騎士に就職出来たが、田舎出身で貴族の出ではないノインは当時理不尽な扱いを受けていたが、その時果実を与えたのがカジュだった。

「あの頃に比べてノインも大きくなったなぁ!」

「そんなに幼い頃からは居ないよ。あの時は本当に助けられた。有り難う。君と話せるようになって嬉しいよ」

 

 その日の執務室は朝日が差し込む中、穏やかな一日の始まりを迎えたのだった。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ