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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第二章 王子と恋人
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6−1 図書館、その奥へ

 いつもならベッドに入って眠っている時間だが、リリーナはうとうとしつつもつなぎ服のまま椅子に腰掛けて辛うじて起きていた。

「多分そろそろ呼ばれるんじゃないか、会議ってヤツが終わりそうだぞ」

「そう、ありがとう、カジュ」

 図書館から借りたガーデニングに関する書物を読んではいるが、瞼が重い。テーブルの上に居るカジュの葉と時折会話をし、眠気と戦っている。


 普段こんなに遅くまで公務をされているのね。


 アレスフレイムたちが自分のために時間を割いてくれると思えば眠くても意地でも起きていなくては、とリリーナは立ち上がって身体を動かしたりもしている。


 その時が来た。


「遅くなった、起きているか」


 カジュの声ではなく、アレスフレイムの声が葉から聞こえた。

「起きているわ」

 葉に向かって返事をする。

「今から図書館へ来れるか。正面入口ではなくて、城と図書館の間の脇道に。俺とノインはもう来ている」

「わかったわ。すぐに行きます」

 ふぅと息をついて立ち上がり、カジュの葉を胸ポケットに仕舞い、

転移魔法(テレポート)

 と静かに唱えると床に魔法陣が輝き、あっという間にリリーナの姿は消えたのだった。




「カジュ」

「ほいさ!」

 既に図書館の裏に到着をしていたアレスフレイムたちは、カジュに声をかけ、リリーナと連絡用以外の葉を呼び寄せ、ニ枚夜風に乗ってやってくると素早く掴んで胸ポケットに仕舞った。

 やがてすぐに近くに魔法陣が浮かび、つなぎ服のリリーナが現れた。

「よぉ、心の準備はいいか」

「大丈夫です」

「ハッ、そうこないとな」

 アレスフレイムは図書館の外壁の上を見上げると、太陽の絵が描かれたのを見つけ、その真下を目指して歩くと、

「王族と司書長しか入れない隠し扉がある」

 壁に身体を向け、両腕をリリーナとノインに伸ばした。ノインはすぐにアレスフレイムの片手首を掴み、そしてリリーナもそれを見てもう片方の手首を掴んだ。

「いいか、絶対に離すなよ」

 ぎゅっとアレのスフレイムも手首を掴み返し、足を壁に近付かせると、ぐにゃりと太陽の絵の下だけが歪み、三人は外壁を通り抜けたのだった。

 通り抜けると辺りは真っ暗。空気がひんやりとしている。

「今、明るくするために炎の魔法を使うから一旦手を離すぞ」

 とアレスフレイムが言うと、

「本が燃えたら悲惨だろ。任せろよ。あーらよっと」

 とアレスフレイムの胸元からカジュの葉が一枚ひらりと出てくると、パッと葉から淡い光を放った。

「光魔法か!?」

 ノインが驚くもカジュはなんてことなくヒラヒラと葉を踊らせている。

「植物は人間と逆で光魔法しか使えないことが多いんだよ。軽く明るくするだけなら詠唱しなくてもちょちょいのちょいよ。さ、先を急ごうぜ」

 周りは石壁で、たくさんの石が積み重なっていた。外から見たらそのようなことは無かったのに。

 石壁の細い通路をカジュ、アレスフレイム、リリーナ、ノインの順で一列に進む。やがて古いが重くて頑丈そうな茶色の扉に突き当たった。

「この扉も王族か司書長だけが開けられる。俺が開けたらすぐにノインから入ってくれ」

「畏まりました」

 アレスフレイムが慎重にドアノブに手を掛けて下げ、扉を開くと狭いが書庫が見えてきた。ノインが先に入り、リリーナとカジュも素早く入るとアレスフレイムが扉をゆっくりと閉めた。

「ここは………」

「隠れ書庫といったところだ。貴重な歴史的資料が置いてある」

 床は正方形の石が敷き詰められ、歩く度にコツンコツンと音が室内に反響する。

 リリーナは本棚を見ると、背表紙に何も書かれていない本ばかりが並んでいるのを見つけた。

「過去の国王の手記などが置いてある」

 リリーナの様子を見たアレスフレイムに説明され、

「2000年前のは」

 リリーナは尋ねてみると

「一応年代順に並んでいるはずだ。端の方から見てみよう。数字ぐらいなら読めるはずだ」

 アレスフレイムに提案され、リリーナたちは分担して本を探そうとしたが、カジュがひらりと舞い

「紙だって元植物さ。古い紙をオレが嗅いで見つけた方が早い」

「出来るのか。頼む」

 アレスフレイムはカジュに資料探しを託した。ひらひらと手早く本の前をカジュは一通り通り過ぎて行くと、

「2000年前が何故かない。1番古いのはこれだ、2500年前」

「そうか」

 不自然だな、と三人は考え立ち止まって悩んでいる中、カジュは淡い光を放ちながらくるくると部屋の中を回って飛んでいた。


 ん………?


 リリーナが一瞬壁に違和感を感じ、

「カジュ、そこの上の方、飛んでみて」

「あいよ!」

 カジュに天井の方を飛んでもらうと、外壁と同じ太陽の絵が小さく描かれていた。

「太陽が……!?」

「この下に隠し通路が」

 アレスフレイムもノインも目を見開いて驚き、絵の下へと集まった。

「この先は何があるかわからない。俺一人で行こう」

「何があるかわからないからこそ複数人で行くべきだわ」

 アレスフレイムは単独で行こうと提案するもリリーナに反対をされ、躊躇うも

「………わかった」

 と返事をし、再び壁の前に立ち、両腕を後ろへ伸ばすと、リリーナもノインも決心をして彼の手首と繋いだ。カジュもアレスフレイムの肩に捕まる。

「行くぞ」

 アレスフレイムが壁に足を突っ込むと壁が歪み、潜んでいた部屋へと彼らは通り抜けた。


 本棚も無い部屋だが、唯一あったのが中央に胸の高さぐらいの石台。しかし、上に何も置かれてなどいなかった。

「ッチ、これか」

 がらんとした隠し部屋を見てアレスフレイムは舌打ちをした。ノインも緊張で額から汗を流している。

「恐らくここにあった物が司書長からバカ親父の手に渡った。2000年前の手記だとしたら何故親父も探っているんだ…!?」

 悔しそうにも怒りを含ませながら空の石台の上部を握り拳でアレスフレイムは殴った。勿論、そのようなことをしても何も起きない。

「…………ジーブル様にカマをかけてみてはいかがでしょうか」

 腰巾着のジーブル。三大貴族の一つで国王派だ。国王の隣を常にキープし、胡麻擂りをしているところから腰巾着と影で呼ばれている。リリーナも隠れ令嬢なのもあり、その辺りの情報も知っている。

「カマをかけたのが親父の耳に入ったら不味い。エドガーなら知っているかもしれない。近い内に奴を見つけて聞いてみよう」

 ふぅとため息を漏らすと、アレスフレイムは再び皆を連れて壁を通り抜けた。

「まぁ次回また誰か探りに来るかもしれないから、オレの葉を隠しておこうぜ。それだけでも任務達成ってことで!」

 前向きなカジュの言葉に一同は少し笑顔を取り戻した。

「で、どこに隠れようかな?」

「本の間に挟む?」

「見つかった時に厄介だ。葉は古くない、俺が来たと勘付かれる」

「じゃあどこに?」

 一同が悩んでいると、下を向いていたノインが

「カジュ、石の下に隠れても大丈夫か? 潰されることになるけど」

「石に厚みが無かったらイケる。悠々と持ち上げられる程度なら余裕だ!」

「そうだな、石の下なら万が一見つかっても何も思われないだろう」

 アレスフレイムが部屋の角にしゃがんで床の石を持ち上げると、タイルのように薄く、簡単に持ち上がった。


 すると、その下にあったのはボロボロの古めかしい一冊の手記だった。




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