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裏庭の魔女  作者: 岡田 ゆき
第二章 王子と恋人
55/198

5−4

「薔薇の迷宮ってあの………!?」

 ノインは驚きながら辺りを見回した。

 茨の城、入っても奥には進めず何故か出入り口に戻されると言われる中庭に構える異質的なあの迷宮の中なのかと生唾も飲んだ。

 謁見の間のような空間の奥には全身が真っ白に輝く一輪の薔薇、そしてその横には赤い薔薇、前にはニ列に色取り取りの一輪薔薇が並んでいる。


「はじめまして、私はこの庭の主、白薔薇姫よ。会いたかったわ、アレスくん、前髪くん」


 にこやかなのは白薔薇姫のみで、周りの空気は凍りついた。

「その呼び方はやめろと言ったはずだが」

 アレスフレイムが明らかに苛つき、ノインも変なあだ名ではあったがそれよりも自分の主の怒りを鎮めたい思いに駆られた。

「あ〜ら、眠るリリーナターシャに無断でちゅーしたアレスフレイムと呼んだ方が良いかしら?」

「あ?」

 これはマズイ!!! とノインは咄嗟にずっと持ち続けていた紙袋を一旦置いて、背後からアレスフレイムの両脇に腕を伸ばして主の動きを抑えた。

「貴方ってカーテン締めないこと多いわよね〜。夜な夜なリリーナターシャのことを想いながらイケナイことをしたアレスフレイムって呼んだ方が良いかしら〜」

「このクソ薔薇、燃やしてやる!!!」

「落ち着いて下さい、殿下!!」

「姫様、彼のプライバシーを踏み躙ってはなりません!!」

 白薔薇姫の横では赤薔薇のナイトが茎を曲げて葉を伸ばし白薔薇姫を花弁を塞ごうとしている。

 すると一瞬で地面が水色に輝きながら辺りをひんやりとさせた。興奮した頭が冷やされるかのように。

「ふっ、おふざけはこれくらいにしておくわ」

「今のは貴様がやったのか」

「ええそうよ。今のは気持ちいい魔法だけど、地震を起こすことも出来るわ。私たちがその気になったら人間なんて一瞬で捻り潰せるのよ」

 ノインは衝撃的な一言に汗を流し、アレスフレイムを放して身構えたが、アレスフレイムは全く動揺などしていなかった。

「でもタブーなの。命を奪う行為をすれば、私たちの神様的存在がその穢を被り、命が削られていく。神様が命を落とせば世界の大地の死をもたらす。私たちはなるべくならひっそりと平穏に過ごしたいわけよ」

「彼女の中に潜む魔女フローラが平穏を奪う危険性があるのか」

「御名答。話が早いわ」

 ノインはまだフローラの存在について何も知らされていなく、緊張した様子で黙って聞いていたが

「あとで説明をする」

 アレスフレイムが察してノインに一言述べた。

「教えて欲しい、魔女フローラは消すべき対象なのか」

「そうね。正確に言えばリリーナターシャから追い出すのが目標よ」

「どうすればいい」

「私たちにもわからないわ。それが出来るのは恐らくリリーナターシャだけね。私たちがするべきことは、フローラが彼女の身体を乗っ取ることを全力で止めることよ」

「乗っ取るだと……!?」

「フローラの魂が彼女の中に棲み着いたのであって、肉体はそこには無い。フローラが蘇ろうとするならば、リリーナターシャの身体が必要になるの」

「魔女フローラは蘇って何をするつもりなんだ」

「わからないわ。何故2000年の間何もせず、忽然とリリーナターシャの元へ棲み着いたのか。ただ、あの子が悪夢を見ることが唯一フローラの深層心理に接触が出来る。リリーナターシャだけがフローラに問いただすことが可能なのよ」

「だが、俺は彼女に悪夢で苦しませたくない」

「気持ちは痛い程よくわかるわ。だけど、あの子が経験値を積むことで悪夢を“見れる”ようになったのよ。ただ黙って静かにフローラに蝕まれるのではなく、歴代最強にして最悪の魔女フローラに近付く力をあの子が養ってきた証なの」

「……………」

「そして貴方は彼女と魔女との長時間の接触を途中で断ち切らせる力がある。だから私たちは貴方を絶対に失ってはいけない存在として庇護しているの。リリーナターシャがフローラの深層心理に近付けるようになったのも貴方との出会いがきっかけですもの」

「……………」

「アレスフレイム、落ち着いて聞いて欲しいことがあるわ。この件について一番の大きな問題点よ」

「これ以上信じられない内容なんてあるのか」

 白薔薇姫はゆっくりと花弁を垂らして息を吐き、再び上げて吸うと


「リリーナターシャは身体から魔力が無くなるくらいならフローラに乗っ取られることを望んでいる」


 アレスフレイムもノインも驚愕し、アレスフレイムに関しては未だかつてない程目を見開いた。

「お願い、アレスフレイム。あの子に、魔力が無くても生きる素晴らしさ、かけがえのなさを教えてあげて。フローラが完全に目覚めようとするその時までに」

「ああ、約束する」

 何としても守りきる。アレスフレイムは拳を握り締めて薔薇の迷宮で固く誓った。

「貴方、今晩図書館へ行くの?」

「そのつもりだが」

 本当に色々筒抜けなのだなとアレスフレイムは眉をぴくりと動かした。

「カジュ」

 白薔薇姫が名を呼ぶと、一瞬で一枚の葉が目にも留まらぬ速さで舞い込んできた。執務室に来たあの葉だ。

「姫様、呼んだかい!?」

「彼はカジュ。庭に葉を落とす大きな木があるでしょ? 葉は彼の分身。最近あの辺で妙な動きがあるから、館内の秘密部屋に葉を隠してきてちょうだい。そうすればその周辺は常にカジュが監視することが出来るから」

「わかった。もう一枚貰うことは出来るか」

「勿論。カジュ、差し上げて」

「いいぜ」

 するとまた瞬時にもう一枚、葉が薔薇の迷宮に舞い込んだ。アレスフレイムが二枚の葉を指で掴む。

「もう一枚はどこに?」

 ノインが聞くと

「クソの間だ」

 とアレスフレイムが答え、ノインはすぐにはわからなかったが、国王が密かに開く会議に使われる部屋だと理解した。

「植物に頼みたいことがある、良いか」

「良いわよ。聞いてあげる」

 ふふっと上機嫌に白薔薇姫はアレスフレイムの依頼を待った。

「各国の国境の警備を頼めるだろうか。特にゲルーからの侵入について見落としたくない」

「手出しは出来ないけれど、知らせだけなら構わないわ」

「充分だ」

「では、私からの頼み事もお願い出来るかしら」

「何だ」

 白薔薇姫はゆっくりと前のめりになり、アレスフレイムたちに顔を近付けるように花弁を垂れる。


「リリーナターシャに魔法以外で人を殺せる力を身に着けさせて欲しい」


「なっ!」

 突拍子もない頼み事にノインはすぐに動揺したが、アレスフレイムは黙って白薔薇姫の真意について考えていた。

「…………わかった」

 落ち着いた声でアレスフレイムが返事をするも、ノインはまだそわそわとアレスフレイムと白薔薇姫に交互に視線を向けていた。

「ありがとう。あら、そろそろあの子が来そうだわ」

 リリーナの動きを察知すると、

薔薇ノ転送(ロサ・ディーヴィ)

 と唱え、薔薇の魔法陣を浮かばせた。

「他にもまだ話したいことがあるけれど、送るわ。さ、入っちゃって」

 ノインが置きっぱなしにしていた紙袋を持ってさっと手で払って魔法陣に近寄ろうとしたが、

「断る。このまま彼女を待つ」

 アレスフレイムは動こうとはしなかった。

「あら、私たちが一緒に居たらあの子驚いちゃうんじゃない?」

「フン、あの女がそう簡単に動揺するかよ」


 外はすっかり夕闇に染まり、リリーナの漆黒のつなぎが闇夜に溶けた。

 サッサッと芝を踏む音が近付いて来る。


「失礼します」


 澄んだ声が中まで聞こえ、彼女の来る方を皆で見つめていると


「よっ、先に邪魔しているぞ」


 アレスフレイムから先に声をかけると、リリーナは動揺では無く、眉間にしわを寄せて若干嫌そうな顔を見せた。




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